この問題は、異なる文化圏の人々と遭遇した際にいっそう顕著になる。学者たちは、10の基本的な感情(喜び、悲しみ、怒り、恐怖、軽蔑、嫌悪、当惑、興味、決意、そして驚き)の通常の表情が、異なる文化圏においても同じように解釈されるということで意見が一致する。
人々が自分の本当の感情を仮面で隠そうとするときに、困難は増大する。仮面で隠すというのは、ある顔の表情を、別の顔の表情で隠そうとすることである。人は顔を仮面で隠そうとする時に、興味深い一連の技巧を用いる。人は顔の表情によるメッセージを、その激しさや持続時間を制御することによって調整する。人は本当の感情を表さなかったり、あるいは違う表し方、例えば、怒りを感じているのに嬉しそうな顔をすることで、自分の本当の感情を偽る。
人はまた、別の表情を加えることによって顔の表情を変えもする。人との交わりにおいて、日本人は一般に、感情の強い表情や直接的な表情を、抑圧しないまでも、抑圧することを求められている。自分の感情を制御できない人は人間として未熟であると考えられている。怒り、嫌悪、あるいは軽蔑といった否定的な感情の強い表情は(言葉によるよらないに関わらず)、他人を当惑させるおそれがあるのだ。喜びの表情でさえも、それが他人を不愉快にしないように抑制されるべきなのである。
行動のこうした社会的規範に従う最善の方法は、仮面で隠す技法を利用することである。したがって日本人は、自分の意識していなくても、一見したところ意味不明な表情を頻繁に見せるが、それはよく西欧人によって理解不可能と言われるものである。これは他人を不快にしたり当惑させたりするのを避けるために、強い感情を緩和する試みの一つなのである。
(中略)
無論、表情の種類・順序・タイミング・持続時間・表出頻度などから感情の変化を推定するといったこともなくはないが、ここではそういう科学的な分析は論外にし、日本人の非常に節制された感情の現れ方に注目したいものである。
1、「この問題」とはどのようなことか。
①本当の感情を隠している人の表情を正しく解釈すること。
②自分の感情とは異なる表情を作り出すこと。
③人との交わりにおいて顔の表情を正しく解釈すること。
④異なる文化圏の人々の顔の表情を正しく解釈すること。
2、「仮面で隠そうとする」とはどのようにすることか。
①本心を悟られないために、顔に仮面をかぶって隠すこと。
②表情をより悟りやすくするため、仮面で表情を強調すること。
③ある顔の表情を、より大げさに表現すること。
④怒りを感じている人が、表面的には嬉しそうな顔をしたりすること。
3、「抑制することを求められている」理由として、本文と違っているものを一つ選びなさい。
①自分の感情を抑制できない人は人間として未熟だと考えられているから。
②否定的な感情の強い表情は他人を当惑させる可能性があるから。
③一見意味不明な表情は、西洋人にとって理解不可能だから。
④喜びの表現も他人に不快感を与えるおそれがあるから。
4、日本人が他人と接する際の考え方として、筆者の考えに一番近いものをどれか。
①喜びの表現は、隠すことなく相手に伝えるべきだ。
②自分の感情を抑えるのに、社会的規範に従う必要はない。
③自分の感情を制御できない人は、人間として成熟していないという認識がある。
④他人を不愉快にすることは、軽蔑される行為である。