美知留(長澤まさみ)は、宗佑(錦戸亮)のそばにいてあげたい、
と瑠可(上野樹里)に訴える。
美知留は、自分自身も弱い人間だから宗佑の弱さがわかる、と
瑠可にいうと、宗佑のマンションへと急いだ。
瑠可は、そんな美知留の言葉に傷つき、激しく動揺し、
心配してくれたタケル(瑛太)の手を跳ね除けてしまう。
「...しょうがないや、もう。
帰るやつはとっとと帰ればいいんだ。
さあ飲も飲も!」瑠可が歩き出す。
「ほっといていいの?危なくない?」とエリ(水川あさみ)。
「...好きで帰ったんだから、どうしようもないだろ。」
電話で宗佑から、死ぬことにした、と告げられた美知留は、
震える手を押さえながらマンションの鍵を開けた。
「宗佑!!」
ソファーに座る宗佑に駆け寄る美知留。
すると宗佑は、何事もなかったように、
「お帰り。」と美知留に微笑む。
「携帯出して。」と宗佑。
「...」
「携帯。」
美知留は言われたとおり携帯を差し出す。
「又新しいの買うから。」そう言い立ち去る宗佑。
キッチンには、包丁が突き刺さったリンゴが置いてあり...。
美知留の卒業アルバムの瑠可が載っているページが燃やされる。
「美知留。
君は、僕のものだ。
...二人で生きていこう。
誰にも、僕らの邪魔はさせない。」
「...」
その夜、タケルやエリを誘って酒を飲みにいった瑠可は、
泥酔してしまい、タケルたちに抱きかかえられるようにして家に戻る。
「もう1軒行こうぜ!」はしゃぐ瑠可。
「もうすぐ家だよ。」とタケル。
「あーじゃあ家で飲もう!
タケルバーテンなんだからー。
酒出せ酒!」
「わかったよ。」タケルも楽しそう。
「瑠可ってさ、いつもぴしーっとしてるのに、
飲むとたまーにこうなっちゃうんだよね。」とエリ。
「子どもみたいに?」タケルが笑う。
「あるー日?森の中?」歌う瑠可。
「あれ?何で電気ついてんの?」とタケル。
「あ、ほんとだ。」とエリ。
シェアハウスには、妻の元に戻ったはずの友彦(山崎樹範)の姿があった。
「...オグリン!!」
「...やあ、お帰り!」
「で、結局どうするんですか?」タケルが聞く。
「...うん。あの...また、暫く、ここに置いてもらえると、
助かるんだけどね。」と友彦。
「奥さんとは別れんの?」と瑠可。
「あ...あの、それは...まだ。」
複雑な表情を浮かべるエリ。
「ていうか...奥さんと話し合って、暫く、試験的に別居しようって
ことになってさ...。」
「ずるいな!」と瑠可。
「...」
「寂しいからって今エリを頼ってさ。
奥さんがおいでおいでしたら、また尻尾振って戻っちゃうんだろ?
覚悟もなしにここに住むのかよ。
エリの気持ちちょっとは考えろよ!」友彦に掴みかかる瑠可。
「瑠可!いいよ。」エリが止める。
「そりゃ俺だって...先のことは...
自分の気持ちも含めて、...もうほんとどうなのか...。」
「いいんじゃないの?
私はいいよ、別に。
いたいだけ、ここにいればいいじゃん。」とエリ。
「エリ?」と瑠可。
「...いいの?」と友彦。
「先のことがわかんないのって、人間関係の常識じゃん。
まあ元々おぐりんとは、友達に毛が生えたようなもんだし。
いいよ、このまんまで。
まあお互い、いないよりいた方がちょっと嬉しいって感じで続いてれば。」
「...ありがとう。」
「...いいよね?」エリが瑠可に聞く。
「エリが...そこまで言うんだったら、私はいいけど。」
「いやー!ありがとう!!」
「それより...心配なのは美知留ちゃんだよね。」とタケル。
「そうだよ。本当にいいの?このままほっといて。」とエリ。
「いいんだよ。
...いいんだ、あいつのことは。」瑠可は悲しそうにそう呟く。
朝、歯ブラシに手を伸ばした瑠可は、美知留の歯ブラシに手を止め...。
「美知留。
あの日の、あの再会がなければ、
私はあなたのいない人生を生きているはずだった。
あなたの恋や、悩みを知って苦しむこともなかった。
元に戻せばいいだけ。
それまでと同じ様に、ずっと一人だったと思えばいい。
簡単だよ。
だって私は、そうやって生きてきたんだから。」
美知留の部屋の前で悲しそうに微笑む瑠可。
トランプで遊ぶ4人。
みんなにコーヒーを入れていたタケルは、美知留のマグカップを見つめ...。
今日のエリの衣装はチャイナドレス。
「あ...そういえばさ。
美知留ちゃん...どうしてるんだろうね。」と友彦。
「音沙汰ないよね。
携帯にかけてみたの?瑠可。」とエリ。
「いや。」
「俺はかけてみたけど。」とタケル。
「それで?」とエリ。
「繋がらなかった。
もう番号も使われてない。」
「...
エリ、手札、見えてるんだけど。
さっさと始めようよ。
そんなこと考えてもしょうがないじゃん。」
そう言う瑠可を心配そうに見つめるタケル。
「瑠可、どうしてだろう。
君の気持ちが、俺にはいつも、
手に取るようにわかってしまう。」
タケルは、美知留のことを心配して、彼女が働いていた美容室を訪れる。
が、美知留はすでに店を辞めていた。
「無断欠勤したり、急に早く帰ったりするから、
こっちも迷惑してたんですよね。
辞めてもらって助かったって感じ。」と令奈(西原亜希)。
「そうですか...。」
美容室で宗佑のマンションの住所を聞いたタケルは、
思い切ってそこを訪ねた。
ドアチャイムを押しても返事はなかったが、玄関のドアには鍵が
かかっていなかった。
不審を抱き、ドアを開けるタケル。
美知留は、部屋の中に洗濯物を干していた。眼帯をつけている。
「...美知留ちゃん?」
ゆっくりと顔を上げた美知留は、タケルの姿に急に怯え出し...。
喫茶店
怯えたように辺りを見渡す美知留。
「大丈夫だよ。彼は勤務中だから来られない。
さっき確認したから。」とタケル。
「...」
「美容室、辞めたんだね。」
「...」
「携帯は?」
美知留がカバンから携帯を取り出す。
「変えたんだ。彼に言われて。
毎日、何してるの?」
「ご飯...作ったり...洗濯したり、アイロンかけたり、
テレビ見たり...。
2時間置きに、彼から家電に電話が入るの。
...あ。もう帰らないと。」美知留が立ち上がる。
「待って!
目...どうしたの?」
「...」
「座って。
...ごめんね。」
タケルが美知留の眼帯を外すと、そこには殴られた痣があった。
「...何でそんなことを!」
「夕ご飯の買物の時間が掛かって、
彼が帰ってくる前に、家に帰れなかったの。
私が悪いの、うっかりしてたんだから。」
「美知留ちゃんが選んで、彼の元に帰ったのなら
それでいいと思ってた。
...でもこんな生活まともじゃない!早く抜け出さなきゃ!」
「でも...これが一番いいんだと思うんだ。
これが一番...誰にも迷惑が掛からない。」
「そんなことはない!
絶対にそんなことはないよ!」
「...」
その時、美知留の電話が鳴る。
「はい。」
「今どこ?」宗佑の声。
「...」
「何でうちにいないの?
家電に掛けたんだけど。」
「...ああ...ゴミ出すのに時間掛かっちゃって。」
「早くうちに戻ってるんだよ。
それと、夕ご飯の買物はしなくていいよ。
僕が何か買って帰るから。」
「...わかった。」
その時宗佑は家にいたのだ。
美知留の嘘に、宗佑は外に出かけていく。
「...美知留ちゃん。逃げよう、ここから。」
「...」
「もう充分耐えたんだ。
彼は変わらない。わかってるよね!」
「でも...」
「君がいなくなって、例え彼が傷ついても、彼が悪いんだよ!
君をこんなに痛めつけた、彼が悪い!」
「...」
「君は悪くない。」
「...」美知留が顔を上げる。
「シェアハウスに戻ろう。」
「...」
「みんな心配してる。
瑠可も...待ってるよ。」
タケルの温かい言葉に美知留は涙をこぼし...。
店を出た二人。
タケルが美知留に頷くと、美知留も頷き、そして歩き出す。
横断歩道を渡っていたとき、タケルは宗佑の姿に気がつき、
慌てて美知留の手を引き走り出す。
「どうしたの!?」驚く美知留。
「とにかく走って!」
宗佑が振り返る。
停まっていたタクシーに乗り込む二人。
「早く!!」タケルが運転手に言う。
「あ...はい。」
「早く出て下さい!」
「美知留!!」宗佑がタクシーの窓を叩く。
「早く!早く出して下さい!」
タクシーを追いかける宗佑。だがその差は広がっていき...。
タケルのバイト先
「今日は休みだから、今夜はここに泊まって。
毛布もあるし、一晩ぐらいなら何とかなると思う。」とタケル。
「...ありがとう。」
「すぐに、シェアハウスに戻るのは、危ないからね。」
「...」
「大丈夫。ちゃんと美知留ちゃんを守る方法はあるはずだから。」
「...」
「明日病院に行こう。
医者に診断書を貰って、虐待を受けたってことを証明出来れば、
彼を遠ざける、立派な理由になるから。」
「タケル君...」
「うん?」
「このこと...まだ瑠可には言わないで。
心配させたくないの。」
「...わかった。」
カウンセリングを受ける瑠可
「ご家族にも話をされたことはありませんか?」
「...父は、私が普通に女として結婚して、幸せになるのを
望んでいるんです。
それは言われなくてもわかります。
本当のことを言ったら、傷つくと思う...絶対に。」
「でもその分、あなたの中に、苦しみが溜まっていきますよね。
誰か一人でも、打ち明けられる人がいれば。
ご家族でなくても、友人でもいいんです。
本当のあなたのことを知っても、驚かず、受け止めてくれる人が
いたら、話してみるのもいいかもしれませんね。」
シェアハウス
DVについて調べるタケル。
そこへ、家の電話が鳴る。
「はい、もしもーし。」
「...」
「もしもーし。」
「...」
「どなたですか?」
電話の向こうで「ママー。」という声が聞こえてくる。
「...姉さん。」
電話をかけて来たのは優子(伊藤裕子)だった。
タケルは急いで電話を切る。
瑠可が帰って来た。
「お帰り...」動揺を抑えようとするタケル。
「ただいま。」
「...コーヒー入れようか。」
「うん...。」
コーヒーを入れるタケルの背中を見つめる瑠可。
「...タケル。」
「うん?」
「...やっぱいいや。ごめん。」
「...」
翌日、タケルは美知留を医者に連れていき診察してもらう。
タケルが一人でシェアハウスに戻ると、宗佑が姿を現す。
「美知留どこですか?」
「...ここにはいませんよ。」
「どこに美知留を隠した!」
「...あなたは彼女に暴力を振るった。
彼女のことを監視して、家に縛り付けた。
それは全て、法律に違反する行為です。
もしこれ以上あなたが、彼女に近づいて何か強要したら、
警察呼びますよ。」
「...」
「あなたの勤め先にも、訴えて出ます。
彼女を絶対に渡しません。
...帰って下さい。」
宗佑が帰っていく。
タケルはDVのことをきちんと調べたんですね。
美知留を探す宗佑にも迫力がありましたが、タケルも負けていなかった!
タケルの店
眼帯をはずし、鏡を見つめる美知留。
店の準備をしながらタケルが美知留を気遣う。
「...タケル君。」
「うん?」
「私も手伝うよ。」
「だいぶ元気になったね。
痣も...目立たなくなったし。」
「そう?」
「うん。
...シェアハウスに戻ろうか。」
「え...」
「みんなもきっと喜ぶよ。」
シェアハウス
「ただいま。」とタケル。
「おかえりー。」
「...あのさ、みんなこっち見てほしいんだけど。
帰って来たの、俺一人じゃないんだよね。
美知留ちゃん。」
タケルに呼ばれて美知留はリビングへ。
複雑な表情を浮かべる瑠可。
「美知留ちゃん!」とエリ。
「帰ってきたの!」と友彦。
瑠可は美知留を見ようとしない。瑠可の様子を気にする美知留。
「美知留ちゃんの美容室に、住所聞いて、行ってみたんだ。
そしたら...四六時中行動を見張られて、家から出してもらえなくて、
酷いことになってた。
もう見てられなくてさ。
ちょっと強引だったけど、連れ出してきた。」
「全然強引じゃないよ。当然だよ。よくやった!タケル。」とエリ。
「うん!あ...でも、ここも危ないかも。
ほら、彼、ここの場所知ってるし。
この前みたく、美知留ちゃん連れ戻しに来るかも。」と友彦。
「その時はみんなで、美知留ちゃん守ればいいよ!」とタケル。
「そうだね。美知留ちゃん一人じゃ心細いもん。
ヤツが来たら私らで撃退しちゃえばいいんだよ!」とエリ。
「そうだな。なんとかなるな!」と友彦。
「...瑠可。」美知留が声をかける。
「...」瑠可は顔を上げようとしない。
「瑠可?いいよな?」とタケル。
「...うん。まあいいけど。」
「ありがとう...。
みなさん、また...お世話になります。」
「もう!そんなしおらしいこと言っちゃって!」とエリ。
「そうだよー。
せっかくだからさ、再会を祝してワイン開けようよ!」と友彦。
「おーいいね!この間デパ地下で買ったやつ、開けよう!」とエリ。
「そうだね。飲もうか!
美知留ちゃん座って。」とタケル。
美知留が瑠可の隣に座る。
「...私、先寝るわ。」瑠可が席を立つ。
「え!?」とエリ。
「明日早いんだ。お先に。」
「...」
部屋に戻った瑠可はとても辛そうで...。
朝
瑠可が一番最後に起きてきた。
「おはよう...瑠可。」と美知留。
「おはよう。」
「今日は...バイトあるの?」
「今日は、ジムで自主練。
...私、朝メシパス!」
「え!?コーヒーだけでも飲んでったら?」とタケル。
「行ってきます!」
「...私も行ってきます!ご馳走さま。」エリが瑠可を追う。
「瑠可!」
「お先に。」自転車で先に行こうとする瑠可。
「ちょっと待って!駅まで話しながら行こう!」
「...」
「ほら!降りて!」
「わかったよ。」
「...ねー、何で怒ってるの?」
「別に怒ってなんかないよ。」
「優柔不断が嫌なわけ?美知留ちゃんの。
男とくっついたり離れたりっていう。」
「だから別に。」
「私はわかるけどねー。
人間って、白と黒だけじゃないから。
しょうもない男でもカワイイとこあったりするし。」
「...エリ、またおぐりん部屋に泊めてやってんの?」
「まあ...時々はね。」
「わかんないんだよねー。あんたのそういう緩さが。
いついなくなるかわからないのに、気許して。
あとで辛くなるのは自分じゃん?
そういうの怖くないの?」
「私はそれ程ヤワじゃないよ。
それ程おぐりんに入れ込んでないし。」
「そう...。」
「そっかー。だから美知留ちゃんに気を許さないんだ、瑠可。」
「え?」
「瑠可って、ほんっと美知留ちゃんのことが好きなんだねー。」
「...」
公園(5月10日土曜日11:40)
宗佑は美知留の携帯に電話をしてみるが、着信音が鳴るだけ。
ベンチに座り、袋から菓子パンを取り出す宗佑。
公園で遊んでいた少年?樋口直也(澁谷武尊)が寄ってきた。
「お母さんまた出かけてんの?」
宗佑の言葉に直也が頷く。
「パン食べる?」
少年がまた頷く。
宗佑はヤキソバパンをちぎって直也に渡し、
彼が美味しそうに食べるのを笑顔で見つめる。
こういう優しさを持っている人なんですよね。
バイト中の瑠可の携帯が鳴る。タケルからだ。
「今、森林公園の側にいるんだけど、自転車が急に壊れちゃってさ。
修理に来てくんないかな。」
「何で?何で私がそんなとこまで。」
「修理屋まで持ってけないんだよ、遠くて。
来てくれたら美味しいもんご馳走するから。」
「...気味悪いなー。」
工具セットを手に公園を訪れる瑠可。
「瑠可!こっちこっち!」
タケルは、美知留と一緒に待っていた。
「なんだこれ。」
タケルの自転車とは別に、二人乗り用の自転車もある。
「あのさー、このブレーキがキコキコいうから、
ちょっと油差してほしいんだよねー。」とタケル。
「ごめんね、わざわざ。」と美知留。
「二人して何やってんだよー。
てか何だ?この自転車。」
「サイクリングだよ、ねー!こんな、天気もいいし。」とタケル。
「一応点検しましたけど。」
工具を片づけ始める瑠可。
「あ!あのねー、この、タイヤのすべりが、悪いような気が
すんだよねー。あ、ちょっと、乗って、確かめてもらえないかな?」
タケルに言われて瑠可は二人乗り用自転車に乗ってみる。
タケルはすかさず美知留に早く後ろに乗れと合図。
美知留が慌てて後ろに乗る。
「普通に動くじゃん。」と瑠可。
「あ、ほんとだ。よし!出発進行!!」
タケルが二人の乗った自転車を押し、美知留がペダルを踏み込む。
「ちょっとちょっと!何やってんだよ。何だよこれ!」
足をペダルから離す瑠可。
二人の自転車をタケルが自分の自転車で追う。
「岸本選手!追いつかれました!」とタケル。
「は?」
「ぐんぐん差を開けられます!」
「チックショー!テメーなんかに負けてたまるかーーっ!」
瑠可の後ろで美知留が楽しそうに笑う。
「マジで抜かすよ!マジで抜かす!マジで抜かすーー!!」
「おしりペンペン!」
「待てよタケルーーっ!!」
ベンチに座ってお弁当を食べる三人。
「美味しいもんってこれかよ。サンドイッチ!」と瑠可。
「美味しいでしょう?
青空の下で、最高でしょう!」とタケル。
「美味しいな、私は。懐かしいし。
ね、学校抜け出して、よく公園でお昼食べたよね。二人で。」と美知留。
「そうだね。
でも...学校嫌いだったなー。
制服も...全部!」
「いつもジャージだったよね、瑠可。」
「スカートなんか履いてられるかよ。」
「...瑠可。ごめんね。」
「何で謝んだよ。」
「私のこと...見てると苛々するんでしょ?
どっちつかずで、ふらふらして。」
「そんなことない!
そんなことないよ。」
瑠可の言葉に美知留は嬉しそうに微笑む。
「美知留...知ってる?
私があなたから目をそらしてしまうのは、
いつまでも見続けていたいから。
あなたに優しく出来ないのは...
あなたを失うのが怖いから。
この穏やかな時間がいつまでも続くといい。
出来るなら...いつまでも。」
帰り道
「でさ、正直どうなの?彼と、別れられそう?」と瑠可。
「...宗佑といるとね、自分がどんどん無くなっていく
感じがしたの。
いつも自分より、宗佑の気持ちを優先してきた。
そうするとね、自分が今、何を感じているのか、
何が好きで、何が嫌いか、
本当は何がしたいのか、
そういうことが、わからなくなっていくの。
そうやって、大抵のことには慣れちゃうの。
でも...最後まで嫌だったことがある。」
「何?」とタケル。
「彼が...瑠可のことを悪く言うこと。」
「へー。何て言うんだ?」と瑠可。
「...あんなヤツ...女じゃないとか。」
「...」
瑠可の顔色が変わる。
心配そうに瑠可を見つめていたタケルが笑い出す。
「いや...ま、それは言われてもしょうがないよな!ハハハ。」
「おい、どっちの味方だよー。」と瑠可。
「じゃーねー!」
「ちょっと待てよー。」
夜、塾から帰ってきた瑠可の弟?省吾(長島弘宜)が男とぶつかる。
それは...宗佑だった。
岸本家を見つめていた宗佑は...。
岸本家
「あら!いらっしゃい。」と瑠可の母?陽子(朝加真由美)。
「はい。母の日。いつもありがとう。」
瑠可がカーネーションを渡す。
「あらー!ありがとう!」
瑠可が弟と話している時、陽子は修治(平田満)と部屋の外で話をする。
「何あれ。」と瑠可。
「うちのポストに、変な紙が入ってたんだよ。」と省吾。
「紙?」
「二人とも俺に隠そうとするんだけど、俺、見ちゃったんだよね。
ポストの下にも、1枚、落ちてたから。
...見る?」
「うん。」
省吾が紙を渡す。
『あなたの娘、岸本瑠可は
女の体の中に男の心が入った
バケモノです。
男のようにいやらしい目で親しい女のことを見ている、
歪んだ精神の持ち主です。
嘘だと思うなら本人に確かめてください。』
「...」
「世の中変なヤツがいるよね。
やっぱ、優勝とかすると、恨み、買うのかな。」と省吾。
「...うん。」
廊下で話す両親。
「お父さんから瑠可に聞いてみて。」
「うん...」
「お父さん。」瑠可が声をかける。
「あ?」
「いい?」
「ああ、いいよ。」
二人が部屋に戻る。
「なんか、変な手紙が来てたんだって?
省吾に見せてもらった。」
「省吾お前...」
父の言葉に慌てて部屋を逃げ出す省吾。
「...瑠可。あなた...そういうこと書かれる覚えあるの?」
母親の、父親の複雑な表情。
「...ああ。女子で、抜群の記録で優勝したから、
恨まれてるんじゃないかな。
女同士の嫉妬って、すごいからさ。」
「ああ...」と陽子。
「そういうことか!」と修治。
「もしかして、ちょっと本気にした?
私男っぽいからね。」
「そんなことないよ。」と修治。
「お母さんいつも言ってるじゃない。
あなた、普段から言葉遣い乱暴すぎるのよ。
そういうこともね、人様の恨みを買うのよ。」
「はいはい、わかりました。」
瑠可はそう言いながら手紙を丸めてゴミ箱に捨てると、
父の背中を見つめ...。
ため息をつきながら家に帰る瑠可。
シェアハウス
ドアの音に驚いて振り返る美知留。
「あ...お帰り!」
「ただいま!」と瑠可。
「コーヒー入れよっか。
あ!DVD一緒に見ない?
今日、駅前で借りてきたんだ。会員登録して。」
「...ごめん。
今日は、疲れてるんだ。」
「あ...そう。」
「おやすみ!」
瑠可は部屋に行ってしまう。
リビングで一人ぼっちの美知留。
そして、自分の部屋で一人ぼっちの瑠可。
同じ屋根の下に住んでいても、遠い存在の二人...。
「ただいまー。」タケルが帰って来た。
「...」
「美知留ちゃん?」
美知留が涙を拭う。
「ごめんね。
お茶...でも入れようか。コーヒーがいい?」
「...どうしたの?」
「...わからない。
自分でも...よくわからないの。
ただ...なんとなく寂しくて...。
私...やっぱりここにいない方がいいんじゃないのかな。」
「何で?」
「瑠可に...許されてないような気がする。」
部屋から出てきた瑠可は二人の話声に気づく。
「そんなことないよ。
もし美知留ちゃんがここ出てったりしたら、瑠可悲しむよ。
すごく悲しむ。」とタケル。
「タケル君は...瑠可のことがよくわかるんだね。」
「...」
「私は...時々瑠可がわからなくなる。
時々...壁を感じるの。」
「壁?」
「瑠可とは、ずっと昔からの友達だし、大事にしてくれてる。
でも...瑠可の心のどこかに、壁があって...
その中には、踏み込めないの。」
「...」
「ごめんね...よく、わかんないよね。
ごめん...おやすみ。」
美知留はそう言い自分の部屋へ。
タケルが瑠可に気づく。
「...聞いてた?」
「ちょっと散歩行ってくる。」瑠可が出ていく。
公園
ブランコに座り考え込む瑠可。
そこへタケルがやって来た。
何も言わずに隣りのブランコに座り、そして楽しそうにブランコを
漕ぎ出す。
瑠可に笑いかけながらブランコに揺れるタケル。
つられて瑠可も微笑む。
「...タケル。」
タケルがブランコを止める。
「美知留が言ってたこと本当なんだ。
私は...心の中に壁を作って、
そん中に人を入れない。
...何でかってさ...
本当の自分知られて、嫌われるのが怖いからなんだ。
私...今まで...人に隠してきたことがある。
...誰にも言えない秘密がある。
でも...タケルには聞いて欲しい。
聞いてくれる?」
真剣な顔で瑠可を見つめるタケル。
「...ごめん。
その前に一つだけ...俺も瑠可に話したいことがあるんだ。
いいかな。」
「...なに?」
「瑠可を見ていると思うんだよな。
俺に、似てるって。」
瑠可の前にしゃがみ込むタケル。
「俺も...小さい時に、あることがあって...
それをずっと人に言えずに、苦しんできた。
でも、今言いたいのはそんなことじゃない。
もっと、大事なこと。
...瑠可。
俺...君が好きだ。」
「...」
「君のことが好きだ。」
「...」