[書き下し文]曾子(そうじ)疾(やまい)あり。門弟、子を召して曰く(のたまわく)、予が(わが)足を啓け(ひらけ)、予が手を啓け。詩に云わく、戦戦兢兢(せんせんきょうきょう)として深淵に臨むが如く、薄氷を履む(ふむ)が如しと。而今(いま)よりして後(のち)、吾免るることを知るかな、小子(しょうし)。
[口語訳]曾先生が病気になられたので、門弟を呼び集めて言われた。『着物から私の手と足を出しておくれ。』詩経ではこう歌っている。『おそるおそる慎重に、底の見えない深い淵に臨むように、今にも割れそうな薄氷の上を踏むように(父母から頂いた大切な身体を取り扱いなさい)』と。しかし、弟子達よ、今から後には、こういった身体への心配が要らなくなったことに気づいたのだ。
[解説]この章句は、自らの死期を悟った病気の曾子が、弟子たちを集めて自らの思いを述べたものである。儒教の道徳規範には、『祖先・父母から授かった大切な身体を無闇に傷つけてはいけない』というものがあり、初期の儒教の葬儀祭式では『死者に魂魄が舞い戻って生き返る』というような再生思想に基づき埋葬がなされていた。