でかいこと言ったけど、俺、七着だった。早く言えばビリから二番目。最後の直線でボロボロ。
さえないの。
さすがに県大会になると速いやつがけっこういるのねえ。広瀬に負けたのも悔しい。他はトシいってるやつらだけど、こいつは、同じ一年なんだから。
伊田は待っててくれたのよ。ちゃんと。
八〇〇は、ほら、ちょうど二周するからスタートとゴールがいっしょのところでしょ。位置について、で、かがみこむときにチラッと見えてた。
ウォームアップ・スーツ着てたって目立つの、当然。さすがに合図する余裕はなかったけど。
ゴール・インして、俺、フラフラ。
伊田のところまで歩いてって、息ぜいぜいさせながら、
「負けちまったぜえ」
って言って、しゃがみこんだ。
かっこ悪いよねえ。なにしろこのひとは、去年、一年で優勝しちゃったって経歴の持ち主なんだから。
立ってる伊田の足もとで、俺、まだ肩で息してんのよ。それ以上、冗談も思いつかない。
そしたら、軽く頭をこづかれた。
「あんた、いつも、あんなレースしてんの?」
俺、ばかにされてるんだなって思ったぜ。
そういう話し方なのよ、伊田って。低い声で、鼻で笑うみたいにしゃべんの。
俺が見上げたら、
「あんなさ、最初からトップに立って、一周目のラップも取って、抜かれるまで一番でいく気なの?」
どう答えたらいいのかわからないから、
「ああ」
って言った。
伊田はもう一回、俺の頭をこづいて、
「何も、頭使ってないんだ」
そして、フッ、と笑うと、
「気持ちいいレースだね。将来、有望だよ」
ちょっと、嬉《うれ》しかったね、これは。