[書き下し文]子曰く、吾未だ剛者を見ず。或るひと対えて曰く、申長(しんとう)あり。子曰く、長(とう)は慾あり。焉んぞ剛なるを得ん。(申長の「長(とう)」の正しい漢字は、「きへん(木)」に「長」である。)
[口語訳]先生が言われた。『私は剛健な人物を見たことがない。』或る人が答えて言った。『(あなたの弟子の)申長(しんとう)がいますよ。』先生は言われた。『長(とう)には、欲がある。どうして剛健といえるだろうか?(いや、いえない。)』
[解説]孔子にとっての剛者とは、ただ肉体的な腕力が強いものではなく、精神的な意志も合わせて堅固なものをいう。ある人は、「申長(しんとう)という剛力無双の屈強な勇者がいるじゃありませんか?」と孔子に言った。しかし、孔子にとっては、自分の欲望に打ち勝てない軟弱な精神の持ち主である申長は(いくら膂力に秀でた豪傑であっても)「真の剛者」ではなかったのである。