宮本百合子
月そそぐいずの夜
揺れ揺れて流れ行く光りの中に
音もなく一人もだし立てば
萌え出でし思いのかいわれ葉
瑞木となりて空に冲る。
乾坤を照し尽す無量光
埴の星さえ輝き初め
我踏む土は尊や白埴
木ぐれに潜む物の隈なく
黄朽ち葉を装いなすは
夜光の玉か神のみすまるか
奇しき光りよ。
常珍らなるかかる夜は
炫燿郷の十二宮
眼くるめく月の宮
瑠璃の階 八尋どの
玉のわたどの踏みならし
打ち連れ舞わん桂乙女
うまし眉高く やさめの輝き
長袖花をあざむけば
天馳つかい喜び誦し
山祇もみずとりだまも
ともに奏でん玉の緒琴 箏の笛
妙なりや秋の夜
心ゆく今の一とき
久遠劫なる月の栄え
讚えんに言の葉も得ず
いずのみお我辺かこむ。
秋の夜