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海が呼んだ話

时间: 2022-10-17    进入日语论坛
核心提示:海が呼んだ話小川未明一 自転車屋(じてんしゃや)のおじさんが、こんど田舎(いなか)へ帰(かえ)ることになりました。清吉(せいき
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海が呼んだ話

小川未明


 自転車屋(じてんしゃや)のおじさんが、こんど田舎(いなか)(かえ)ることになりました。清吉(せいきち)や、正二(しょうじ)にとって、(した)しみの(ふか)いおじさんだったのです。三輪車(りんしゃ)修繕(しゅうぜん)もしてもらえば、ゴムまりのパンクしたのを(なお)してもくれました。また、その(いえ)(ゆう)ちゃんとはお(とも)だちでもありました。おじさんは、(いぬ)や、ねこが()きでした。いい(ひと)というものは、みんな()(もの)をかわいがるとみえます。
 (ゆう)ちゃんは、こんど田舎(いなか)小学校(しょうがっこう)()がるといいました。
(ゆう)ちゃん、田舎(いなか)へいくのうれしい?」
「お(とも)だちがなくて、さびしいや。(ぼく)も、お(かあ)さんも、いきたくないんだよ。」
「どうして、田舎(いなか)へいくの。」
「おじいさんが、だんだん(とし)をとって、もう一人(ひとり)田舎(いなか)におくことができないからさ。おじいさんは、東京(とうきょう)へくるのは、いやだというのだ。そして、(むかし)から()んでいるところにいたいというので、しかたなくお(とう)さんが、(かえ)ることにしたのだよ。」
 (ゆう)ちゃんの(はなし)()いて、清吉(せいきち)も、正二(しょうじ)も、(ゆう)ちゃんのお(とう)さんを親孝行(おやこうこう)だと(おも)いました。
「この(いえ)へは、親類(しんるい)叔父(おじ)さんが(はい)るのだから、(ぼく)、また(あそ)びにくるよ。」と、(ゆう)ちゃんはいいました。
叔父(おじ)さんのお(うち)は、どこにあるの。」と、正二(しょうじ)が、()きました。
叔父(おじ)さんの(いえ)は、ここから二十()もあちらの(はま)なんだ。たいだの、さばだの(あみ)にかかってくるって、(ぼく)のお(とう)さんが、いった。」
「その叔父(おじ)さんは、また自転車屋(じてんしゃや)をやるの。」と、清吉(せいきち)がたずねました。
「さあ、それはわからないな。」
 (ゆう)ちゃんの(はな)しぶりでも、(とお)(はま)から、(まち)()てくるには、なにか子細(しさい)があるように(かん)じられたのです。しかし、そのわけは、わかりませんでした。ただ、にぎやかな(まち)から、さびしい田舎(いなか)(かえ)るものと、また、ひろびろとした(うみ)生活(せいかつ)から、せまくるしい(まち)へやってこなければならぬものと、人間(にんげん)の一(しょう)()らしには、いろいろの変化(へんか)があるものだと、子供(こども)たちにも、(かん)ぜられたのでした。
 (ゆう)ちゃんの(いえ)が、田舎(いなか)()()してしまってから、しばらく、自転車屋(じてんしゃや)のあとは、()()になっていました。
「いつ、(ゆう)ちゃんの叔父(おじ)さんは、()()してくるんだろうな。」と、正二(しょうじ)も、清吉(せいきち)も、()まっている(いえ)(まえ)(とお)るたびに、()()きながら(おも)いました。そのうちに大工(だいく)(はい)って、(みせ)模様(もよう)()えたり、こわれたところを(なお)したりしていましたが、それができあがると、いつのまにかこざっぱりとした、乾物屋(かんぶつや)になりました。そして、チンドン()などがまわって、開店(かいてん)披露(ひろう)をしたのであります。
 海産物(かいさんぶつ)のほかに、お(ちゃ)(たまご)()っていました。おじさんというのは、まだ(わか)く、やっと三十をこしたくらいに()えました。それにひとり(もの)で、いつも(みせ)にさびしそうにすわっていました。
「おじさん。」といって、清吉(せいきち)や、正二(しょうじ)や、ほかの子供(こども)たちが、じきに(あそ)びにいくようになったのも、一つは、(ゆう)ちゃんの叔父(おじ)さんだったというので、まったく他人(たにん)のような()がしなかったからでもありましょう。
 なんでも(めずら)しいことを()りたがる子供(こども)たちは、この(みせ)へやってくると、
「おじさん、(うみ)(はなし)をしてよ。」といいました。
「は、は、は。」と、無口(むくち)のおじさんは、(わら)っています。
「おじさんは、(うみ)(そこ)(はい)ったことがある?」と、正二(しょうじ)が、()きました。
「は、は、は。(うみ)(なか)へは、毎日(まいにち)のように(はい)ったし、(ちい)さな(ふね)()って、(とお)くへ()りにいったこともある。」と、おじさんが、(こた)えました。
(しょう)ちゃん、おじさんは、(うみ)へくぐるのが、名人(めいじん)だって。そして、さんごや、いろんな(かい)や、(さかな)など、なんでも()()ってくることができるんだって、いつか(ゆう)ちゃんがいったよ。」と、清吉(せいきち)がそばからいいました。
「え、おじさん、ほんとう?」
「うん、ほんとうだ。」
(うみ)(なか)、どんなだい。(うつく)しい? (みず)(なか)では、(いき)ができないだろう。」
(ふね)から、機械(きかい)空気(くうき)(おく)るんだねえ、おじさん。」
「そうなんだよ。(うみ)(なか)は、(あか)るくて、きれいさあ。」と、おじさんが、(こた)えました。
「どんなに、きれい?」
「そうだな、青白(あおじろ)く、ぼうっとして、ちょっと(くち)にはいえないなあ。」
「いろんな(さかな)(およ)いでいるの。」
「うん、(うえ)(ほう)には、くらげが、(かさ)のような(かたち)をして、(およ)いでいるし、すこし(した)岩陰(いわかげ)には、たこが腕組(うでぐ)みをして、(かんが)()んでいるしな。もっと(した)(ほう)へいくと、(あか)(さかな)だの(あお)(さかな)だのいろいろのやつが、まるで(はやし)(なか)をくぐるように、()(あいだ)をいったり、きたりしているのだ。」
「ふうん、きれいだな。水族館(すいぞくかん)へいってみたようなんだね。」
水族館(すいぞくかん)って、まだ()たことがないが、たぶん(おな)じものだろうよ。」
「おじさん、それでも、(うみ)よりか、(まち)のほうがいいの?」
「それは、(うみ)のほうがいいさ。」
「そんなら、なぜ、(まち)()してきたの?」
 こう、子供(こども)たちが()うと、おじさんは、それには(こた)えずに、ただ、さびしそうに、(わら)っていました。
 (ゆう)ちゃんの叔父(おじ)さんは、(とし)(わか)く、口数(くちかず)(すく)なかったけれど、まじめでありましたから、(まち)(ひと)たちもだんだんこの(みせ)をひいきにするようになりました。


 ある()のこと、清吉(せいきち)のお(とう)さんは、(ゆう)ちゃんの叔父(おじ)さんが、(うみ)生活(せいかつ)をやめて、こちらへくるようになったわけを、(ほか)から()いてきたのであります。
清吉(せいきち)、こんな(はなし)は、あまり(ひと)にするでないぞ。お(とう)さんが、あるところで()いてきたのだからな。」
(おそ)ろしい(はなし)?」
(せい)ちゃん、だまって、()いていらっしゃい。」と、そばから、(ねえ)さんがいいました。
「ある()のこと、沖合(おきあ)いで、汽船(きせん)衝突(しょうとつ)して、一そうは(しず)み、ついに行方不明(ゆくえふめい)のものが、八(にん)あったそうだ。あの(ひと)は、(うみ)へくぐる名人(めいじん)だってな。それで、たぶんその(ふね)といっしょに(しず)んでしまったのだろうから、(なか)(はい)って、死骸(しがい)をさがしてくれと(たの)まれたのだ。」
「あのおじさん、(はい)ったのかい。」
「だれも、(そこ)(ふか)いし、気味悪(きみわる)がって、いい返事(へんじ)をしたものがないのを、あの(ひと)は、一人(ひとり)(はい)ったのだ。」
「えらいなあ。」
「えらいとも。」
「いいから、(せい)ちゃん、だまって()いていらっしゃい。」と、お(ねえ)さんが、またいいました。
「あの(ひと)は、()りていって、船室(せんしつ)(うち)(はい)って、さがしたそうだ。けれど、一人(ひとり)死体(したい)()つからない。おかしいなと(おも)ったが、()がってそのことを報告(ほうこく)した。すると、いやそんなはずはない。(ふね)といっしょに(しず)んだのだから、船室(せんしつ)(うち)にいるに相違(そうい)ないというので、あの(ひと)は、また(うみ)(そこ)へもぐったのだ。」
(おそ)ろしいなあ、おじさん、気味(きみ)(わる)くなかったろうか。」
()つかったんですか。」と、いっしょに、お(とう)さんの(はなし)()いていらしたお(かあ)さんが、いいました。
「また、船室(せんしつ)(はい)って、すみからすみまで、懐中(かいちゅう)ランプで()らして、さがしたけれど、やはり一人(ひとり)死体(したい)()つからない。まったくおかしなことがあるものだと(おも)って、あきらめて()ようとしたとたん、ちょっと(うえ)()ると、八(にん)死体(したい)が、ぴったりと(てん)じょうについて、じっと自分(じぶん)(ほう)見下(みお)ろしていた。このときばかりは、さすがに、あの(ひと)もぎょっとして、もうすこしで(うし)ろへひっくり(かえ)りそうになった。それから、潜水業(せんすいぎょう)というものが、いやになって、(おか)()らしたいという()()こったという(はなし)なんだよ。」
 お(とう)さんの(はなし)は、()わりました。
 ()いていたお(かあ)さんも、お(ねえ)さんも、清吉(せいきち)も、
「そうだったでしょうね。」と、そのときの、おじさんの気持(きも)ちに、同情(どうじょう)されたのでありました。
 清吉(せいきち)は、このことを、おじさんの(みせ)(あそ)びにいっても、けっして、(くち)にはしなかった。おじさんが、そのときのことを(おも)()すと(わる)いと(おも)ったからです。


 自転車屋(じてんしゃや)(あと)乾物屋(かんぶつや)ができてから、二か(げつ)ばかりたつと、(ゆう)ちゃんの叔父(おじ)さんは、不思議(ふしぎ)病気(びょうき)にかかりました。それは、ふいに原因(げんいん)のわからぬ(ねつ)()て、手足(てあし)がしびれてきかなくなるのでした。とりわけ、西(にし)(そら)夕焼(ゆうやけ)けをする、日暮(ひぐ)(がた)(ねつ)()るというのであります。そして、近所(きんじょ)医者(いしゃ)()てもらったけれど、なんの病気(びょうき)かわからないというのでした。このことが、また近所(きんじょ)のうわさになったのです。
(ゆう)ちゃんの叔父(おじ)さん、きょう病院(びょういん)へいったよ。」と、正二(しょうじ)が、いいました。
 清吉(せいきち)正二(しょうじ)は、学校(がっこう)(かえ)りに、乾物屋(かんぶつや)(まえ)(とお)ると、おじさんが、(みせ)にすわっていました。二人(ふたり)は、(はい)ってそばへ(こし)かけました。
「おじさん、顔色(かおいろ)がわるいね。」
病院(びょうういん)へいって、()てもらってきたの?」
 おじさんは、二人(ふたり)子供(こども)(かお)()(わら)いながら、
(うみ)が、おれを()ぶんだよ、子供(こども)時分(じぶん)から、(みず)をもぐってきたものが、(おか)()がりきってしまうと(からだ)がきかなくなって(おそ)ろしいことだな。」
「そんなら、おじさん、また(うみ)(かえ)るの。」
「ああ、(うみ)(かえ)って、もぐりたくなった。そうすれば、(からだ)もじょうぶになるということだ。そうしたら、二人(ふたり)とも(あそ)びにきな。(はま)(かぜ)があって、(なつ)(すず)しいぜ。えびでもたこでも、(あたら)しい(さかな)()べさせるから。」
「おじさん、このお(みせ)はどうするの。」
「この(いえ)か、また(まえ)(ひと)たちがきて(はい)るだろう。やはり、(きゅう)(まち)から、田舎(いなか)へいっても()らしが()たないのだよ。」と、おじさんが、いいました。
「そんなら、また、(ゆう)ちゃんと(あそ)べるんだね。」と、正二(しょうじ)は、にっこりしました。(みせ)()ると、
(ぼく)、おじさんに(わか)れるの、(かな)しいや。」と、清吉(せいきち)は、(ある)きながら、正二(しょうじ)をかえりみて、いいました。
 とんぼが、()んでいました。

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