いつの時代も、親は子供に成長してもらいたいと願っている。社会構造の変動が比較的に少ない時代には、親が覚えている仕事のノウホウや心構えを、そのまま子供に伝えれば子供は親の跡を継ぐことができた。かつては、世代が変わっても次の世代がおよそ同じことをすることができるようにするための「世代間の伝授」が行われてきた。
しかし、再生産(リプロダクション)を主目的として伝承を行い得た時代とは、現代は事情が異なる。情報革命を核とした世界的な社会構造変革の波の中で、親は子に、上の世代は下の世代に、「何を伝承したらよいのか」がわかりにくくなってきている。バブル期の社会的倫理規範の崩壊とその後のバブル崩壊による不況の長期化によって、大人たち自身が子供たちに対して、「伝えるべきこと」や「鍛えるべきこと」に関して自信を失ってきている。
大人が確信を持って伝授、伝承すべきものを持たない社会は、当然不安定になる。世によく言われる子供の問題の多くは、「子供たちに何を伝えるべきなのか」について大人たちが確信や共通認識をもてなくなったことに起因している。
注1 ノウホウ:やり方 注2 伝授:伝えること 注3 伝承:古くからの制度、風習などを受け継ぎ伝えること
注4 バブル期:日本で土地や株の値段が急激に上昇した時期 注5 倫理:行動規範としての善悪の基準
注6 起因:それが原因になって、何かが起こること
問1 「世代間の伝授」とあるが、どのように伝授が行われていたか
1 親は自分お仕事を自分がやってきたとおり子供に教えていた
2 親は子供が成長できるように自分より難しい仕事をさせていた
3 親は社会構造の変動に合わせて子供に教える仕事の内容を変えていた
4 親が仕事の仕方や心構えを直接教えなくても、子供は同じことができた
問2 「「何を伝承したらよいか」がわかりにくくなってきている」のはなぜか
1 情報革命により、大人が自信を失うような情報しかえられなくなったため
2 バブルが崩壊し不況が続いて、どのようなものを生産しても売れないため
3 社会情勢の変化により、正しいと思われていた規範がそうでなくなったため
4 世界中の情報が簡単に得られるようになり、子供の興味が親と反対になったため
問3 筆者は、最近の子供の問題の原因は何だと考えているか
1 子供に成長してもらいたいと思う親が少なくなっていること
2 社会の変化により大人が子供に技術を伝える機会がなくなっていること
3 子供が反抗するため、大人が何かを伝える気持ちをなくしてしまったこと
4 大人が子供に何を伝えたらいいかわからず、社会が不安定になっていること