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春になる前夜(1)

时间: 2022-12-08    进入日语论坛
核心提示:春になる前夜小川未明すずめは、もう長ながい間あいだ、この花はなの国くににすんでいましたけれど、かつて、こんなに寒さむい冬
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春になる前夜

小川未明


すずめは、もう長ながい間あいだ、この花はなの国くににすんでいましたけれど、かつて、こんなに寒さむい冬ふゆの晩ばんに出であったことがありませんでした。
日ひが西にしに沈しずむ時分じぶんは、赤あかく空そらが燃もえるようにみえましたが、日ひがまったく暮くれてしまうと、空そらの色いろは、青黒あおぐろくさえて、寒さむさで音おとをたてて凍いて破われるかと思おもわれるほどでありました。どの木きのこずえも白しろく霜しもで光ひかっています。ものすごい月つきの光ひかりが一面めんに、黙だまった、広ひろい野原のはらを照てらしていたのでありました。
すずめは、一本ぽんの枝えだに止とまって、この気味悪きみわるい寒さむい夜よるを過すごそうとしていたのです。そのとき、ちょうど下したの枯かれた草原くさはらを、おおかみが鼻はなを鳴ならしながら通とおってゆきました。
山やまにも、沢さわにも、もはや食たべるものがなかったので、おおかみはこうして飢ひもじい腹はらをして、あたりをあてなくうろついているのです。すずめはそれを毎夜まいよのように見みるのでした。おおかみも今夜こんやは寒さむいとみえて、ふっ、ふっと白しろい息いきを吐はいていました。そして、氷こおりの張はった水盤すいばんのような月つきに向むかって、訴うったえるようにほえるのでありました。
すずめは、さすがのおおかみもやはり、今夜こんやはたまらないのだと思おもって、黙だまって下したを見みていますと、おおかみは、急きゅうに腹はらだたしそうに、もう一度ど高たかい声こえで叫さけびをあげると、荒野あれのを一目散もくさんに、あちらへと駆かけていってしまったのです。すずめはしばらく、その後うしろ姿すがたを見送みおくっていましたが、いつかその姿すがたは、白しろいもやの中なかに消きえて見みえなくなりました。
すずめは、もうこれから、長ながい夜よをなんの影かげも、また声こえも聞きくことがないと思おもいました。どうか、今夜こんやを無事ふじに過すごしたいものだと思おもって、じっとして目めを閉とじて眠ねむる用意よういをしたのです。しかし、寒さむくて、いつものように、どうしてもすぐには眠ねつくことができませんでした。
そのうち、急きゅうにあたりがざわざわとしてきました。驚おどろいて目めを開あけて見みまわしますと、いままで、さえていた月つきの面おもてには、雲くもがかかって北西ほくせいの方ほうから、寒さむい風かぜが吹ふいてくるのでした。すずめは、いよいよ天気てんきが変かわると思おもいました。
北国ほっこくには、こうして、掌てのひらの裏うらを返かえさないうちに、天気てんきの変かわることがあります。
このとき、ここに哀あわれな旅楽師たびがくしの群むれがありました。それは年寄としよりの男おとこと、若わかい二人ふたりの男おとこと、一人ひとりの若わかい女おんならでありました。この人々ひとびとは、旅たびから、旅たびへ渡わたって歩あるいているのです。そして、この荒野あれのを越こして山やまをあちらにまわれば、隣となりの国くにへ出でる近道ちかみちがあったのです。もうこちらの国くにも思おもわしくないとみえて、その人ひとたちは、隣となりの国くにへゆこうとしたのでしょう。そして、道みちを迷まよって、こんな時分じぶんに、ようやくここを通とおるのでありました。
みんなは、うすい着物きものしかきていません。また、それほどいろいろのものを持もっている道理どうりとてありません。まったく、貧まずしい人ひとたちでありました。
みんなはたがいに慰いたわり合あいながら、月つきの光ひかりを頼たよりに歩あるいてきましたが、このとき、ちら、ちら、と雪ゆきが降ふってくると、もはや、一歩ぽも前まえへは進すすめなかったのです。
「ああ、とうとう雪ゆきになってしまった。」と、一人ひとりの男おとこが、ため息いきをもらしていいました。
「私わたしたちは、今夜こんやは、野宿のじゅくをしなければならないでしょうね。」と、若わかい女おんなが、頼たよりなさそうにいいました。
「野宿のじゅくをするにしても、この雪ゆきではねるところもないだろう。」と、ほかの男おとこがいいました。
四人にんのものは、転ころげるばかりに、疲つかれと、不安ふあんとで、もはや前まえへ踏ふみ出だす勇気ゆうきもくじけていたのです。
雪ゆきは、ますます降ふってきました。そして、たちまちのうちに、木きを、丘おかを、林はやしを、野原のはら一面めんを、真まっ白しろにしてしまいました。月つきの光ひかりは、おりおり雲間くもまから顔かおを出だして、下したの世界せかいを照てらしましたけれど、その光ひかりを頼たよりに歩あるいてゆくには、あたりが真まっ白しろで、方角ほうがくすらわからなかったのであります。
「おじいさんは、あんなに疲つかれていなさる。」と、先さきになっていた一人ひとりがいって、振ふり向むいて立たち止どまりました。すると、ほかのものも等ひとしく立たち止どまって、みんなから遅おくれがちになって、とぼとぼと歩あるいていた年寄としよりを待まつのでありました。
「ああ、みんなのもの、もう急いそいだってしかたがない。何事なにごとも運命うんめいだ。私わたしたちが道みちを迷まよったのも、またこうして雪ゆきが降ふってきたのも、みんな運命うんめいだとあきらめなければならない。この雪ゆきでは、夜道よみちもできないだろう。そして、いつおおかみや、くまに出であわないともかぎらない。せめて、ここにある酒さけでもみんなして飲のんで、唄うたい明あかそうじゃないか。」と、おじいさんはいいました。
「ほんとうにおじいさんのいいなさるとおりだ。私わたしたちは、長ながい間あいだ、仲なかよくして、諸国しょこくを歩あるきまわってきたのだ。最後さいごまで、おもしろく、いっしょに死しのうじゃないか。」と、若わかい男おとこの一人ひとりがいいました。
「わたしは、悲かなしい。しかし、いまはどうすることもできません。すべての希望きぼうを捨すててしまいます。」と、女おんなは涙なみだながらにいいました。
「ああ、泣なくでない。若わかい女おんなや、若わかい男おとこが、このまま死しんでどうするものか、きっとすぐに生うまれ変かわってくる。私わたしのいうことを疑うたがうじゃない!」と、おじいさんはいいました。
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