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過去から来た女18

时间: 2018-07-30    进入日语论坛
核心提示:18 夜の乗《じよう》降《こう》客《きやく》 「銃《じゆう》声《せい》だって?」 草永は飛びはねるような勢いで、立ち上った
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 18 夜の乗《じよう》降《こう》客《きやく》
 
 「銃《じゆう》声《せい》だって?」
 草永は飛びはねるような勢いで、立ち上った。
 「分らないの。でも、そんな風に聞こえたのよ」
 「すぐ行ってみよう!」
 「ええ。でも——」
 「何だい?」
 「鉄男君がどこからかけてきたのか、分らないわ」
 「なるほど」
 草永はちょっと考えて、「ともかく、自《じ》宅《たく》へ行ってみよう。どこか他の所にいるとしても、ここじゃ調べようがない」
 「そうね」
 と、文江は肯《うなず》いた。
 ——二人が駅の近くまでやった来たとき、途《と》中《ちゆう》の家から、ヒョイと出て来た人《ひと》影《かげ》と、あやうくぶつかりそうになった。
 「——あら、お嬢《じよう》様《さま》」
 と、言ったのは、鉄男の母だ。「こんな時間にどこかへお出かけですか?」
 「鉄男君は?」
 「鉄男にご用ですの? 駅で仕事だと思いますけど」
 そうか、と文江は思った。そういえば、まだ最後の列車には間がある。するとあの電話は駅からだろうか?
 「じゃ、ご一《いつ》緒《しよ》に駅まで参りましょうか」
 と、鉄男の母が歩き出す。
 文江と草永は、電話の銃《じゆう》声《せい》のことはまだ話す気になれず、その後をついて行った。
 駅《えき》舎《しや》は、ポツンと明りが灯《とも》っているだけで、静かなものであった。
 もちろん、最後の列車に、乗《じよう》降《こう》客《きやく》はほとんどいない。バスなら、常《つね》に「通《つう》過《か》」というところだろう。
 実《じつ》際《さい》、駅が失《な》くならないのが不思議なほどである。
 「どこにいるのかしら、鉄男は」
 と、母親は駅舎の方を見て、「あそこにはいないようですね。——鉄男」
 呼《よ》びながら、ホームの方へ入って行く。
 文江と草永は、少し遅《おく》れてホームへ入ったが、別《べつ》に広いホームでもない。人っ子一人いないことは一目で分る。
 「変ですね……」
 文江は、誰《だれ》もいないように見える駅舎の方へと近づいて、中を覗《のぞ》き込《こ》んだ。——古ぼけた机《つくえ》、椅《い》子《す》、キャビネット。
 「見て!」
 と、文江は言った。
 机《つくえ》の下から、足が出ている。
 「大変だ!」
 草永は、ドアを開けて中へ飛び込《こ》んだ。文江も続く。——やはり殺されていたのか?
 すると……机の下から、モゾモゾと鉄男が這《は》い出して来たのである。
 そして、呆《あつ》気《け》に取られている文江と草永を見上げると、
 「やあ、お嬢《じよう》さん!」
 と、ヒョイと起き上って、「何かご用ですか?」
 と訊《き》く。
 「鉄男君……。どうしたの?」
 文江はすっかり面食って訊いた。
 「いえ、机の下のコンセントがいかれちゃったんで、直してたんです」
 鉄男は立ち上って、ズボンの尻《しり》をはたいた。
 「そうじゃなくて——さっき、どうして電話を切ったの?」
 文江の問いに、鉄男はキョトンとして、
 「電話って何です?」
 と訊《き》き返して来た。
 「さっき、かけて来たじゃないの。昼間の話のことで」
 「さっきって……。かけませんよ、僕《ぼく》」
 「かけないって?」
 文江は耳を疑《うたが》った。「あなたから電話で……急にズドンって音がして……」
 「ズドン? 何です、それ?」
 文江は頭を叩《たた》いた。もちろん自分のである。
 「——つまり、偽《にせ》電《でん》話《わ》だった、ってわけだな」
 と草永は言った。「ともかく君が無《ぶ》事《じ》で良かったよ」
 「どうも……」
 鉄男の方も、文江に劣《おと》らず、わけの分らない様子で、二人の顔を見ている。
 「——鉄男」
 と、母親が顔を出す。
 「あ、母さん。どうしたんだい?」
 「出かけた帰りよ。真《ま》面《じ》目《め》にやってるのかい?」
 「当り前だよ」
 と、鉄男はシャンと背《せ》筋《すじ》を伸《の》ばした。「俺《おれ》一人がこの駅をしょって立ってんだぜ」
 「いきがってるのはいいけどね」
 と、母親が言った。「何だか列車の音がするようだよ」
 「いけねえ!」
 鉄男は、あわてて帽《ぼう》子《し》をかぶると、ホームへ飛び出して行く。トンネルに、ゴーッと列車の轟《ごう》音《おん》が響《ひび》き、先頭の、目玉のようなライトが、光を投げながら近づいて来た。
 母親がため息をつくと、
 「日本の国鉄は大《だい》丈《じよう》夫《ぶ》なんでしょうかね、あれで」
 と、社《しや》会《かい》評《ひよう》論《ろん》家《か》の如《ごと》きことを言い出した。
 だが、文江の関心は、差し当り、国鉄の未来よりも、あの電話の方にあった。
 「鉄男君の声のように聞こえたけど……」
 「でも、撃《う》たれもしないでピンピンしてるじゃないか」
 「そうなのよね……どうなっちゃっているのかしら、全く!」
 と、苛《いら》々《いら》した声を出す。
 草永が何か言った。しかし、ちょうどホームへ入って来た列車の音でかき消されてしまう。
 「——何て言ったの?」
 と、文江は訊《き》き返した。
 「——そこが君とお母さんの違《ちが》う所だ、と言ったのさ」
 「どういうことよ?」
 「つまり、妙《みよう》なことが起ると、君は頭に来て放り出す。君のお母さんはおっとりと受け止めて考える」
 「そりゃ、年齢《とし》の差よ」
 と、文江は言い返した。「——あら、珍《めずら》しい」
 「え?」
 「ほら、降《お》りる人がいたわ」
 振《ふ》り向くと、なるほど、人《ひと》影《かげ》が一つ、ホームへ降り立ったところである。
 明りの届《とど》く所まで歩いて来ると、コートに身を包み、顔を伏《ふ》せがちにした婦《ふ》人《じん》だと分った。かなりの年《ねん》齢《れい》と見えた。
 「——切《きつ》符《ぷ》を」
 と、鉄男に言われて、その老婦人は、急いで切符を鉄男の手に押《お》しつけ、小走りに改《かい》札《さつ》口《ぐち》を抜《ぬ》けて、出て行った。
 「——まあ、あの人」
 と、少し間を置いて、鉄男の母が言った。
 「知ってる人?」
 と文江が訊《き》くと、
 「ええ、ちょっと見たときは分らなかったんですけどね」
 と、肯《うなず》いて、「あの人、坂東さんですよ」
 「坂東?」
 草永が驚《おどろ》いて、「坂東和也の母親ですか?」
 「ええ、間《ま》違《ちが》いありません。ずいぶん老《ふ》けてしまったので、すぐには分りませんでしたわ」
 「あれが坂東雪乃さん……」
 文江は呟《つぶや》いた。もちろん、文江とて知っているはずなのだが、やはりあまりに変ってしまっていたのだ。
 あまりに思いがけない出《しゆつ》現《げん》に、二人はしばし呆《ぼう》然《ぜん》としていたのだが——。
 「草永さん! あの人を見失わないようにしなきゃ」
 我《われ》に返って、文江は駆《か》け出した。
 「そうだ!」
 少なくとも、坂東雪乃は、夫が殺された事《じ》件《けん》で、警《けい》察《さつ》が捜《さが》しているのである。見付けたからには、警察へ通《つう》報《ほう》しなくてはならない。
 が、今の二人は、そんなことは別に気にもしていないのはもちろんである。ともかく、事件を解《と》く鍵《かぎ》の一つが、彼女《かのじよ》なのだ。それこそ肝《かん》心《じん》なことだった。
 文江は改《かい》札《さつ》口《ぐち》を出て、町への道を走った。坂東雪乃が、こっちへ来たのは見ていたのである。
 年《とし》寄《よ》りの足だ。そう遠くへ行くはずはない。しかし、しばらく走っても、雪乃の姿《すがた》は見えなかった。文江は足を止めた。
 「おい、どうしたんだ?」
 草永が追いついて来る。「いなくなっちゃったじゃないか」
 「変だわ、この道しかないはずよ」
 「だって、いないよ、本当に」
 「そうねえ……。どこへ行っちゃったのかしら?」
 「まさかあの婆《ばあ》さんが、百メートルを一〇秒で走ってったわけないだろうし……」
 「途《と》中《ちゆう》、どっちかへ隠《かく》れたのかもしれないわよ」
 と、文江は言った。「ねえ、捜《さが》してみましょう。あなたは右側、私、左側を捜すから」
 「OK」
 文江と草永は手分けして道の両側を見て回った。——しかし、ついに、坂東雪乃の姿《すがた》は見当らなかったのである。
 
 
 「ああ疲《つか》れた」
 文江は、玄《げん》関《かん》にペタンと腰《こし》をおろして、息をついた。
 疲れるはずだ。その怪《かい》電《でん》話《わ》でここを出たのが九時過《す》ぎ。もう十二時を回っている。
 三時間も歩き回っていたことになるのだ。
 「お帰りなさいませ」
 と、うめが出て来る。
 「まだ起きてたの」
 と、文江は上りながら言った。
 「はい。お客様がおいででしたので」
 「まあ、お母さんに?」
 「さようでございます。——お風《ふ》呂《ろ》へ入られますか?」
 「ええ、そうするわ、お母さんはもう寝《ね》たの?」
 「お休みになったようです」
 「じゃ、こっちも休むことにするわ」
 と、文江は欠伸《あくび》しながら言った。
 「ご一《いつ》緒《しよ》にお入りになりますか?」
 とうめが訊《き》くと、
 「いや、別々ですよ」
 と、草永があわてて言った。
 階《かい》段《だん》を上がりながら、文江はクスクス笑《わら》って言った。
 「分って言ってるのよ、うめは。本気にしないで」
 「本当は一緒でもいいんだけどね」
 と、草永が言うと、
 「お断《ことわ》りよ」
 と、文江が舌《した》を出す。
 「こいつ!」
 草永が笑って抱《だ》きつこうとしたので、文江は素《す》早《ばや》く逃《のが》れる。二人は笑いながら、二階の廊《ろう》下《か》で追いかけっこをしていた。
 急にガラリと障《しよう》子《じ》が開いて、公江が顔を出す。
 「あ——お母さん」
 文江があわててピタリと立ち止ったので、草永が止り切れずに追《つい》突《とつ》した。二人は一《いつ》緒《しよ》に廊《ろう》下《か》で引っくり返った。
 「若《わか》いのはいいことだけど、家を壊《こわ》さないでよ」
 と公江は澄《す》ました顔で言った。
 「し、失礼しました」
 草永が立ち上りながら頭をかく。
 「お母さん、二階で何してるの?」
 「お客様とお話ししてたのよ」
 と公江は言って、「そうね、お前もお話があるんじゃないの? 入りなさい」
 と、障子を大きく開けた。
 「まあ——」
 文江は言葉を呑《の》み込《こ》んでしまった。
 そこに座《すわ》っていたのは、さっき、駅で見た老《ろう》婦《ふ》人《じん》——坂東雪乃だったからである。
 「坂東さんよ」
 と、公江が言った。「文江、入ったら?」
 「ええ……」
 文江は、ポカンとして、部《へ》屋《や》へ入ると、座《すわ》り込《こ》んで、「じゃ、お母さんは——」
 「姿《すがた》が消えた謎《なぞ》が分ったね」
 と草永が微《ほほ》笑《え》んだ。「要するに、お母さんが迎《むか》えに行っていたんだ」
 「で、車でさっと連れて来たのね。見付からなかったはずだわ」
 「お久《ひさ》しぶりです」
 と、坂東雪乃は、文江の方へ頭を下げた。
 「こちらこそ……。あの——和也君のことは本当にお気の毒でした。私のせいでもあるんです。申し訳《わけ》ありませんでした」
 とっさのことで、うまい言葉が出て来ないのだ。
 「ところで——」
 と、草永が助け舟を出す。「今までどこにおられたんです?」
 「隣《となり》の町に」
 と、雪乃は言った。
 「隣の町?」
 「はい」
 雪乃は、笑《わら》って穏《おだ》やかに言った。
 「待って下さい」
 と、文江が言った。「じゃ、お母さん、それを知ってたのね?」
 「私のお友達の家にいたのよ」
 と、公江は平然と言った。
 「——お母さんたら!」
 「私はずっと坂東さんを助けて来たんだもの、今さら見《み》捨《す》てるわけにはいかないでしょ」
 「じゃ、生活費を送っておられたのは——」
 と草永が言いかける。
 「私ですよ。ともかく、この村を追われるようにして出て行った人の面《めん》倒《どう》をみるのは常石家の者の義《ぎ》務《む》ですからね」
 「お母さんらしいわ」
 と、文江は肯《うなず》いた。「でも——坂東さんがあんなことになって——」
 「主人を殺したのは、私じゃありません」
 と雪乃は言った。
 「じゃ誰《だれ》が?」
 「分りません」
 と、雪乃は首を振《ふ》った。
 「時々お宅《たく》を訪《たず》ねていたというお年《とし》寄《よ》りはどなたなんです?」
 と草永が訊《き》く。
 「あれは、昔《むかし》この田《でん》村にいた人ですよ」
 と、公江が答えた。「一時、この家で働いていてね。それから東京へ出て行ったの。今でも私のためにあれこれ働いてくれます」
 「すると、文江さんが帰って来たとき、すぐに坂東さんへそのことを連《れん》絡《らく》なさったんですね?」
 「あの晩《ばん》にね」
 「でも坂東さんは殺された……」
 と、文江が考え込《こ》む。「——奥《おく》さんがアパートを出られたのは十時頃《ごろ》でしたね」
 「そうです」
 と、雪乃が肯《うなず》く。
 「ご主人はその前に殺されていたと聞いていますが」
 「そうらしいですね」
 と、雪乃は当《とう》惑《わく》顔《がお》で言った。「よく分りません——主人はあの朝一番の列車でこちらへ向うはずでした。私は荷物を持って追いかけて行くことになっていて……」
 「じゃ、別々に出られたんですの?」
 「はい。主人がアパートを出たのは七時頃でしょう」
 「奥さんが十時ぐらい——ですね」
 「ええ。お隣の奥さんと挨《あい》拶《さつ》をしましたわ」
 「その間にご主人は殺されているんです」
 「——つまり外で殺されて、アパートへ運び込《こ》まれたんだ」
 と、草永は言った。「ご主人は、出かけるとき、誰《だれ》かと会うようなことをおっしゃいませんでしたか?」
 「いえ、何も」
 「じゃ、奥《おく》さんは事《じ》件《けん》のことを知らずに、この村へ来たんですか?」
 「隣《となり》の町よ」
 と、公江が言った。「その方がいいと思ったの。突《とつ》然《ぜん》帰って来たら、村の人たちも動《どう》揺《よう》するでしょう」
 「で、お母さんのお友達の家に?」
 「そこで初めて主人のことを知らされました」
 と、雪乃はため息をついた。「——運の悪い人です。やっと、和也の罪《つみ》が晴れたというのに」
 「その点は申し訳《わけ》ありません」
 と、文江は言った。
 「いえ、お嬢《じよう》さんのことをどうこう申しているんじゃありません」
 雪乃は急いで言った。「聞けば、和也は銀行強《ごう》盗《とう》までやっていたとか。——いつかはあんなことになる運命でした」
 「そこなのよ」
 と公江が言った。
 「え?」
 文江が母の顔を見る。「そこ、ってどういうこと?」
 「どうもね、考えてると簡《かん》単《たん》なことが、実《じつ》際《さい》やってみると割《わり》合《あい》に手間取ったり、こりゃ大変だなって思うことが、やってみると呆《あつ》気《け》なくできたり……。そんな憶《おぼ》えがない?」
 「そりゃあるけど、この事《じ》件《けん》と何の関係があるの?」
 文江は少々苛《いら》々《いら》しながら言った。
 「まあ待てよ」
 と、草永が抑《おさ》える。「お母さんの話、何となく分るよ」
 「ねえ、そうでしょう? やっぱりあなたの方が娘《むすめ》より一《いち》枚《まい》上《うわ》手《て》ですわ」
 文江は草永をにらんだ。
 「何なら母と再《さい》婚《こん》したら?」
 「おい、そんなに目を三角にするなよ。つまり、お母さんがおっしゃりたいのは、お金をあそこに埋《う》めるのが、いかに大変なことか、ってことでしょう。違《ちが》いますか?」
 「その通りですよ」
 と公江が肯《うなず》く。「大体、警《けい》察《さつ》があのお金を掘《ほ》り出すのに、どれだけ手間がかかったか、考えてごらんなさい。あんなに深く埋めるのは大仕事ですよ」
 「そうか……」
 と、文江が肯く。「でも和也君は、あのすぐ後に、警察へ引張って行かれた……」
 「家へ帰されてからも、あんなことをやる暇《ひま》があったかしら?——ともかく、ご両親も家に引きこもっていたはずですもの」
 「ええ、とてもそんなことができたはずありませんわ」
 と、雪乃が言った。
 「ということは、あそこが空家になってから、お金が埋《う》められた、ってわけね」
 と、文江は言った。「じゃ、誰《だれ》が……?」
 「あの家の持主は金子駅長だった」
 と草永。
 「そうです。金子さんから、主人はお金を借りていましたから」
 「つまり、金子さんはあの家の鍵《かぎ》を持っているんですね?」
 と文江が訊《き》いた。
 「はい。お持ちのはずです」
 「じゃ、金子さんがあのお金を埋めて、それきり掘《ほ》り出せなかったのね。やっぱり推《すい》理《り》は正しかったんだわ」
 「まあ百パーセントとは言えないけどね」
 草永が同意した。「すると、金子さんは、銀行強《ごう》盗《とう》の一味だったのかな?」
 「ちょっと考えにくいけど……」
 しばらく誰《だれ》も口を開かなかった。
 「——どうやら、こんな狭《せま》い田《でん》村でも、隠《かく》された生活があったようね」
 と公江が言った。
 「金子さんみたいに実直な方にも?」
 「そう。——なまじ、真《ま》面《じ》目《め》と思われている人ほど、暗い部分を表に出せなくて、苦しむものよ」
 「よく分ります」
 と草永が言った。「僕《ぼく》もそうですから」
 ちょっと間を置いて、文江がプッと吹《ふ》き出し、笑《わら》い転げた。いささか不《ふ》謹《きん》慎《しん》な行動ではあったが……。
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