「もしも私に、人の心を知る能力があったら、
あの恐ろしい出来事を、あの死を、
防ぐことが出来たんだろうかって。」
美知留(長澤まさみ)は、同棲を始めたばかりの恋人?宗佑(錦戸亮)に
何も言わずに、瑠可(上野樹里)とエリ(水川あさみ)が暮らしている
シェアハウスで一夜を明かす。
朝
二日酔いのエリに味噌汁を渡す瑠可。
「美味い!もう一杯!」
「はいはい。」
「あれ?何でいないんだ?タケルの野郎。
帰ったの?」
「うん。5時ぐらいに。仕事あるからって。」
「仕事?」
「うん。本職の方。」
「ふーん。あいつってさ、なんかどっかつかみ所ないっつーか。
付き合いいいんだけど醜態見せないっつーか。
本心わかんないとこあるよね。」
「あー、あるかも。」
「ねー!」笑い合うエリと瑠可。
考え込みながらトーストを一口かじる美知留。
「大丈夫?」とエリ。
「あ、うん!
あの...美味しいね、これ。」
「美知留も仕事でしょ?どうする?」と瑠可。
「あ...もう行かなきゃ。」
美知留を駅まで見送る瑠可。
「じゃあ、行くね。」
「うん。」
「じゃ!」
瑠可は美知留の背中を見送りながら、昨晩の涙を思い出していた。
「美知留!」
美知留が振り返る。
「大丈夫?」
「...大丈夫って、何が?」
「いや...大変そうだから。仕事...」
「大丈夫だよ。ありがとう!」
美知留はそう言い微笑むと、美容室へと向かった。
「あの晩、あなたの涙を見ていたのに、
何で私はその訳を聞こうとしなかったんだろう。
4年ぶりに会うあなたは...とても幸せそうで...。
でも...とても寂しそうで...。
その訳を、私は知らなかった。
知ってたら、何か出来たかな。
美知留。私が知ってたら...。」
控え室で店に出る準備をする美知留。
携帯をチェックすると、昨晩から何度も宗佑から電話が入っていた。
「宗佑...」一人呟く美知留。
「何やってんの?早く来てよ!」
意地悪な先輩?平塚令奈(西原亜希)が声をかける。
「はい!」
「...髪の毛が乱れてる。
シャツにシワ入ってるし。
そんな格好でお客様の目の前に出るの?」
「すみません...」
「男んとこ泊まってきたってまるわかりなんだから!」
そう言い捨て先に立ち去る令奈。
令奈はヘルプについた美知留の足をまたわざと踏みつける。
「遅いよ。早く15ミリ持ってきて!」
「...はい。」
ふと窓の外に視線をやった美知留は、そこに宗佑が立っていることに気づく。
宗佑が美知留をじっと見つめている。
「何ぼーっとしてんのよ!早く!」
令奈の声に、戸惑いながらもその場を去る美知留。
仕事を終えて店を出てきた美知留のことを、宗佑はまだ待っていた。
ゆっくりと宗佑に歩み寄る美知留。
「美知留...。うちに帰ろう。」
「...怒ったないの?」
宗佑が手を差し伸べる。
美知留は戸惑いながらもその手に自分の手を重ねる。
美知留を引き寄せ抱きしめる宗佑。
美知留も宗佑を抱きしめ...。
マンションに戻ると、宗佑に突き飛ばされた時に割れてしまった
ランプと同じものがあった。
「これ...どうしたの?」
「同じの買ってきた。美知留が、気に入ってたみたいだから。」
「...」
「...どこにも行かないでほしいんだ。
黙って出ていったり、しないでほしい。」
宗佑の優しさに触れた美知留は、こみ上げる涙をこらえながら、
彼に謝る。
「ごめんね。」
二人が微笑みあう。
モトクロスの練習を終えた瑠可を、先輩が興奮気味に出迎える。
「すごいぞ!この調子なら次のレース優勝狙えるかもしれねーぞ!」
タイムを見せられ、瑠可も嬉しそうに笑う。
練習を終えた瑠可は、バイクショップでアルバイトをしていた。
するとそこに、瑠可の父?修治(平田満)が訪ねてくる。
「お父さん!」
「頑張っているみたいだな。」
修治は、瑠可の一番の理解者だった。
瑠可は、修治を連れてタケル(瑛太)がアルバイトをしている
バーを訪れ、一緒に酒を飲む。
「で、どうなんだ?調子は。」
「モトクロス?絶好調だよ。
ラップタイムが、1分48で、今度のレース優勝狙えるかも!」
「そうか。それは女子としてはいい傾向だな。」
「女子とか関係ないよ。
いずれ男子も驚くような記録作って、全日本選手権に出るのが
夢だもん。」
「だったら、バイトなんか辞めてトレーニングに専念した方が
良くないか?」
「いいのいいの。バイトはバイトで気分転換になるんだよね。」
二人の会話に微笑みながら酒を準備していたタケルは、
二人にビールと焼酎ロック、そしてサービスの品を出す。
「俺、あっちにいるんで、何かあったら呼んでください。」
タケルが去る。
「付き合ってんの?」と父。
「え...タケルと?まさか!何言ってんの?」
「しかし...お前だって年頃なんだから...
そういう相手がいてもおかしくないだろ。」
「違う。タケルは違う。」
「そうか...。ま...あの彼は、ちょっとな。
軟弱な感じだしな。」
「何ほっとしてんだよ。」
「何言ってるんだよ。」
父が帰ったあとも一人で酒を飲む瑠可。
「いいお父さんだね。」とタケル。
「うん。
一番の親友。
何でもわかってくれて、味方してくれる。
若い頃は、サッカーとかやってたんだけど、
だからああ見えて、筋肉とか結構あるんだ。」
「筋肉ねー。どうせ俺にはないですよ。どうせ...軟弱だし。」
「聞こえてた!?ごめんごめん!」
笑い合う二人。
「...あの人を悲しませることだけはしたくないんだよね...。」
瑠可が呟く。
同じころ、宗佑の家で食事の準備をしていた美知留。
「今日は腕によりをかけちゃうからね!
調味料一杯買ってきたし。」
「手伝うよ!」
野菜を切り始める宗佑。
「いいよー。座ってて。」
包丁を奪おうとしたとき、宗佑は指を切ってしまう。
「あ...ごめん。」
「平気だよ。たいしたことない。」
「絆創膏どこにある?」
「寝室の、棚。」
寝室のクローゼットを開き絆創膏を探す美知留。
そこに、実家で見つけることができなかった高校の卒業アルバムを
見つけ...。
しかも、アルバムの集合写真にあった瑠可の名前の上には×印が
してあった。
美知留は宗佑の指の手当てをしながら、努めてさりげなく、
アルバムのことを聞いてみる。
「ね...私の卒業アルバム、宗佑が持ってきたの?」
「え?...うん。」
「お母さんに、会ったの?」
「いや。留守だったよ。」
「...」
「あそこ、この前仕事で通ったんだ。
住民の生活の様子を調べてるって言ったら、
大家さんが、鍵開けてくれた。」
「...そんなに...見たかったんだ。私のアルバム。」
「美知留のアルバムなら、見たいよ。」そう言い微笑む宗佑。
別の日、エリは、航空会社の先輩?友彦(山崎樹範)のようすが
おかしいことに気づく。
理由を尋ねると、妻が家に男を連れ込んでいることを知り、
どうすればいいかわからないのだという。
家に帰れないという友彦に、エリはホテルに泊まるようアドバイスし、
立ち去ろうとする。
「ちょっと待って!」友彦が呼び止める。
シェアハウス
部屋のパソコンで調べものをする瑠可。
『純心医科大学付属病院
手術内容
セカンドオピニオンの受け入れ
婦人科医』
「瑠可!手伝って!」
エリの声に、瑠可は慌ててパソコンを閉じる。
エリは友彦をシェアハウスに連れ帰った。
友彦は、妻とその浮気相手が外出した隙を狙って、
家にあったプラズマテレビを盗み出すと、
エリと共にそれをシェアハウスに持ってきたのだ。
「当分、お邪魔させていただくことになるかもしれません。」と友彦。
「部屋開いてるからいいよね。
もちろん家賃は払ってもらうから。」
「やだよ...。男なんてめんどくせーじゃん。」と瑠可。
「大丈夫だよ。オグリンは人畜無害だから。
それに事情が事情で可哀想なんだよ。」
「何?」
「奥さんが家に男連れ込んで、出てこうとしないんだって!」
「いや...でも、突然お邪魔して手ぶらじゃ申し訳ないと思ったんで、
これ、持って来ました。」と友彦。
「40インチの液晶だよ!
いいでしょ。こんなのなかなか買えないよ。
ボーナスもらってる人じゃなきゃ。」とエリ。
「家から、持って来ました。」と友彦。
「家ってその...奥さんと男がいる?」
「うん。さっき覗いたら二人とも出かけてて留守だったんですよ。
で、その間に、エリさんと、運び出しました。」
「奥さん帰るの待っててさ、怒鳴りつけるんじゃないの?普通。」
「そういうキャラじゃないのよ。」とエリ。
「これ、盗み出したときは快感でしたー!」
「DVD3本も借りてきちゃった。
これセッティングしたらタケルも呼んで一緒に見ようよ!
大画面で映画!」
瑠可は、仕方なく友彦を受け入れた。
そしてその夜、タケルを呼んでの映画鑑賞会。
ラブシーンになると、タケルは辛そうな表情を浮かべ、
そっと部屋を出ていく。
タケルを心配して瑠可が庭に出てきた。
「ああいうのダメ。」
「え?」
「ラブストーリーって退屈だよね。
人の恋愛見てどうすんの。時間の無駄だろうって。」
「ああ...ね!
...どうなの?次のレースに向けての調子は。」
「何でレース?あ...この前聞いてたんだ。」
「すごいなーと思ってさ。
何で、その道目指そうと思ったの?」
「何でかな...。もともと走るのは好きだったし、
それに、バイクでジャンプ決めたときって、
空中にいるのはほんの1秒ぐらいだけなんだけど、
時間が止まるんだ。
あの瞬間、音が消えて...観客も、ライバルも...
コースも自分も消える。
もう男でも女でもなくなって、ただの宙に浮いたモノになる。
それが気持ちいい。」
「わかる気がする!」
「わかるか?わかんねーだろ、あんな鈍くさい走りしてたら。」
「いやだから、頭ではわかるって言ってんの。」
「わかんねーよ絶対。」
楽しそうに笑う二人。
「...見に行くよ、レース。」
「来んなよー。無駄に緊張したくないもん。」
「けどお父さんは来るんでしょう?」
「家族は来るだろうな。
来るなって言っても、旗とか持ってきちゃうんだよ。」
「...誰かに見に来て欲しいとかないんだ。」
「......美知留。」
「美知留ちゃん?」
「あの子には見に来てほしいけど...。
中学のときからの親友で、4年間離れてたから...。
その間頑張ってきたこと見てほしいけど...。」
瑠可の思いつめたような表情に、タケルは微笑み、そして頷く。
美容院の控え室
携帯をチェックする美知留。
「ごめんね。電話くれた?」
「いつ頃帰れるの?」
「あ、もう出られそうだから、多分8時くらいには。
うん。じゃあね。」
電話を切った直後、先輩に急な残業を頼まれてしまう。
先輩に頼み込まれ、了解する美知留。
仕事を終えた美知留は急いで家に帰る。
「ごめんね!最後の最後でカラーのお客様が入っちゃって
断れなくて。」
すると宗佑は、いきなり美知留の頬を叩く。
怯えた目で宗佑を見つめる美知留。
「何で早く帰ってこない。
どれだけ心配したと思ってるんだ。」
そのとき、瑠可からの電話が入る。
美知留が電源を切る。
「何で切るんだよ!」
「だって...」
「切らずにちゃんと話せよ。僕の前で。」
宗佑がリダイヤルし携帯を渡す。
「やっと通じた!今大丈夫?」と瑠可。
「...うん。」
「今さ、タケルがうちに来てみんなで又騒いでるんだ。
ちょっと出てこない?渡したい物もあるし。」
「...ごめん。私...行けない。」
「...そっか。夜遅いしね。」
「瑠可...なるべく電話...してこないでくれるかな。
必要なときは、こっちからかけるから。」
「...」
「あ...携帯きり忘れてたんだけど、今仕事中なんだ。
ごめんね。」
「...わかった。」
電話を切ると、宗佑は怖い表情のままテーブルにつく。
携帯を見つめる美知留...。
呆然と立ち尽くす瑠可に、タケルが声をかける。
「どうした?」
「...ううん。」
瑠可は自分の部屋へ行き、美知留に渡そうとしていた封筒を見つめる。
中には、モトクロスのレースのチケットが入っていた。
「美知留...。
何でこんなに寂しいのかな。
こんな気持ち...いらない。
この苦しさ、この胸の痛み、
全部風に吹かれて、なくなればいい。」
美知留の勤める美容院にタケルがやって来た。
「カッコイイ!」「新規の人ですよね。」店員たちが噂している。
令奈がタケルにつくと、タケルは
「藍田さんにお願いしたいんですけど。」と美知留を指名。
去り際、いつものように美知留の足を踏みつけようとする令奈。
それを美知留がかわす!
よくかわしました!
美知留にもこういう強さがなくっちゃ!
「よろしくお願いします。」と美知留。
「よろしく!」
「こちらこそ!」
「あ...瑠可に、この店の名刺渡されて、
たまには、行ってやってくれって言われたんだよ。」
「ああ...はい!
今日は、どうなさいますか?」
「うーん、ネープの長さ変えないで、グラで、お願いします。」
「え...」
「あ...この前言い忘れたんですけど、
俺本職、ヘアメイク、なんです。」
「え...」
「まだ駆け出しなんで、それだけじゃ食えないんだけど。」
「いいんですか?私なんかが髪の毛いじっちゃって。」
「もちろん!まあ、練習だと思ってリラックスして。」
「はい!」
「瑠可がね、」
「はい。」
「今度の日曜日、関東選手権に出るんですよ。
あなたには、是非見に来て欲しいって言ってました。」
「...そうですか。」
「忙しいのはわかるけど、見にいってあげられないかな。」
「...」
「瑠可にとって、あなたは特別みたいだから。」
微笑みを浮かべる美知留。
窓際の席でタケルの髪をカットする美知留のショット。
これはあの人の目線ですね!
会計を済ますタケルに、美知留が歩み寄る。
「あの、これ。瑠可に渡して下さい。
私、レースには行けそうにないから。」
そう言い、お守りをタケルに渡した美知留は、
窓の外に宗佑が立っていることに気づく。
宗佑が美知留に手を振る。
戸惑いながら手を振り返す美知留。
「彼氏?」タケルが聞く。
「...はい。」
「もしかして、帰り、待ってるとか?」
美知留が頷く。
「そうなんだ。優しいんですね。」
笑ってごまかす美知留。
店から出てきたタケルを睨みつける宗佑。
タケルが気づくと、視線を外す。
仕事を終え、美知留が店から出てきた。
「宗佑...
私、何時に上がれるかわからないのに、
待ってなくていいよ。」
「いいんだ。ここで、美知留のこと見ながら待っているのは、
苦痛じゃない。」
手をつないで歩く二人。
「男の客もいるの?」
「え?」
「男の客も担当するんだ。」
「...たまにはね。数は少ないけど。」
「今日のあの男は、知り合いだよね。」
「...なんで?」
「すごく、楽しそうに話してた。」
「瑠可の友達。
瑠可の家で、この前会ったの。
別にまだ、そんなによく知らない人だよ。」
「帰ったら、僕の髪も切ってくれる?」
「...いいよ。」
宗佑の部屋
宗佑の髪を切ろうとはさみを手に取る美知留。
「何で震えてるの?」
「あ...なんでだろう。
ちゃんと切らなきゃって思うと...緊張して。」
宗佑はハサミを持つ美知留の腕を突然ぎゅっと掴み、
そして歯を開かせると、自分の耳へと近づけていく。
「ちょっと...やめて。何すんの?
やめてよ...ねえ...
ちょっと!!」
必死に自分の手を引こうとする美知留。
「男の人の髪は切らないから...。
わかったから宗佑!!」
宗佑が美知留の手を離す。ハサミが床に落ちた。
宗佑はケープを投げ捨て、部屋を出ていく。
井の頭公園
「お待たせ!」タケルが瑠可に声をかける。
「おう!」
「チケット渡せたよ。」
「サンキュ。」
「それと、これ。美知留ちゃんから預かったんだ。」
タケルがお守りを渡す。
「レースには多分行けないけど、頑張ってって。」
「...そっか。わかった。
ありがとう。」
お守りをポケットにしまう瑠可。
自転車を押して歩く二人。
「あ、それと...美知留ちゃんの彼氏に会ったよ。」
「美知留の彼氏に?」
「うん。」
「どんなヤツだった?」
「あー、すごく優しそうだったよ。
でも...」
「でも?」
「...いや。すごく優しそうだった。」
タケルは宗佑の視線に一瞬感じた不安を、瑠可には話さなかった。
「そう...。」
「うん...。」
「なら良かった。
美知留ってあの年ですごい苦労しているんだよ。
親父さんは酒飲みで、借金は作って暴れるし。
今は別れたからいいみたいだけど、お母さんの方もだらしない人でさ。
でも、彼氏がちゃんとした人なら、安心だ。」
「...」
「あ、そういやタケル、うちに越してきたいとか言ってたの、
どうしたの?」
「あ、それね!
いや...どうしようかなーと思ってさ。」
「来ていいよ。
正直、男が来たら面倒だなーって思ってたんだけど、
エリが一人男連れ込んじゃったから関係ないし。
ていうか、あんたがいてくれた方が男臭さが中和されていいよ。」
瑠可が笑う。
「なんだそれ!俺のこと、脱臭剤か何かかと思ってんの?」タケルも笑う。
「いいねそのネーミング!」
「一緒に住もうと君に言われて、
それだけで俺は嬉しかった。
エスパーでも何でもない俺に、
それから起こるいろんな出来事を、
予想できるわけがなかった。」
4月13日、レースの日。
「頑張れよ。」先輩が声をかける。
「はい!」
その頃、美知留は宗佑の家で朝食の準備をしていた。
カレンダーを、そしてレースのチケットを見つめる美知留。
レース場
バイクを押して歩く瑠可の腰には、美知留のお守り。
宗佑の部屋
朝食を食べる二人。
美知留は時折、宗佑の顔色を伺っている。
「ご馳走様。」食器を下げる宗佑。
「...宗佑。」
「何?」
「...ううん。何でもない。」
レース場
スタートの位置に着く瑠可。
観客席から瑠可を声援する父、弟、タケル、エリ、友彦。
彼らの声援に微笑みながらも、そこに美知留の姿がないことに
寂しさを隠せない。
瑠可はバイクにつけたお守りにそっと触れてみる。
その時!
「美知留ちゃん!」エリたちの声が瑠可に届く。
声のするほうを辿っていくと...美知留の姿があった!
「頑張って!」
美知留の口がそう動くと、瑠可はしっかりと頷く。
「来てくれた!
美知留が来てくれた!」
瑠可のバイクが勢いよく飛び出していく。
3位、2位と順位を上げていく瑠可。
「今日だけは負けられない。
絶対に!」
瑠可のバイクが先頭を走る。
カーブを曲がろうとしたその時!
瑠可はバランスを崩し、転倒してしまう。
バイクから投げ出される瑠可とお守り。
「瑠可ーっ!!」美知留の叫び声。
病院で目を覚ます瑠可。
美知留が瑠可の手を握り締めている。
「瑠可...」「起きた?」
美知留とタケルはほっとしたように微笑みあう。
「瑠可...。カッコよかったよ。」と美知留。
「カッコ良くないよ。
負けたんだから...。
足、どうなってんの?」
「脳震盪。
足首は捻挫に、軽い打撲で、なんともないってさ。
エリと友彦さんは、仕事に行った。
お父さんたちは今、下で、入院の手続きしてる。」とタケル。
「そっか...。みんなに心配かけたね。」
「ううん。」と美知留。
「本当に良かった。大事に至らなくて。」とタケル。
ベッドに置かれたお守りに気づく瑠可。
「美知留がくれた、お守りのお陰だね。サンキュ。」
「ううん...
それじゃ、瑠可。私行くね。」
「忙しいのに、引き止めちゃってごめん。」
瑠可の言葉に、美知留は笑顔で首を横に振る。
その時、病室のドアをノックする音。
「お父さんかな?どうぞ。」とタケル。
入ってきたのは...宗佑だ!
美知留が動揺するのを、瑠可は見逃さなかった。
「こんにちは。」笑顔で挨拶する宗佑。
「こんにちは。この前は俺、」
タケルが話しかけるのを宗佑は無視し、美知留の前へ。
「瑠可さんに紹介してもらえるかな。」宗佑が美知留に言う。
ベッドに起き上がる瑠可。
「瑠可...。及川宗佑さん。
今一緒に暮らしているの。」
「はじめまして。美知留からよくお話は聞いています。」
「僕も、美知留からよくお話は。」笑顔で答える宗佑。
「今日は、ごめんなさい。こんな所にまでお付き合いいただいちゃって。」
「いいんですよ。怪我のほうは大丈夫なんですか?」
「はい。どうってことないです。」
「それは良かったです。バイクで転倒したと聞いたので。」
宗佑と瑠可が話すのを、不安な表情で見つめる美知留。
その様子にタケルも気づく。
美知留はタケルの視線に気づき...。
父、弟、タケルと楽しそうに会話する瑠可。
「ちょっとトイレ。」
「大丈夫?肩貸そうか?」とタケル。
「トイレまで?」
「ああ。」
「お願いします。...言うか、バーカ!」
タケルの肩を叩く瑠可。
「イテ!」
「お前...親切に言ってくださってるのに。」と父。
「大丈夫?ほんと。」タケルが心配する。
「はいはい。一人で大丈夫でーす。
あ、メロン残しておいてよ。」
瑠可は松葉杖をつきながら一人病室を出ていく。
松葉杖をつきながら廊下を歩いていた瑠可の耳に、男の声が聞こえてくる。
「何で約束を守れなかったのか言いなさい。」
「...ごめんなさい。」美知留の声。
「ごめんなさいじゃわからないよ。」
「...ごめんなさい。」
「レースだけ見てすぐ帰ってくる。
2時に終わるから3時には帰る。
そういう約束だったよね。」
「ごめんなさい。でも、」
ガタン、と大きな物音がし、慌てて音のするほうに急ぐ瑠可。
「何で約束守れないんだ。」
宗佑が美知留を突き飛ばし、イスを振りかざす。
瑠可は次の瞬間、松葉杖を投げ捨て、美知留の元へと走り出す。
「やめろ!」
美知留を庇う瑠可。
「私の美知留に触るな!」
「私の...美知留...。」
「瑠可...」