心の被害についても同じようなことが言えるだろう。たとえば、ある中学二年生の男子が母親に映画に行こうと誘った。こんなのは珍しいことなので、母親は大喜びで同行っした。ところが、映画館に入る直前に子供の態度が一変し、急に冷たい顔になって、映画館では別の席に座り、終わるや否や母親を残して勝手に帰宅してしまった。母親は自分のしたことで何が気に入らなかったのか思ったり、子供の身勝手に腹を立てたりした。ところが夕食が終わって、子供が案外気楽にしているので理由を聞いてみると、映画館の前で同級生も来ていることがわりか、「お前、お母ちゃんと一緒だったろう」などと冷やかされるのが嫌なので、急に離れたことがわかった。
母親は子供が一緒に映画に行こうと楽しそうにしていた時の顔と、後の冷たい顔を思い浮かべ、思春期の男の子の微妙な心のゆれを知らされた思いがして、子供が思春期を乗り越えてゆく困難な道に自分も付き合ってゆかねばならないのだ、と思ったという。
この場合、子供の態度の変化の後で、どの理由を「知る」機会を持ったこと、母親が思春期の大変さを「知る」人であったことが二次災害を避けることは可能にしている。
(河合準雄「こころの処方箋」による)
1、「子供の態度が一変した」のはなぜか。
①母親と一緒に映画を見ることを恥ずかしいと思ったから。
②母親と一緒に映画を見ている様子を同級生に見られたくなかったから。
③思春期になって、母親が同行するのを嫌がっているから。
④同級生に笑われて、心に被害を受けているから。
2、「二次被害」として考えられるのはどれか。
①同級生がきついことを言うことで子どもを傷つけること。
②子供がクラスメートに笑われたのを知らずに、子供を叱ること。
③思春期の子供の悩みを知らずに、無理やり映画に連れて行ったこと。
④子供の急な態度の変化について、理由も聞かずに叱ること。
3、この文章で筆者が一番言いたいことは何か。
①被害を最低限にするためには、事前にその原因などを知っておくことが大事だ。
②子供が同級生の前で恥をかかないように、一緒に映画に行くのは避けたほうがいい。
③親は子供の異常な情緒反応に対して、冷静に処理することで二次被害を防ぐことができる。
④子供が思春期をうまく乗り越えていくには、親からのサポートが欠かせない。