どこかで音がしてた。
かすかな響き。ブーン、ブーンと、低く、絶え間なく続く。
耳を澄ましていると、少しだけ音が高くなる。それでいて、しばらくすると元に戻ったりする。
なんなんだ?
俺のからだは、すっぽりと包まれていた。柔らかくて、温かくて、安心な何かに。
まったく、嫌になるぜ。
それが「ふとん」っていうものだってわかったのは、ずっとあとのことだ。
光はない。
そのときは、ただ闇の中、「ふとん」にくるまれて、俺は低い音が響いているのを聞いていたんだ。
そうするとね、ブーンていう響きの元が、一種類ではないことがわかってくる。
あちこち違うところで、俺の頭の上のほうや足もと、右側に左側、いろんな方向から似たような音が出ている。
さっき言ったちょっとした音の変化はさ、いくつあるのかわからないけど、そのひとつひとつのスイッチが、入ったり切れたりする組合せのせいみたいなんだ。
そのまま、どのくらい時間がたったんだ?
コツコツ。
コツコツ。
いままでとは全然違う、小さくて硬い音。
コツコツ。
コツコツ。
これは、一定の間隔だ。たぶん、遠くのほうから聞こえてくる。
コツコツ。
コツコツ。
それは、次第に大きくなる。
コツコツ。
コツコツ。
強くたたきつけるように響いていた音が止まった。
そのときには、思ってもみなかったね。こんなもんが、俺にとっての、世界のはじまりとなる音だったなんて。