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医院坡上吊之家-第一部 第二編(5)

时间: 2022-05-31    进入日语论坛
核心提示:「おや、前金でいただけるんですか」「はあ、いろいろご無理をお願いするんですから」「ところでお写真が出来たら、どちらへお届
(单词翻译:双击或拖选)

「おや、前金でいただけるんですか」

「はあ、いろいろご無理をお願いするんですから」

「ところでお写真が出来たら、どちらへお届けすればよろしいんで」

「それなんですけれど、写真いつごろ出来ます」

「そうですね、きょうが八月二十八日ですから、こうっと、九月三日までには仕上げてお

きますが……」

「九月三日でございますね。では、その日の夕方……四時ごろにだれかを取りによこしま

すから、ぜひ間違いのないように」

「承知いたしました。ではこれを」

そばで徳兵衛がハラハラしているのも委《い》細《さい》構《かま》わず、直吉

は領収書をかいて渡すと、

「ではこれを持って取りにきてください。じゃ今夜九時でございますね。お待ちしており

ますから」

女がそそくさと帰っていったあとで、

「あの女、とうとうだれの名前も出さなかったな」

徳兵衛は眉をひそめて呟《つぶや》いたが、直吉はそんなこと歯《し》牙《が》

にもかけぬという顔色で、ふてぶてしく嘯《うそぶ》いていた。

「で、その晚、迎えのものが来たんですね」

相手がしばらく黙っていたので、金田一耕助があとを促すように訊ねた。

「ええ、来ましたよ、きっちり九時に。しかも、この花婿さんがね、あっはっは」

直吉の声はなんとなく毒々しくひびいた。

「花婿が自分で来たんですか」

「まさかわたしもそれが花婿さんだとは気がつきませんでした、この面《つら》構《が

ま》えですからね。夏の゗ンバネスを着ていて、その下が黒紋付きの羽織袴《はおりは

かま》らしいってことはわかりましたが、まあ、身内のもんだろうくらいに思っていたん

です。外は墨を流したような真っ暗な晚で、男は懐中電灯をもってましたよ」

金田一耕助は無言のままあいての話をきいている。

「その男鞄《かばん》のほうを持ってくれて、わたしのさきに立って步くんですが、な

にやらブツブツ小声で呟《つぶや》いたり、ときどきなにかを思い出したように高笑い

をしたり、いささかご酩《めい》酊《てい》らしいんですが、べつに後ろ暗いことを

やってるふうにもみえないので、わたしもおいおい安心してついていったんです」

「口はききませんでしたか」

「いや、わたしのほうから二、三度声をかけたんですが、そのつどうるさいとかなんとか

一《いっ》喝《かつ》されましてね、なにしろこの体でしょう」

と、写真の花婿を指さして、直吉はせせら笑うような調子である。

「ぶん殴《なぐ》られたらひとたまりもありませんや。そうかと思うとごめん、ごめん、

こちらから無理を頼んでおきながら、うるさいはなかったな。まあ、しかし、てめえは黙

ってショウバ゗してれゃいいんだ。迷惑かけるような真似はしねえから安心してろなんて

笑ってるんです。ところがねえ、金田一先生」

「はあ」

「わたしはじつは高輪うまれの高輪育ち、ガキのころからそのへんいったいを駆けずりま

わって、高輪といやあ隅から隅まで知ってたもんです。ところが二十四年の春シベリヤか

ら復員してみると、あのへんすっかり変わっちまっておりましょう」

「ああ、あなたシベリヤから復員してらっしたんですか」

「ええ、そうなんです、二十四年の春ですね。あれから四年、ちかごろじゃだいぶん復興

してきましたが、二十四年の春はまだまだでしたよ。おやじは甲斐性《かいしょう》も

んですから、本建築でいまの写真館を再建してましたが、まあ、昔からいえば半分とはあ

りませんね。しかし、本建築だからまだいいほうで、近所合《がっ》壁《ぺき》みん

なバラック。まだ焼け跡があちこちに残っている。わたしは高輪いったいを步きまわって

みましたが、昔の面影さらになし、どこがどこだかサッパリわからねえ始末。ところが二

十八日の晚がおんなじでしたね。なにしろ墨を流したようにあたりは真っ暗、それゃとこ

ろどころに街灯はついてますが、それだって覚《おぼ》束《つか》ねえもんです。正

直いってわたしゃ心細くなってきましたが、しかしあの娘さんに步いて十五分か二十分っ

ていわれていたんで、痩《や》せ我慢張ってついてったんです。ところがむこうへ着い

てから、なあんだ、ここかって気がつきましたね」

「ご存じの場所だったんですか」

「ええ、そこ、病院坂ってえんです」

「病院坂……」

「いや、昔はもっとしかつめらしい名前がついていたんですが、明治の中期か末期かにそ

こに大きな病院が出来ましてね、いつか病院坂ってよばれるようになっちまったんです。

法眼病院ってお聞きになったことございませんか」

「芝の法眼病院なら聞いたことがありますよ。有名な病院なんでしょう」

金田一耕助はポーカーフェースである。多少ぐれているらしいが、たかがしれた写真

屋ふぜいに、心中の動揺を見すかされるようではこのショウバ゗は勤まらない。

「ええ、それゃ大きな病院でしたよ、内科外科その他いっさい揃《そろ》った総合病院

で、設備もよく行き届いてましたよ。ところが、先生、二十四年の春復員してみると、見

るも無残なありさまになってるじゃありませんか」

「と、おっしゃると」

「聞くところによると戦争中、芝公園のなかに高射砲陣地があったんだそうです。敵さん

そこを覘《ねら》って爆弾を投下したところ、そいつが外《はず》れてモロに法眼病

院へ落下したんだそうで、わたしが復員してきた二十四年ごろは、まだ惨《さん》憺

《たん》たるものでしたね。廃墟ということばがピッタリだったな。ところがその法眼病

院のすぐそばに、おそらく病院と接続しているんでしょうが、院長の法眼さんのお宅があ

ったんです。蔦《つた》のからんだ風雅な洋館で、近所では蔦屋敷とよんでましたね。

わたしの連れこまれたのは、その法眼さんのお屋敷なんです」

「じゃ、法眼さんのお屋敷というのは焼け残ったんですか」

もしそのとき直吉に肚《はら》にいちもつあったとしても、金田一耕助の語調から、

なんの翳《かげ》りも感得することは出来なかったであろう。

「いや、蔦屋敷のほうは木《こ》っ端《ぱ》微《み》塵《じん》だったらしいん

ですが、それに付属している日本家屋のほうはほとんど無《む》疵《きず》で残った

らしいんですね」

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