第二の精霊 もうその先はやめにしよう、陽気のせいか耳がいたむワ。デモナ、口のさきではどうにでも□□るものじゃ、トックリと胸に手を置いて考えて見なされ、日光にてらされたばかりじゃなくはげた頭が妙に熱うなる骨ばった手がひえて身ぶるいが出る事が必ず有ろうナ。ヘッ罪作りな……
第一の精霊 若い人がござるは、年功でもない、一寸はつつしまねばならぬワイ。なんぼ春だと云うて御主のはげはやっぱりかがやいてあるのに、口元に関所を置いてとび出すならずものは遠慮なくからめとる様に手はずをなされ――そう思わぬか?
第三の精霊 思うも思わぬもわたしゃそんなひまをもたぬ、考えるにせわしいワ。考えれば考えるほどわかりにくくばかりなる心を新規蒔なおしに考え始めにゃならぬ。
第二の精霊 マ、そのまま考えたいなら考えさせて置きなされ、わし等に損は行かぬことじゃ。ところでじゃ、あの精女の姿を思い出して見なされ、思い出すどころかとっくに目先にチラツイてある事じゃろうがマア、そのやせ我まんと云う仮面をぬいで赤裸の心を出さにゃならぬワ、昨日今日知りあった仲ではないに……
第一の精霊(チラッと第三の精霊の方をぬすみ見しながら)ほんとうにそうじゃ、春さきのあったかさに老いた心の中に一寸若い心が芽ぐむと思えば、白髪のそよぎと、かおのしわがすぐ枯らして仕舞うワ。ほんとに白状しよう、わきを向いて居なされ――、お互さまじゃよ!
第二の精霊 わしの目玉の黒い内はハハハハ……
マ良いワ、があのシリンクスの美くしさと云うたら……ま十年若かったらトナ、お互に思うのも無理であるまいと自分できめて居るのじゃ。ましてこの頃の気候で倍にも倍にも美くしく思われるワ。
第三の精霊はフッと首をあげて一つとこを見つめながら二人の話をきく目の中には悲しみと怒りがもえて居る。うつむきにねころんで居たのを右の手を台にして横になる、耳をすまして首が一寸かたむいて居る。
第一の精霊 だが及ばぬ事じゃ、いかな物ずきでもしわくちゃなはげおやじに……ウフフフフフおかしい様な気もするワ、いい年をして子の様な精女の姿にうなされるとは――はかりきれない美くしさをもって居ると見える。
第二の精霊 若さと美くしさの盛の年をして居るペーン殿のこの頃の眼の光りをお主は気づいてござるか? わしのすばしこい眼の奴は、ちゃんと見ぬいてしもうたワ、恋のやっこになってござるとナ。云うまでもなくシリンクスの肌のしなやかさをしとうてじゃ。
第一の精霊 アポロー殿がとび切りの上機嫌の今日でさえ嬉しがりもせず笑いもせなんだものと云う謎はとけたワ。ペーン殿は、年がまだ若いワ、髪が房々としなやかで頬は豊かで――うらやましい事じゃ、今はなやんでござっても末の日の望はあるワ。
第三の精霊(ひくくうなされてうなる様に)私も同じ事でなやむのじゃ。ペーン殿には末の日の望があろうが私は、ただ無駄になやむばかりじゃ――。――ただ無駄に――
第二の精霊 オヤ、若い御仁は何と云いなされた?――同じ事でなやむのじゃとナ? とがめはせぬワ、無理だとも思わぬワ、じゃが、マ、ただながめるだけの事で御あきらめなされと云わねばならん様な様子をあの精女はして居るじゃ。