「なんか、かーわいそー。あの、おばちゃん、つかまっちゃうなんてー」
「そうだよね、ユウカちゃん」
監督が応じた。
「ユウカだって、留置所、たいへんだったもーん」
「ユウカちゃんは、MSUのこと信じてたの?」
眉子叔母さんが聞いた。
「まーさか。でも、あの、慧っておばちゃん、いいひとみたいだった」
「ササミの方いませんかー。ササミあがりました。はーい、ササミです」
「また、なのですか」
店長は小さい声でぼやいたけど、皿を持ってウロウロしている店員さんに、手を振って合図した。
「すみませんねえ、いつも」
お店の人は、皿をテーブルに置いた。
「注文の通し方、工夫しなければいけませんです。ニッポン人、商売に粘りがたりません」
「いやあ、気をつけてるんですけどねえ」
店長に焼鳥屋に誘われた。
今度は、眉子叔母さんも、ちゃんと来た。サリナの他に、ユウカと監督もいるとは思わなかったけど。
「ユウカね、おばちゃんに聞いてみたの、インタビューで。カットされちゃった分。MSUをしてて、いちばん言いたいことは何ですかって。わかる?」
サリナが手を挙げた。
「男根主義者に死を?」
「うーうん」
「単性生殖の時代が来る、とかいうのかな。例のクローン。それで、超人類とか」
俺の説も違うらしい。どうも、俺は、まだクローンをというか、ドクターの話をひきずってるのかな。
と、考えたら、そこで聞いたMSUの旧称を思い出した。
俺もサリナのマネをして手を挙げて、
「森進一を、聴こう?」
と、言ってみた。
「なんなんですか、それは。高橋さん」
店長に、変な顔をされてしまった。
「やっぱり、本来の教義である宇宙の神秘に関しての、何かかしら。最近は、UFOにのめり込んでいたみたいだし」
MSUウォッチャーの眉子叔母さんが言ったけど、ユウカは首を振った。
「自由なセックス、楽しいセックス、だれとでもセックス、お金もらってセックス、お金あげてセックス、で決まりではないでしょうか。慧の主張とユウカさんの波長が、ぴったりと合います」
と、自信ありげに主張するのは店長。
「はずれー。ぜえーんぶー、はずれー」
ユウカは、みんなの顔を見回し、とても大事なことを発表するように言った。
「おばちゃんはねー、ユウカに言ったの。MSUを信じればー、みんなー幸せになりますってー」
全員が黙っていた。
しばらくしてから、
「なんだ、そりゃ」
と、監督が言った。いままで、飲んでばかりで、話に参加してなかったのに。
「シンプル」
眉子叔母さんが、ひとこと。
「そうね。とってもシンプル。すべての宗教は、それよね」
サリナは、うなずいている。
「ねえ、いいひとでしょ、慧っておばちゃん」
ユウカは、顔を見回すようにして、賛同を求める。
「そうなんでしょうか。そういう結論になるのでしょうか」
店長は、疑問の声をあげる。
それで、みんなが黙ってたら、
「うん、そうだ。MSUの慧はいいひとだ。そのとおり。すべてのひとびとの幸福を願っている。そうだよねえ、ユウカちゃん」
と、監督が大きな声で言った。
すげえ調子のいいやつ。もしかしたら、店長に勝てるかも。