精女 ――
ペーン シリンクス! 美くしい精女! 私の気が狂いそうになって来た。私の目の前に――心の前にお前の顔が渦巻いて――あんなに調子をとった足なみで迫って来るじゃあないか? 私は何を云うんだろう。
私はどうしたら好いんだろう、アア私の霊!
ペーンはシリンクスのわきにつっぷす。シリンクスも座って居る。
精女 アア私はどうしよう、さっきの若い人はキット川に入ってしまったんだろう、あの人は死んでしまったんだろう。そして又この方まで……アア恐ろしい。
お主さまダイアナ様! どういたしましょう?
私の体と心と一緒にふるえて居ります。
あの人も――この方も――
立ち上りながらシリンクスはおそれて叫ぶ。
ペーンはその銀の沓をはいた足の上に体をなげかける、シリンクスはとびのきざま叫ぶ。
精女 おやめあそばせ! こわうございます! 息がつまりそうでございますワ。アラ、アポローさまがあんなにケラケラ笑っていらっしゃいます、冥府の御使者がソラ! そこの草のかげから目ばかり出して居りますワ!
たまらくなった様に又ペーンとならんで草の上につっぷす。
ペーンはソーッとよっておしげなく見えるくびにキッスしようとする。
シリンクスはとび上って云う。
精女 おさわりになりまして? おさわりになったんでございますか? アア私の終りの日がとうとう参りましたワ、お主さまのところへも参れません、アアほんとうに終りの日が参ったんでございますワ。
私は恥うございます。
身をひるがえしてかけ出す。ペーンもすぐそのあとを追う。
精女 お許し下さいませ、お主さま! ダイアナ様!
恥かしいんでございますワ。終りの日が来たんでございますワ。
シリンクスは小川の方に向ってかけながらとぎれとぎれに高い声で云う。
ペーン もう何も云わない、もう何もしない! かけるのをやめてお呉れ、どうぞシリンクス! 美くしい……、アア――
ペーンも追いながら叫ぶ。
シリンクスの速力はだんだんにぶくなって、
恥かしいんでございますワ。
と叫ぶ声も細くなる。も一寸でペーンがおいつく様になる。小川の岸に来てしまった。
精女 恥かしいんでございますワ!
ペーン シリンクス、美くしい!
精女は水煙をたてて川に飛び込む。小さな泡が二つ葦の根にうく。
ペーン オオオ、シリンクス、お前は!
しぼる様な細い声で云う。まわりの葦にひびいて夢の歎きの様な好い音を出す。ペーンはそれをジッとききながら、
ペーン アア、あの響が……シリンクスの姿に似た響があの美くしさのせめてもの形見になるのだ。一生死ぬまでこの響を聞いて居なくっちゃ私はあの美くしかった精女にすまない……
ペーンは葦を切ってつたでからげてその先に唇をあてて響を出す。
ペーン あああのシリンクスの心が音にささやく、あの精女の姿がうき出して来る、――シリンクスの笛――それでいい、私のシリンクスを思ったほどに……あの美くしい姿は美くしい響になって残ってしまった!
夢の様な、歎く様な細い声に川辺にすわったまんま吹きならす。