第三の精霊 ――
第一の精霊 だれでも一度はうけるあまったるい苦しみじゃナ。そのあったかい涙をこぼして居られる中が花じゃと、私達の様になっては思われるワ。私達が若かった時――お事位の時には幸いあの精女の様な美くしい女は居なんだからその悲しみもうすいかなしみであったのじゃ。お事の若い心にはあの精女はあまり美くしすぎたの…………
第二の精霊 ほんにその通りじゃ。美くしすぎたのじゃ世の中すべての男に――
第三の精霊はうなだれてあっちこっちと歩き廻って居る。まわりには何となく重い気分がにじんで居る。
若い男は自分の老いた時の事を、老いた人達は自分の若かったことを思って居る。
三人ともだまったまんま木の間を行ったり来たりするうちに一番川に近い方に居る第二の精霊がとっぴょうしもない調子で叫ぶ。
第二の精霊 来る! 来る! ソラ、あすこに、私達の――
するどく叫んであとはポーッとした目つきで向うを見る三人の目が皆そこに集った。
白い着衣に銀の沓をはいてまぼしい様なかおをうつむけてシリンクスが向うの木のかげから出て来る。
かすかな風に黄金色の髪が一二本かるそうに散って居る。手には大理石の壺を抱えて居る。
何か考える様な風に見えて居る。
三人の精霊は一っかたまりになって息のつまる様な気持で一足一足と近づいて来る精女を見て居る。精女はうつむいたまんま前に来かかる。
第一の精霊 もうお忘れかネ、美くしいシリンクスさん。
少しふるえる様な強いて装うた平気さで云う。
精女 マア、――何と云う事でございましたろう、とんだ失礼を、――御ゆるし下さいませ。
しとやかなおちついた様子で云う。そしてそのまんま行きすぎ様とする。
第二の精霊 マア、一寸まって下され。今もお主の噂をして居ったのじゃそこにソレ、花が咲いてござるワ、そこに一寸足をのして行っても大した時はつぶれませぬじゃ、そうなされ。
第一の精霊 ほんにそうじゃ。お主の細工ものの様な足が一寸も休まずに歩くのを見ると目の廻るほど私は気にかかる――
精女 いつもいつも御親切さまに御気をつけ下さいましてほんとうにマア、厚く御礼は申しあげますが急いで居りますから――この山羊の乳を早くもって参らなくてはなりませんでございますから――
第一の精霊 お急ぎ? それでもマ年寄の云う事は御ききなされ。
精女 お主様がさぞ御まちかねでございましょう。私は早う持って参じなければならないのでございます。
第二の精霊 ここに居る三人は皆お主をいとしいと思って居るものばかりじゃ故お主の御怒にふれたら命にかけてわびを叶えてしんぜようナ。
この間第三の精霊は木のかげからかおだけを出して絶えず精女を見て居る。
第一の精霊 女子のかたくななのは興のさめるものじゃ、良い子じゃ聞き分けて休んでお出でなされ。
精女 まことに――我がままで相すみませんでございますけれ共お主様に捧げました体でございますから自分の用でひまをつぶす事は気がとがめますでございますから今日は御許しあそばして――