初级阅读（266）

　なくなった妻が入院していた病院で、私は「気が利く」ということの重要性をつくづく学ばされた経験がある。

　がんが手遅れになってしまい、もはや死が避けられない状態になった妻は、個室に移った。そこで、ある看護婦さんに来てもらいたい、と妻がしきりに言うようになった。

　「看護婦の仕事にはローテーションがあるから、特定の人だけに来てもらうわけにはいかない。わがままを言ってはダメだよ」

　私が言うと、妻は「分かっているけど」と言いながらも、その一人の看護婦さんに自分はついてもらいたいのだと言った。

　なぜ、妻はそんなにその看護婦さんがいいと思ったのか。

　当時の私は仕事がなく、妻につきっきりでいられたので、やってくる看護婦さんたちを観察することにした。（ ① ）、確かに妻が「ついていてほしい」と言った看護婦さんは仕事の仕方が他の人とは一味違っていることに気付いた。

　例えば、注射を打つ時、他の看護婦さんは「注射しますよ」と言って、手際よく処置し、「お大事に」と言って部屋を出ていくが、妻が好む看護婦さんは「注射をしますよ」と言うだけでなく、「今日は顔色がいいわね」とか、「あら、今日はご主人がいらっしゃるのね。いいご主人じゃない。こんなに優しくしてくれるご主人はいるんだから、早くよくならないとね」と言葉をかけていく。（　②　）、患者の立場に立って一生懸命励ましている気配りのある行動が、妻の心を掴んだのだ。

　人間は藍ての心に気がつき、相手のために気が利くかどうかで、天と地ほどに差が出てくる。妻の死の引き換えに、私はこの大事な人生の教訓を妻から贈られたと思っている。妻は遠い世界に旅立っていたが、それ以来、私は「気がつく講師」「気が利く講師」になりたいと言う気持ちで仕事をしている。

 

1、（　①）に入る言葉は、どれか。

①そこで

②ただし

③それから

④すると

 

2、「一味違っている」とは、どんな意味か。

①何か少し間違っている。

②人によって好み味が違う。

③同じものに見えるが実は全然違う。

④大きく変わらないが、どこか少し違う。

 

3、（②　）に入る言葉は、どれか。

①つまり

②それとも

③それなら

④なお

 

4、「この大事な人生の教訓」とは、どんなことか。

①相手の心に気がつき、相手の心を掴むことが大切だと言う教訓。

②相手の心に気がつき、気配りのある行動をすることが大切だと言う教訓。

③相手の立場に立って、相手を一生懸命励ますことが大切だと言う教訓。

④相手の立場に立って、言葉を使い分けるようにすることが大切だと言う教訓。