妹は、
「ちょっと、楽しみ」
なんて、昨日の晩から言っていた。
自分も参加するのが当然だと思っている。
今日は朝からペディキュアをなおす中学三年生。
居間のフローリングに新聞の折り込みを広げ、その上に両足を投げ出している。住宅広告の善良そうな親子連れが、妹の形の良いふたつの裸足の下敷きになっている。まっ赤なエナメル。
「お兄ちゃんに友だちができるなんてねえ」
そんな言い方ってないと思うけれどね。
中沢から電話があったとき、すぐにぼくは、泳ぎに行こうって答えた。それはなぜだったのだろう。
友だちがいないわけではもちろんないけれど、たしかにぼくは、あまりつきあいのいい方ではない、っていうのは前から知ってるよね。
not as usual。
でも、そんなことを言い出したら、この前、妹と遊びに出たのだって。走るのをサボってしまっているのだって。
さて、例の命題に逃げ込むことで解決できるのだろうか。ぼくは小さい声でつぶやいてみる。
「ひとの抱く感情やとる行動に、原因、理由なんてない」
妹は顔を上げるけど、聞こえたわけではないらしい。
短く口笛を吹く妹。
ペディキュアを塗り終わったのだ。足をまっすぐ伸ばし、両手を腰のわきの床について乾かしている。なんか新体操のポーズみたいで、バランスがよい。
そういえば小学校のころ、妹は体操教室に通ってた。結構、長い間、楽しそうにやってたよね。
同じ時間にぼくは進学塾に行ってて、母親の車がぐるっと回って迎えにきたりしてた。べつに妹の方がいいとも思わなかったな。
電話。
きっと、中沢からだ。駅に着いたのだろう。