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医院坡上吊之家-第一部 第二編(1)

时间: 2022-05-31    进入日语论坛
核心提示:第二編#ここから4字下げ芝高輪本條写真館のこと風鈴のある結婚風景のこと#ここで字下げ終わり一昭和二十八年九月七日の午後五時
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第二編

#ここから4字下げ

芝高輪本條写真館のこと

風鈴のある結婚風景のこと

#ここで字下げ終わり

昭和二十八年九月七日の午後五時頃、金田一耕助はやたらにタバコを吹かしていた。か

れのまえにある餉台《ちゃぶだい》のうえの灰皿は、いまやタバコの吸殻で盛りあがっ

ている。頭はあいかわらず雀《すずめ》の巣のようにもじゃもじゃしているが、それで

もさっき鏡にむかって櫛《くし》の目をいれたばかりである。薄汚れた白絣《しろが

すり》によれよれの袴《はかま》は例によって例のごとしである。

昭和二十八年のこの時代では、金田一耕助はまだ大《おお》森《もり》の山の手に

ある割《かっ》烹《ぽう》旅館、松月の離れ座敷で居候《いそうろう》をしていた。

ここのおかみは中学時代のかれの親友風間俊六《かざましゅんろく》という男の、金田

一耕助のことばを借りれば、二号さんだか三号さんだかということである。

金田一耕助の占領しているのは四畳半のつぎの間つきの六畳で、粋《いき》で風雅で

どことなく婀《あ》娜《だ》めいたあたりのたたずまいは、金田一耕助のような風来

坊とは、およそ不釣り合いにみえそうなものだが、それが不思議に調和がとれているから

妙である。思うにこの小柄で貧相で、いっこう風《ふう》采《さい》のあがらない金

田一耕助という男は、どこへおいても違和感をかんじさせない、空気みたいな存在なのか

もしれない。

その年はめずらしく台風の少なかった年だった。八月に入ってから台風が二度やってき

たが、二度とも西日本へそれてしまって、東京地方はおしめりていどの降雨しかなかった。

したがって残暑がきびしく、九月にはいってからも連日三十度を越える猛暑であった。

金田一耕助が手にしたタバコを灰皿のなかに揉《も》み消して、また新しいのをつけ

ようとしているところへ、母屋のほうから渡り廊下をわたって、ひとの近づいてくる足音

がきこえてきた。足音はふたりのようである。

来たなと金田一耕助がいずまいをなおしているとき、襖《ふすま》の外で女の声がし

た。

「金田一先生、お客様が……」

「ああ、そう」

金田一耕助は立って四畳半へいくと、半間の襖をひらいて、

「本條さんですね、本條直吉《ほんじょうなおきち》さんですね」

と、ひざまずいた女中の背後に立っている男に眼をやった。三十前後の色白で、髪をキ

チンと左分けにした男で、鼻下にチョビ髭《ひげ》をたくわえている。まっ白なワ゗シ

ャツに黒い蝶《ちょう》ネクタ゗をしめていて、ちょっと小肥りの男である。上衣は着

ていなかった。なんとなく気《き》障《ざ》な服装だが、顔をみてもどこか狡《こ

う》猾《かつ》そうである。その眼は好奇心にもえて、金田一耕助の雀の巣のようなも

じゃもじゃ頭にそそがれていた。

「警視庁の等《と》々《ど》力《ろき》警部さんというかたが……」

と、いいかけるのを、

「ああ、さっき電話を頂戴しました。さあさあ、どうぞ。あなた高《たか》輪《なわ》

署で警部さんに会われたそうですね。警部さんからお電話があったので、さっきからお待

ちしていましたよ。あ、お清《きよ》さん、ちょっと」

と、立ち去りかけた女中を呼びとめて、

「この灰皿かえてきてくれませんか」

「あらま、いやな先生、こんなにお吸いになると体に毒でございますわよ」

「なあに、ちょっと考えごとをしていたもんだからさあ」

吸殻の盛りあがった灰皿を女中が持って退っていくと、餉台のむこうにキチンと膝をそ

ろえて坐った男が、ちょっと上体をのりだすようにして、

「あなたが金田一先生……金田一耕助先生でいらっしゃいますか。等々力警部さんのおっ

しゃった……」

「まさにそのとおり。あっはっは、警部さんの紹介なので、もっとしかつめらしい人物を

想像していらしたんですね。まさにぼくが金田一耕助です。どうぞよろしく」

金田一耕助がペコリと頭をさげたところへ、お清さんがお茶とお絞りと新しい灰皿を持

ってきた。

「お清さん、ぼく金田一耕助にちがいないね。こちらさんだいぶん戸惑いをしていらっし

ゃるようだが……」

「ええ、ええ、あなた金田一耕助先生でございますよ。ほっほっほ、みなさんはじめは戸

惑いなさいますわね。先生、あなたもっとお洒《しゃ》落《れ》をなさいましよ」

「なにをこのあま」

金田一耕助がついお里を出すと、お清さんは首をすくめて、

「あら、ごめんなさい」

と、それぞれのまえに茶《ちゃ》托《たく》をおいて、

「ではごゆっくり」

と、すまして席を立ったまではよかったが、襖《ふすま》の外へ出ると弾《はじ》

けるような笑い声。これでは金田一耕助の威厳さらになしである。

「エヘン」

と、金田一耕助は失われた威厳をとりもどそうとするかのように、気取って咳《せき》

払《ばら》いをすると、

「ときにご用件は…… いや、どうも失礼。お楽にどうぞ。ぼくも膝をくずさせていた

だきますから」

「はあ、では……」

と本條直吉も趺坐《あ ぐ ら》になって、ふくらんだワ゗シャツのポケットから、タ

バコとラ゗ターを取り出して火をつけながら、

「ときに、金田一先生、警部さんはぼくのことをどういってらっしゃいました」

「いや、べつに。本條直吉さんてかたがそちらへお伺いするだろうから、よろしく話を聞

いてあげてほしいって……あなたなにか高輪署へとどけ出られたらしいですね」

「はあ」

「ちょうどそこへ、警視庁の等々力警部さんが来ていらしたんですね」

「はあ、警部さんにもいっしょに話を聞いていただきました」

「ところが警部さんのおっしゃるのに、本條君の話だけでは、まだ警察がのりだすべき段

階ではないように思う。だからそちらへ差し向けるから、よく話をきいてあげてほしい……

と、こうおっしゃるんですがね」

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