人々も、「さることは知り、歌などにさへ歌へど、思ひこそよらざりつれ。なほ、この宮の人には、さべきなめり」といふ。
(現代語訳)
雪がとても高く降り積もったのに、いつも違い御格子を下ろして、角火鉢に火をおこして、よもやま話などして伺候していると、中宮様が「少納言よ、香炉峰の雪はどうであろう」と仰ったので、御格子を上げさせて、御簾を高く上げてごらんに入れたところ、中宮様はお笑いになられた。 他の女房たちも、「そういうことは私たちも知っているし、歌などにも歌うけれど、全然思いつきませんでした。あなたはやはり中宮様にはふさわしい人です」と言った。(注)香炉峰の雪いかならむ・・・漢詩の『白氏文集』の「香炉峰下に新に山居を卜(ぼく)し、草堂初めて成る。たまたま東壁に題す」の詩にある「遣愛寺の鐘は枕を欹(そばだ)てて聴き、香炉峰の雪は簾(すだれ)をかかげて看る」の詩句を活用したもの。