そういうわけで、そのまま、グラウンドに来てしまった。
コーチは、今日はスタンドで練習を見学しよう、と言った。そして、高橋の将来について、もっと語り合おうと。
ところが、スタンドの硬いコンクリートに腰かけてすぐのことだった。
「いかんな」
コーチがつぶやいた。
「え?」
「あの選手を見ろ。ほら、坂本だよ。坂本美由紀。去年の国体で優勝した。おっと、高橋は記憶がないんだったな。あっちで、円盤のターンのシミュレーションをしてるやつを見ろ」
コーチは真剣な表情。
トラックの内側の芝生の上で、くるくると回転しているひとがいた。円盤を右手に持って大きく振っている。
「目つきがおかしいだろう」
その坂本という女のひとは、熱心に練習しているように見えた。
目つきまでは、わからない。距離があったし、その選手のことは、前は知っていたのかもしれないけれど、俺の記憶にはないのだし。
「MSUだ」
俺は、自分の耳を疑った。
しかし、コーチは、もう一度、はっきりと言った。
「あいつ、MSUにはいったな。目を見たらわかる」