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猫の事件21

时间: 2018-03-31    进入日语论坛
核心提示:美しいお妃様の冒険  あるいは美貌の研究 むかし、むかしの大むかし、その国では人々は石を食べて暮らしておりました。 みな
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 美しいお妃様の冒険
  ——あるいは美貌の研究——
 
 
 むかし、むかしの大むかし、その国では人々は石を食べて暮らしておりました。
 みなさんは石を食べることができませんね。
 人間は長いこと石を食べる習慣を失っていたので、今ではどの石が食べられるのか、どうやって料理するのか、なにもかもすっかり忘れてしまったのです。第一、石を食べても栄養のたしになりません。人間の体がいつのまにかそんなふうに作り変えられてしまったのです。
 でも、大むかしの国では、みんなが石をおいしくいただいておりました。
「さあ、みんな、ご飯ですよ」
 と、お母さんが台所で呼びますと、むかしの子どもたちも、今の子どもたちと同じように答えたものでした。
「はーい。今晩のおかず、なーに?」
「きょうは赤石の石油いためと岩清水のスープよ。おかずが足りなかったら、お砂のふりかけを食べなさい」
 こうして一家|団欒《だんらん》の夕餉《ゆうげ》が始まったのです。おもしろいですね。
 さて、この国にたいへん美しい娘がおりました。
 この人は生まれ落ちたときから、とてもきれいな女の子でした。
 年ごろになると、それまでだれも見たことのないほどの美しい娘になりました。世界中の男たちが噂を聞いて、
「ぜひ私のお嫁さんになってください」
 と申し出ました。
 何度お断りをしたか数えきれません。でも娘はこの国の王様に結婚を申し込まれたとき、とうとう首をたてに振りました。なにしろこの世に王様ほど偉い人はほかにいないのですから……。こうして美しい娘はお妃様の座に就いたのです。
 結婚式の日の美しさと言ったら……世界一の詩人が百万言を尽したところで新しいお妃様のうるわしいお姿を伝えることはできなかったでしょう。一年後に姫が生まれ、三年後に王子が生まれ、お妃様はとても幸福でした。人々はこぞってこの美しいお妃様を敬愛しました。
 二十五歳の誕生日の朝、お妃様は寝室の鏡を眺めて、ふと自分の美しさに影がさし始めているのを感じました。
 ——疲れているせいかしら。子どもを二人も生んだのだから仕方がないわ——
 そのときはさのみ気にもかけませんでしたが、二十七歳の誕生日になると、たしかに美しさが衰え始めたと考えずにはいられません。二十九歳になると、もうはっきりとその兆候が現われました。美しい人ほど、自分の容姿の衰えに敏感なものなんですね。
 ——これはいけない——
 お妃様は自分がすっかりみにくくなってしまう日のことを考えて、とても暗い気持ちになりました。
 それから三日たった夜のこと、お妃様は身の行く末を案じてなかなか眠れずにおりました。眠られぬものならベッドで悩んでいてもつまらない。気晴らしを求めてひとりこっそりとお城を抜け出し、入江の水際まで遊びに出ました。
 ザザン、ザザンと夜目にも白い波が心地よいリフレンを奏でています。
 気がつくと、波打ち際にボートが一つ浮いています。ボートならお城の池で何度か漕いだことがあります。
 その夜はとても星のきれいな夜だったので、お妃様はちょっと海に舟を出してみたくなりました。
「本当にすてきな夜だこと」
 ボートは銀色の水面をなめらかに進みます。お城の灯が少しずつ遠くなり、いつのまにかすっかり沖に出てしまいました。
 東の空に貼り絵のような弓張月がかかっています。
 お妃様は船底に身を横たえ、
 ——あの三日月を食べたら、どんなにおいしいかしら——
 と、考えました。
 尖った先端から今にも甘い蜜がしたたり落ちそうな気配です。
 たくさんの星たちも心なしかいつもの夜よりもずっと近くに落ちて見えます。赤い星、青い星、黄色い星……、お妃様は一つ一つ目で追いながら、その味を想像しました。
 お妃様はちっとも知りませんでしたが、沖あいには速い潮の流れが走っておりました。ボートはその潮にのってどんどん流されます。
 気配を感じて身を起こしたときには、さあ大変。ボートはもう岸を遠く離れてお城の光をさえ見ることができません。
「助けて」
 声をあげて呼んでも、夜の海はなにも答えてくれません。
 お妃様は今さらのようにひとりで海に出たことを後悔しましたが、後悔してみたところでどうにかなるものではありません。海はまっ黒なうねりと化し、風も強くなったようです。そう思ううちにもボートはみるみる見知らぬところに向かって流されます。
 お妃様は不安と悲しさでしくしく泣き始めました。でもボートは素知らぬ顔で走ります。
 泣き疲れたお妃様は、そのまま船底に倒れて眠ってしまったのでしょう。次に気がついたときには、朝はもうすっかり明けていて、ボートは知らない島の岸辺を漂っていました。
「ああ、よかった」
 どんな島だって海の上にいるよりは安心です。お妃様は衣裳のすそをたくしあげ、水を蹴って岸に駆けあがりました。
「だれかいないの?」
 この島は無人島なのでしょうか。岸辺には家もありません。人が住んでいる様子もありません。
 途方にくれたお妃様は、島のまん中に見える小高い丘に登ってみることにしました。
 あそこへ行けばなにかがわかるかもしれない。少なくとも島の様子はくまなく見渡すことができそうです。
 急な坂道を登りつくすと、なんと、頂上に小さな小屋が建っているではありませんか。
 お妃様は喜んで駆け寄り、
「ごめんください」
 と声をかけました。
「はい」
 中から声が響いて草の葉のドアが開きました。
「あっ」
 お妃様は思わず声をあげました。
 顔を出したのは、粗末な衣裳をまとった女の人でした。
 でも、その女の人の美しいことと言ったら……。
 お妃様はそれまで世界中で自分が一番美しいと信じていたのに、その自分に負けないほどきれいな人が——いえ、いえ、自分よりもっときれいな人が目の前に突然現われたのですから、これは驚かずにはいられません。
「どうなさいましたか」
「ボートが潮に流され、この島にたどり着いたのです」
「それはお困りでしょう」
「どうか助けの者が来るまで私をここに置いてくださいませ。一人より二人のほうがどんなに心強いかわかりません」
「それはよろしいですけれど……ほんの五日ぐらいしか一緒には暮らせませんのよ」
 女は謎のような言葉を吐き、ちょっと困ったような様子を示しましたが、とにかく家の中に入れてくれました。
 気分が落ち着いたところで、お妃様は早速尋ねました。
「あなたはどうしてこんな島でひとり暮らしをしているのですか」
 美しい女は片頬で笑って、
「それはね、もうすぐ私は死ぬからですよ。死ぬ姿を人に見られるのが厭なので、こうしてここにひとり住んでいるのです」
 と答えました。
 みなさんは野生の動物が死ぬとき、群からそっと離れてひそかに死ぬことを知っていますね。この女の人もそれと同じ覚悟だったのかもしれません。
 お妃様は不思議に思いました。
 その女の人は、とてももうすぐ死ぬようには見えません。こんなに美しい人が、美しさのまっ盛りに死ぬなんて……とても信じられません。
「どこかお病気なのですか」
「いいえ、もう年ですから」
「あなたはいったいおいくつなんですか」
「百三歳になります。このくらい生きれば自分の死ぬときはわかります」
「嘘ばっかり。百三歳だなんて……」
 お妃様は相手が冗談を言っているのだと思いました。冗談でなければ、気が狂っているにちがいありません。
 ところが、いろいろ話してみると、そうではありませんでした。
 初めは話がトンチンカンでわかりにくかったのですが、よくよく聞いてみると、こういうことらしいのです。
 その女の人の国では、人間は年を取れば取るほど美しい顔立ちになるらしいのです。三十歳の女より四十歳の女のほうが美しいのです。四十歳より五十歳のほうが美しいのです。五十歳より六十歳、六十歳より七十歳がきれいなのです。百歳を越えればどれほど美しくなるかわかりません。
「あなたのお国では、年を取るとだれもがそんなお姿になりますの?」
「そうですとも」
 すばらしいことではありませんか。
 みなさんはまだ幼いから、これがどんなにすてきなことか、よくわからないでしょう。でも、ひとことお母様にお話してごらんなさい。お母様はきっと、
「もしそうならいいんだけど」
 と、ため息をつかれることでしょう。
 だから、このお話は普通の童話と違って——つまりお祖母様やお母様がみなさんに聞かせてくれるのではなく、みなさんがお祖母様やお母様にお話してあげて、そうして喜んでいただくほうがいいのかもしれませんよ。
 さて、お話をもとに戻して——お妃様はそんなにすばらしいことがこの世にあるものなら、自分もなんとかあやかりたいと考えました。
 なにしろ三十歳を前にして、自慢の美貌が少しずつ衰えていくのをなによりも悲しんでいる矢先だったのですから。
 お妃様は粗末な小屋で美しい女の人と一緒に暮らし始めて、少しずつその女の人の秘密がわかりかけました。
 どうやらいつまでも美しさを保つ秘密は食べ物にあるらしいのです。
 その女はけっして石を食べませんでした。それを除けばお妃様自身と少しも変らない生活をしているのですから、美しくなる理由はそれ以外に考えられません。
 お妃様は、
「あなたはなにを食べているのですか」
 と、尋ねました。
「たいしたものじゃありません」
 女はお妃様の耳に口を近づけ、そっと呟きました。そしていつまでも若くしていられる秘密を……いや、年を取れば取るほどどんどん美しくなるこつを教えてくれました。
 でも、それがその女の人の最後の言葉でした。自分たちの食べ物を親切にお妃様に教えてくれたあと、その人は間もなく息を引き取ってしまいました。
 お妃様の悲しみは言うまでもありません。
 これからはこの島でひとりで生きて行かなければいけません。
 でも、運のいいことに、このときになって助けの船が島にやって来たのです。お妃様の行方を捜していた家来たちが、潮の流れから察して、もしかしたらこのあたりにお妃様が流れついているのではないかと考えて、捜しに来てくれたのでした。
「お妃様、ご無事でなによりでした」
「ありがとう。助かりました」
 お妃様の喜びは一通りのものではありませんでした。無事に助かったばかりか、漂流のおかげで思いがけない秘密を手に入れたのですから……。
 
 それからまた何年かたちました。
 お妃様は二十九歳を境にしていっこうに年を取らなくなりました。それどころか年々美しくなるばかりです。
 腰元たちがまずそのことに気づきました。
「お妃様はどうしてああいつまでもお美しいのかしら」
「もともとおきれいなのだから私たちとは違うわ」
「それだけじゃないわ。なにか秘密があると思うの」
「そう言えば、ここ数年お妃様はほとんどお食事を召しあがらないわ。なにも召しあがらずに捨てていらっしゃるみたい」
「本当ね。石炭のムニエルも、砂金とダイヤモンドのコロッケも昔のようにお喜びにならないし……」
「ねえ、知ってる? 夜になると、おひとりで森に行かれるのよ。森へ行ってなにかお食べになっているみたい」
「海辺をおひとりでお散歩されることも多くなったし」
「島からお帰りになってからのことよね、ひとりで森へいらしたり海辺へいらしたりするようになったのは」
「それに……その頃からよ、不思議なくらいおきれいになったのは」
 腰元たちは森へ出かけるお妃様のあとをこっそりつけてみることにしました。海辺の散策もひそかに監視することにしました。
「やっぱり」
「あれが原因だったのね」
 日ならずしてお妃様の食べ物が明らかになりました。どうやら美貌の秘訣は森や海で見つける新しい食べ物にあるらしいのです。
「私たちも同じものを食べてみない」
「ええ、やってみましょう」
 腰元のひとりがみずから実験をかって出ると、もうひとりが続きます。二人ともなんだか急に美しくなったみたい……。そして一年もたつと、はっきりとその成果が現われました。
 そうとわかれば腰元たちみんなが石を食べるのをやめ、お妃様と同じ物を食べるようになったのも当然でしょう。
 五年もたつうちにお城中の女たちの食べ物が変りました。男たちの中にも真似る者が見られるようになりました。そして、それぞれが年ごとに美しく変っていったのです。女たちはもちろんのこと王様も大臣も。
 もうこうなったらお妃様の食べ物は野を駆ける火のように国中に広がり、国全体の食生活が変り始めました。
「石なんか食べていたら駄目だ」
「新しい食べ物こそ美貌の秘訣よ」
「年とともに美しくなるなんて、なんとしあわせなことかしら」
「老後が楽しみになるわねえ」
 お妃様が七十七歳で、神々しいほどの美しさでおなくなりになったときには、もはや新しい食べ物は国中だれ知らぬものになっていました。だれもがこぞって新しい食べ物を食べるようになりました。そして、みんながみんなあの無人島で死んだ女の人同様に、年を取れば取るほど美しくなったのです。
 みなさんの中にもおやつをいただくとき、おいしいものをあとに残しておく人がいるでしょう。楽しみが先々に残っているのは、とても愉快なものですからね。
 この国の人たちもそうでした。これは、おいしいお菓子を先に残しておくどころの楽しみではありません。なにしろ年を取るほど美しくなるのですから、人生は薔薇色です。もうだれも石など食べなくなりました。石の食べかたを忘れ、いつのまにやらむかし石を食べていたことも忘れるようになってしまいました。
 その頃になって人々は気づきました。
 たしかに年を取れば取るほど美しくなる。それはいい。けれどもそれは同時に、美しくなればなるほど死の時期が近づいて来ることを意味しています。美しさは死の合図と言ってもよいでしょう。
 考えてもごらんなさい。みにくくなるのもつらいけれど、死はもっと恐ろしい。死はたとえようもなくこわいものです。人間をどことも知れぬ闇に引き込み、もう二度と戻してはくれません。その暗闇にどんなにおぞましいものが待っているかわかりません。それを考えると、美しくなるのを喜んでばかりはいられません。
「ああ、また美しくなった」
 と、嘆かなければいけません。
「こんなに美しくなって、もう私は死ぬんだわ」
 と、身震いしなければなりません。
 こうして五十年、百年、三百年、五百年、千年が流れました。
 もうこの国では石を食べる人などだれもいません。お妃様が島で教えられた食べ物は……そう、木の実、草の実、草の種、それから海や川に住む魚や貝だったのです。
 それを食べているうちに人々の考えが変りました。美しくなることが死に近づくことだとわかったとたん、美しさそのものの考え方も変ってしまったのです。
 肌に皺が寄り、しみができ、髪は抜けて白くなり、腰が曲がり、よろよろとよろけて歩くのが、むかしはなによりも美しいものだと考えられていたのに、今では肌がつやつやとして髪が黒く、体がピンと伸びているのが美しいことだと、この国ではみんなが思うようになってしまったのです。
 お話はこれでおしまい。むかしむかし�美しい�お妃様はどんなお顔をしていたのでしょうか。さあ、みなさんも目を閉じて考えてごらんなさい。
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