ぼくには、したいことがいっぱいある、のかなあ?
八〇〇メートルを速く走るためのトレーニングがしたい。一日中ソファに横になって、SFだとかミステリーだとかを読んでいたい。学校がある時にはできないことだ。
新聞だって読みたい。テレビは、まあ、陸上競技の中継があれば必ず見るし、スポーツは基本的に好き。解説がうるさいんで、野球はあまり見ない。
音楽も聞きたい。割合といろんなジャンル。
もちろん、泳ぎにも行く。
ほら、山口が角を曲がってやってくる。昔風のストローハットに大きなサングラスが似合っている。
玄関に立ったまま、今日最初のキス。
山口は舌をからめてくる。それにぼくが応《こた》えようとすると、唇をとがらせるようにして、ぼくを押し返し、小さい声で、
「だめ」
と言う。
うちの家族のことを気にしているのだ。妹しかいないよ。
はおっている大きめのシャツの裾《すそ》の方から両手を入れて、ぼくは山口を抱き締める。ちょっとすべすべした、弾力のある水着が、ぴったりと山口のからだをおおっている。
ドタドタという音がして、山口は今度は本気でぼくの手から逃れようとする。階段を降りる音だ。可能性は一〇〇%、妹。
じゃーん、と言って最後の一段を両足をそろえて跳ねて降りたぼくの妹は、海の仕度をしている。昨日、山口からかかってきた電話を聞いてたのか。透明なバッグにはタオルとサンオイルまで入ってる。
ぼくは山口と顔を見合わせる。
しょうがない。
今朝、妹はがんばって早起きまでした。ぼくたちは午前中の海が好きだから、十時半出発。
うちを出て駆け降りたら、そこはすぐに海岸だ。
夏休みだね。