[書き下し文]子曰く、篤く信じて学を好み、死に至るまで守りて道を善くす。危邦(きほう)には入らず、乱邦(らんぽう)には居らず。天下道あるときは則ち見れ(あらわれ)、道なきときは則ち隠る。邦に道あるとき、貧しく且つ賤しきは恥なり。邦に道なきとき、富み且つ貴きは恥なり。
[口語訳]先生が言われた。『強い信念を持って学問を好み、死ぬ時まで道を守り続けて良くしていこうとする。危機に直面した国家に入らず、内乱の起こっている国には滞在しない。天下に道義が行われている時には世俗で活躍し、天下から正しい道が失われている時には世俗から隠遁する。道義ある政治が行われている国で、貧乏で卑賤であれば、それは恥である。反対に、正しい道義が失われている国で、富裕になり高い地位に就いていれば、それは不名誉なことである。』
[解説]孔子は生涯を通して懸命に学び続けるような人生、正しい道義と仁徳を守り続けていく生き方を理想とした。そして、自分自身の苦難と危険に満ちた人生を振り返って、門弟たちに、危機のある国や内乱を戦っている国には敢えて近づかないようにしたほうが良いと教えた。孔子は裕福になることや貴族としての身分を得ることを全否定していない。即ち、民衆を保護する善政が行われている国であれば、貧乏であったり社会に出ずに卑賤の身分を抱えていることは、恥ずかしいことであるとした。反対に、民衆を搾取・抑圧するような道義が失われた国で、富を蓄えたり高位の身分を得ることは、仁徳のない恥ずかしい生き方になってしまうと批判した。