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まじめ半分08

时间: 2018-03-31    进入日语论坛
核心提示:プールサイドで 散歩の道すじに小学校がある。 夏が近づくと、学校のプールで水泳教室が始まる。プールサイドに同じ海水着の子
(单词翻译:双击或拖选)
 プールサイドで
 
 
 散歩の道すじに小学校がある。
 夏が近づくと、学校のプールで水泳教室が始まる。プールサイドに同じ海水着の子どもたちが、紺色の団子でも並べたように勢ぞろいしている姿が植木のすきまから見える。
 今では、ほとんどどこの小学校へ行ってもプールがあるようだ。しかるべき法規によってプールの設置が規定されているにちがいない。
 教科の中にも水泳教育が正式に取り入れられているので、たいていの子どもは小学校を卒業するまでには泳げるようになる。水泳はすこぶる健康的なスポーツだから、発育盛りの子どもたちにこれを教えるのは体位向上のためにもおおいに役立つにちがいない。
 だが……私はふと考える。
 私たちの子どもの頃には、プールはそれほど身近にはなかった。一つの市に一つあればいいほうだった。だからプールへ通うだけでも大変であった。
 私自身は川で水泳ぎを覚えた。海で覚えた人も少なくあるまい。
 川で水泳を覚えた経験から言えば、これはプールほど楽ではない。浅いと思っていたら急に深くなる。水の流れも定まりなく、油断をしていると本流のほうに引き込まれる。
「あっ」と、思ったとたん、流れに巻き込まれて、ずっと川の下流まで流されて行ったこともあった。溺《おぼ》れかけても監視員がとんで来てくれるわけではない。自力でなんとか苦境を脱するよりほかにない。
 実際の話、私は、
「ああ、これでオレの人生もおしまいか、お父さん、お母さん、さようなら」
 そう思いながら、大川のまっただ中を浮いていたのを、今でも鮮明に思い出すことができる。
 海では一度沖まで泳いでいって、途中で片足が引きつれ、完全に動かなくなったことがあった。岸までの距離は千メートル近い。一瞬まっ青になったが、その頃はある程度まで泳力に自信があった。
「まあ、あわてることもない」
 全身の力を抜くと、体が水の中に沈んだ。沈みながら、動かなくなった足の筋肉をマッサージする。息が苦しくなったら、手だけをかいて、水の上に首を出す。それからまた沈む。
 こんなことを十回ほど繰り返しているうちに足の動きが戻った。あとはもう一度|痙攣《けいれん》が起きないよう、ゆっくりゆっくりと岸まで泳いだ。
 海や川で会得する水泳には、たしかにプールで覚える水泳とは一味ちがったところがあったような気がする。
 そのちがいを吟味してみると……プールで覚えるのは水泳だけなのに対して、海や川で習うときには、同時に自然と対処するすべを覚える。自然はいつどんな陥し穴を作っているかわからない。油断をしていれば、こっちがやられてしまう。泳ぎを覚えているうちに、いつのまにか生きた注意力が身につく。
 もし万一水に巻き込まれたら、その時はどうしたらいいか。まず、なによりもあわてないこと。情況をよく判断して冷静に行動すれば、なんとか道が開けるものだ。この判断力も人生を生き抜くうえで役に立つ。
 こういうぐあいだから、水泳を覚えたときには、ただ単に水に泳ぐ技術を身につけるだけではなく、自分を取り囲む環境に対する配慮や注意力が身につく。自然が私たちに教えてくれるものは、けっして少なくない。
 その点プールは、ただの�水泳教室�でしかない。
 もちろん海や川で泳ぎを覚えることには危険がともなう。一年に一度くらいは、自然との戦いに敗れた水死人が、あわれな姿で浮かんだものだった。
 その悲しい姿を見るにつけても、
 ——オレも気をつけなくちゃあ——
 と、なによりも厳しい、生きた忠告を受けたものだった。
 水泳のように、下手をすれば命にもかかわるようなスポーツを安全に教えるとなれば学校プールで、監視員つき、深さも急に深くなったりはしないほうがいいのだろうが、それだけでは、かつて私たちが海や川で覚えたような、かけがえないものを会得できない。これは本当だ。
 よろずお膳立てが整っているところで「さあ、どうぞ」と言われて覚えることなど、たかがしれている。
 水泳は命にかかわることだから、いたし方ないけれど、もっとひどいのはプラ・モデル。ただ糊《のり》づけをするだけでは、たとえどんなに高級なものができたとしても、なにが工作なのだろう。苦心して木を切り、板を削り、穴をうがち……そういうプロセスがなくては、ただ、ただ、結果としての完成品がえられるだけ。
 結果以外にその道中で習得するもののほうが、はるかに重要なのではあるまいか。プールの子どもたちを見ながら、そんなことを考えた。
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