田舎の電車とはいえ、一応朝のラッシュ時である。武正駅でほぼ座席は埋まってしまい、二つ目以降の駅で乗る人はみな立つことになる。通勤や通学の人間がほとんどなので、なんとはなしにそれぞれの定位置があって、お互いに言葉こそ交わさないが、その時間のその車輛での顔見知りといった関係になる。
が、どんなに混雑していても、上鯖江まで空いている座席があった。二両目の真ん中あたり。そこが少年を背負ってくる母親の定位置なのである。はじめのうちは、乗ってくるたびに誰かが席を譲っていたのだろう。が、そこに乗り合わせる人たちの暗黙の了解みたいのものがいつのまにかできて、どんなに込み合ってもその席には座る人はいなかった。
座席の色が違うわけでもない。「お年寄りや体の不自由な人に席を譲りましょう」そんなシールがでかでかと貼ってあるわけでもない。お互いに名前も知らない。何をしているのかも知らない。けれど一日の中のある時間を共有している。そこから生まれた不思議なつながり。そこから生まれたシルバーシート。
高校を卒業してから七年になる。ある電車に乗り合わせる人々の顔ぶれもずいぶん変わったことだろう。今でも上鯖江まで、あそこの席は空いているのだろう。二両目の真ん中あたり。
1、「乗り合わせる人たちの暗黙の了解みたいのもの」とあるが、どういうことか。
①どんな混雑していても、上鯖江まで空いている座席があったこと。
②そこが少年を背負ってくる母親の定位置であること。
③お年よりや体の不自由な人に席を譲ること。
④少年を背負ってくる母親が上鯖江から乗ってくること。
2、誰と誰が「お互いに名前も知らない」のか。
①その電車に乗る人たち
②親子と筆者
③筆者とその電車に乗るほかの人たち
④親子とその電車に乗るほかの人たち
3、「そこ」とは何を指しているか。
①武正始発の電車
②上鯖江まで空いている座席
③一日の中のある時間を共有していること
④上鯖江という駅
4、「筆者の高校時代の通学電車」について、この文章から分かることは何か。
①朝のラッシュ時、通勤や通学の人間がほとんどである。
②二つ目以降の駅で乗る人はみな立たなければならない。
③少年を背負ってくる母親が上鯖江から乗ってくるたびに、誰かが席を譲っていた。
④どんなに混雑していても二両目の真ん中にあたりも席がいつまでも空いている。