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トム吉と宝石(1)

时间: 2022-11-28    进入日语论坛
核心提示:トム吉と宝石小川未明遠とおい、あちらの町まちの中なかに、宝石店ほうせきてんがありました。ある日ひのこと、みすぼらしいふう
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トム吉と宝石

小川未明


とおい、あちらのまちなかに、宝石店ほうせきてんがありました。
あるのこと、みすぼらしいふうをしたむすめがきて、
「これを、どうぞっていただきたいのですが。」
といって、ちいさな紙包かみづつみのなかから、あかうおのように、うつくしくひかいしのはいった指輪ゆびわしてみせました。
ちょうど、主人しゅじん留守るすで、トムきちにとってながめますと、これほど、しょうのいいルビーは、めったにたことがないとおもいましたから、しばらく感心かんしんして、てのひらにのせてながめていました。
むすめは、小僧こぞうさんが、なんというだろうかと、さも心配しんぱいそうなかおつきをしていました。
(もし、これが、いいれなかったら、病気びょうきおとうとをどうしたらいいだろう。そればかりでない、明日あすからわたしたちはべてゆくことができないのだ。)
と、いろいろおもっていたのです。
「この指輪ゆびわを、どこでおもとめでございましたか。」と、トムきちは、たずねました。
すると、むすめは、正直しょうじきにその指輪ゆびわについてはなしたのです。
「それは、なれたおかあさんが、お祖母ばあさんからもらって、大事だいじになさっていたのを、おくなりなされる時分じぶんゆびからぬいて、これはいい指輪ゆびわだから、よほどのときでなければ、はなしてはいけないとおっしゃって、わたしにくださったものです……。」
と、むすめは、いまの不自由ふじゆうをしていることまで、物語ものがたりました。
トムきちは、だまって、むすめさんのいうことをきいていましたが、
「じゃ、おとうとさんがご病気びょうきで、この大事だいじになさっている指輪ゆびわをおりなさるというのですか。」
と、たずねました。
むすめは、かなしそうに、にいっぱいなみだかべながら、うなずきました。
「いや、まことにけっこうないしです。」
といって、トムきちは、真物ほんもの相場そうばどおりに高値たかねったのでした。
むすめは、いい指輪ゆびわれたので、たいそうよろこんで、これもおかあさんのおかげだとおもって、はやくおとうと治療ちりょうをするためにりました。ちょうど、それとれちがいに、主人しゅじんがもどってきました。
トムきちは、主人しゅじんかおると、
「こんなしょうのいいルビーがました。」
といって、むすめからった指輪ゆびわせたのであります。主人しゅじんは、眼鏡めがねをかけてていましたが、
「なるほど、めずらしい、たいした代物しろものだな。」と、微笑ほほえみながら、
「これを、いくらでったか。」と、たずねました。
いつも、こうした取引とりひきにかけては、万事ばんじ自分じぶんまねていて、ぬけめがないとはおもいましたが、ねんのためにきいたのでした。
しかし、トムきちが、真物ほんものどおりの相場そうばで、正直しょうじきったとると、たちまち、主人しゅじんかお不機嫌ふきげんわって、おこしました。
「いま、ていったあのむすめだろう。あんな素人しろうとをごまかせないということがあるもんか。みんな、おまえが、商売しょうばい不熱心ふねっしんだからだ。」
といって、しかりました。
いったい、宝石ほうせきばかりは、のあかるいひとでなければ、真物ほんものか、偽物にせものか、容易ようい見分みわけのつくものでありません。また、しょうのいいわるいについてもおなじことです。だから、不正直ふしょうじき商人しょうにんになると、そこをつけこんで、いいしなでもわるいといって、やすい、わるいしなでもいいといって、たかったりして、もうけるものです。
トムきちは、こうした、がったことをする主人しゅじん使つかわれていましたが、かわいそうなむすめのようすをたり、また、そのはなしをきくと、真物ほんもの偽物にせものといってごまかされなかったばかりでなく、指輪ゆびわって、おとうと病気びょうきくしようというやさしいじょう感心かんしんせずにはいられなかったのでした。
しかし、この正直しょうじきであったことが、わざわいとなって、
「おまえみたいなばかものは、わたし留守るすのときには、なんのやくにもたつものでない。」
といって、ついにトムきちは、ひまされてしまいました。
わたしにも、やさしいねえさんがあるのだ。」
といって、トムきちは、このまちって、ごく自分じぶんちいさい時分じぶんにいたことのあるまちして、旅立たびだちをしたのであります。
かれは、途中とちゅうで、自分じぶんおなとしごろのおとこみちづれになりました。砂漠さばくしての、ながい、ながい、たびでありますから、二人ふたりは、いつしかちとけてしたしくなり、たがいのうえなどをはなうようになりました。この若者わかものも、これから、なにかしら仕事しごとをして、成功せいこうしようという希望きぼういだいていました。
あおくさもない、単調たんちょう砂漠さばくなかあるいてゆくときでも、二人ふたりはなしはよくって、べつに退屈たいくつかんずるということがなかったのです。また、はげしい太陽たいようひかりらされて、なんでも黄色きいろえるようなでも、二人ふたりかたっているときは、こころなかすずしいかぜいたのであります。
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