[書き下し文]微子(びし)はこれを去り、箕子(きし)はこれが奴(ど)と為り、比干(ひかん)は諌めて死す。孔子曰く、殷に三仁あり。
[口語訳]微子は殷国から去り、箕子は奴隷に転落し、比干は殷(商)の紂王を諌めて死罪となった。孔子がおっしゃった。『殷には、三人の仁者がいた』。
[解説]微子は殷の暴君・紂王の兄であるが、紂王の悪逆非道な政治に愛想を尽かして殷から逃げ出してしまった。微子は、殷が滅んで周の時代になってから宋国の君主となる。箕子は紂王の叔父であるが、紂王の悪政を諌めて殺されかけたので、狂人を装って逃げ出し奴隷の中に紛れ込んで一命を取り留めた。比干も紂王の叔父であったが、正義感が強く知性に優れていた比干は、紂王を必死に諌めて怒りを買い、遂に処刑されてしまった。孔子は、殷の時代に生きたこの三人の人物を仁者として評価しているが、現実の政治から隠遁した微子と箕子の評価には、道教の『隠棲思想・無為自然』が影響しているのかもしれない。