鉄輪(かんなわ) (大分県別府市)
鉄棒を地中に埋め、いたずらをした源為朝
大分県別府市は、九州の北東部、瀬戸内海に接する大分県東海岸のほぼ中央に位置している。南部は高崎山をへだてて大分市と隣接し、北部は国くに東さき半島と接する。また、西部は阿あ蘇そ国立公園に属する由ゆ布ふ岳だけと鶴見岳を中心にして、南北に半円に連なる鐘しよう状じよう火山に囲まれ、その裾野は別府湾につづいている。
そして別府といえば、なんといっても有名なのが温泉だ。市内には、古くから「別府八湯」と呼ばれる温泉群が点在し、地元民はもちろん、全国各地から訪れる大勢の観光客にも親しまれている。
この別府温泉について記されている最古の書物は『豊ぶん後ごの国くに風ふ土ど記き』で、そのなかに、赤あか湯ゆの泉いずみ、玖く倍べ理り湯ゆの井い、河かわ直なお山やまなどの地名がみられる。これらの河直一帯が、現在の鉄輪地区ではないかといわれている。
ところで、この鉄輪地区の「鉄輪」という地名の由来だが、かつて杵き築つきにすむ「生地の玄げん番ば」という豪族にあるとされる。彼は温泉が好きで、一日に一度は必ず入湯していた。その際には、大きな鉄棒を杖代わりにもち歩いていたのだが、ある日、彼が入湯中に通りかかった源為ため朝ともが、悪ふざけで鉄棒を地中に埋めてしまったという。
湯から上がった玄番は、鉄棒がないのに気付いて探したものの、なかなか見つからず、夕方になってようやく鉄棒を見つける。そして、「これは為朝のしわざに違いない!」と、大いに腹を立てて鉄棒を引き抜いたところ、抜けた穴から新しい湯が噴き出したという。この言い伝えから、鉄輪という地名が誕生したそうだ。
玄番も入ったという鉄輪温泉は、鎌倉時代に一いつ遍ぺん上しよう人にんが旅の途中で立ち寄り、念仏を唱えるなどして猛たけり狂う大地獄を鎮め、「蒸し風呂」「熱の湯」「渋の湯」などをつくって、衆しゆ生じよう済さい度どの温泉保養地としたことが起源となったといわれる。