孟子は言う、
「賢明の者を尊び有能の者を用い、秀でた者がしかるべき位にいれば、天下の士(一般家臣のことだが、この場合は「国のために働く心ある人々」という意味)は歓喜してその朝廷にはせ参じたいと願うだろう。市場に対しては店舗税だけに留めて取引税を取らず、店舗税は法定の税だけに留めるならば(*)、天下の商人は歓喜してその市場で荷揚げしたいと願うだろう。関所では検査だけに留めて課税しなければ、天下の旅行者は歓喜してその道路を使いたいと願うだろう。耕作者には公田を与えて私田に課税しなければ、天下の農民は歓喜してその田野を耕したいと願うだろう。居宅に夫・里の布(住民税と固定資産税)をかけなければ、天下の民は歓喜してその国に帰化したいと願うだろう。まことによくこの五つの政策を行えば、隣国の民までもがその君主を父母のように仰ぎ見ることだろう。いったい自分の子や弟を率いて父母とも思う人を攻めることなど、人類発生このかた、まだよくそれを成した者などいない。このようにすれば、天下無敵である。天下無敵の者は、これ天吏すなわち天の使わした役人である。このようにして天下の王にならなかった者は、いまだかつていない。」
(*)原文「法而不廛」。小林勝人氏はこれを衍文(えんぶん。間違って入った文)だろうとみなしておられる。「廛」とは店舗税のことで、「法を敷いて店舗税を取らない」と訳したら前の文と矛盾する。そこで、「限られた市場の敷地の適正な配分のために法定店舗税だけは取るが、それ以上にむやみに課税はしない」とあえて解釈してみた。