[書き下し文]達巷党(たつこうとう)の人曰く、大(だい)なるかな孔子、博く学びて名を成す所なしと。子、これを聞き、門弟子に謂いて曰く、吾何をか執らん(とらん)、御(ぎょ)を執らんか、射(しゃ)を執らんか、吾は御を執らん。
[口語訳]達巷(たつこう)集落の人が言った。『偉大なお人だな、孔先生は。幅広く学問をされているのに、特定の専門分野に偏ることがないのだから(特化した学問・訓練で立身出世をしないのだから)。』これを先生が聞いて、門弟たちにおっしゃった。『さて、私は何を専門にするかな?御者になろうか、それとも、射手になろうか。私は御者になろう。』
[解説]孔子が弟子に向けてユーモラスに、『博学な万能人としての自己』を語っている章である。孔子は、特定分野に抜きん出た専門家(スペシャリスト)として出世を図るのではなく、ゼネラリストとして社会全体を悠々と鳥瞰する学問の道を好んでいたという。良くも悪くも、専門や偏りのないバランスの良さ、中庸の徳が孔子という人物の魅力を形作っていたのであろう。