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平の将門02

时间: 2018-11-20    进入日语论坛
核心提示:土と奴隷層 良持が、遺言に、所領の土や馬などと一しょに、奴婢までを、遺産にかぞえているのは、おかしく聞えるが、当時の世代
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 土と奴隷層
 
 
 良持が、遺言に、所領の土や馬などと一しょに、奴婢までを、遺産にかぞえているのは、おかしく聞えるが、当時の世代では、まちがいなく、奴婢奴僕《ぬぼく》も、個人所有の、重要な財産のひとつであった。
 後の将門、相馬の小次郎が、十四歳頃の世は、史家の推定で、延喜《えんぎ》十六年といわれている。
 西暦で九一六年。指を繰れば、今日から一千三十四年前になる。
 千年は、宇宙の一瞬でしかない。——が、人間の社会にとっては、こんなにも、観念がちがう。
 奴婢といい、奴僕というも、女を女奴とよび、男を男奴《おやつこ》とよぶ、それは同じ奴隷にすぎなかった。奴隷制度が、まだあったのである。
 どんな苛酷な使役にも、貞操にも、衣食の供与にも、身体の移動にも、絶対に自分で意志の自由を持ち得ない約束の人間が、この国の地上には、まだ全人口の三分の二以上もいた。
 それらの無数な生命の一個が死ぬまでの価としては、稲何百束《そく》とか、銭何貫文《ぜになんがんもん》とか、都の栄華のなかに住む女性たちが、一匹の白絹を、紅花《べにばな》で染める衣《きぬ》の染代にも足らない値段だった。いや、牧の馬よりも、人間の方が、はるかに、下値ですらあった。
 人買いは、東北地方から、野生の労働力をあつめて、近畿や都へ売りこみ、都の貧しい巷《ちまた》から美少女を買って帰ると、これは、すばらしく、高値を吹いた。
 市《いち》に出して、物と換えることもでき、質に入れることもできた。
 だから、奴婢、奴僕、小者などと呼ぶ者を、数多《あまた》に抱えている主人は、これを当然、財物と見、その身売り証券は、死に際の目で見ても、大きな遺産だったにちがいない。
 小次郎の父、良持などは、それの主人として、坂東八州のうちでも、尤《ゆう》なる者のひとりだった。
 かれの家は、この未開坂東の一端に根を下ろしてから、五代になる。
 ——桓武《かんむ》天皇——葛原親王《かつらはらしんのう》——高見王《たかみのおう》——平高望《たいらのたかもち》——平良持《よしもち》——そして今の相馬の小次郎。
 系図は、正しく、帝系《ていけい》を汲んでいるが、そのあいだに、蝦夷の女の血も、濃く、交じったであろうことは、いうまでもない。
 また、帝系的な都の血液と、アイヌ種族の野生の血液とが、次のものを、生み生みしてゆけば、母系の野生が、著しく、退化種族の長を再現して、一種の中和種族とも呼べるような、性情、骨相をもって生れてくることは、遺伝の自然でもあった。
 だから、小次郎の親の良持はすでに、その顴骨《かんこつ》や、頤《おとがい》の頑固さ、髯、髪の質までが、都の人種とは異っていた。
 性情もちがい、処世の考え方も、良持の代になって、ちがって来た。
 良持は、先祖からの、官途の職をすてて、土に仕えた。喰《くろ》うて、税を納めて、余りあるほどな、前からの荘園もあったが、なお多くの奴婢、奴僕、田丁を使役し、上に、家人等の監督をおいて、限りない未開の原始林を伐り拓き、火田《かでん》を殖やし、沼を埋め、丘を刈り、たちまちにして、野の王者となった。
 荘園では、いやでも、課税の対象にされるが、朝廷の墾田帳《こんでんちよう》にも、大張使《だいちようし》の税簿にもない未開田は、督税使《とくぜいし》がやかましくいっても、なんとでも、ごまかせた。
 こうして、彼が一代に作った田産と、豊田郡《とよたぐん》の一丘を卜《ぼく》して建てた柵、本屋《ほんや》しき、物倉《ものぐら》、外曲輪《そとぐるわ》などの宏大な住居は、親類中の羨望の的であった。
「常陸の兄も、上総の弟共も、おれを羨むというが、どうだおれの一生仕事は。——百姓でも、大百姓なら、これで結構。国司《こくし》でも、郡司《ぐんじ》でも、おれのまねは、よも出来まい。——その下の、守《かみ》でも、介《すけ》でも、掾《じよう》でも、目《さかん》でも、みんなおれにお世辞をいってくるではないか」
 いま、中央では、藤原氏か、藤原姓の端ッくれにでも、縁のつながる者でなければ、人間仲間ではないようにいわれている時の下《もと》に——地上の一方に、良持は、そんな豪語を含んで生き、そして間もなく、死んで行ったのであった。
 だが、ことし十四の小次郎には、亡父が遺した何一つとて、さほどの物には、見えなかった。
 強いて、その中で、彼に役立ったものといえば、アイヌ娘の蝦夷萩が、叔父たちの眼をしのんでは、着る物、喰う物などに、あたたかな愛情を寄せ、
「可哀そうな御子。……御子は、かわいそうなお生れね」
 と、自分が、奴隷というあわれな宿命なのをも思わず、しまいには、唇《くち》をも、肌をも、惜しみなく与えてくれた——彼女以外には、何もない。
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