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医院坡上吊之家-第一部 第二編(6)

时间: 2022-05-31    进入日语论坛
核心提示:「そこ、いまだれか住んでるんですか」「いや、空家なんですがね。しかし、そんなことこっちは知りませんや。門灯もついてたし、
(单词翻译:双击或拖选)

「そこ、いまだれか住んでるんですか」

「いや、空家なんですがね。しかし、そんなことこっちは知りませんや。門灯もついてた

し、玄関先にも家のなかにも、煌《こう》々《こう》と電気がついてるんですからね」

「でも、あなたこの家なら知ってるってことおっしゃいましたか」

「それはいいましたよ。これ法眼さんのお屋敷ですねっていったら、やっこさんニヤッと

笑って、そうだよ、おじさん、おれ法眼の身寄りのものなんだ。だから今夜ひと晚貸して

もらった。一生の記念のご祝言のためになって、こういうんです」

「で…… それからどうなさいました」

「ずいぶん広い玄関なんですが、ちゃんと打ち水がしてありましたしね。大きな衝《つ

い》立《たて》もでえんと控えていましたよ、金《きん》泥《でい》に高《たか》

砂《さご》の尉《じょう》と姥《うば》でしたね。そっから広い廊下がつづいてるん

ですが、廊下なんかもよく拭《ふ》きこんでありましたし、ところどころにある行《あ

ん》灯《どん》型の電灯にもちゃんと電気がついてましたよ。それでいて、どこにもひ

との気配がねえんですね。それをわたしが指摘すると、それゃそうだよ、弥生おばあちゃ

んたちはいま田園調布《でんえんちょうふ》だもんというんです」

「弥生おばあちゃんたあだれのこと……」

金田一耕助の声にはあくまでも翳りがない。

「いやわたしもそれを聞いてみました。するとこのヒゲ男のいうには、法眼のおじさんと

いってましたね、法眼のおじさんてだれのことだときくと、琢也おじさんのことだよとい

うんです。そういわれて思い出したんですが、わたしが兵隊にとられていくまえの院長先

生で、たしか法眼琢也ってえらい医学博士なんですが、そのひと病院が爆撃されたとき爆

死したんだそうで、ほかにも大勢死人が出たそうです、医者や患者や看護婦にね。それで

弥生おばあちゃんてえのは、琢也おじさんの連れ合いで、つまり後家さんだっていうんで

す」

「ちょっと待ってください」

と、金田一耕助はさえぎって

「法眼琢也先生ならお名前くらいはしってます。高名なかたですから。ところでその青年、

琢也先生のことをおじさんと呼びながら、先生の未亡人のことをおばあちゃんと呼んだん

ですか」

 直吉は虚をつかれたようにギョッとして、金田一耕助の顔を視《み》直《なお》し

たが、

「なるほど、そういわれてみるとおかしいですね。しかし、そのときは気がつきませんで

した。法眼先生も生きていらっしゃったらそうとうのお年《と》齢《し》ですから、

その未亡人なら当然おばあちゃん……」

「と、うっかり聞きのがされたんですね、まあ、いいです、いいです。それで、この青年、

法眼家とどういう関係なんです」

「いや、それをわたしも聞いたんです。いや、聞こうとしたんです。ところがちょうどそ

のとき廊下をまがって、このヒゲ男が突き当たりのドゕを開いたんです。とたんにわたし

なにもかもわかった、一《いっ》切《さい》の謎《なぞ》が解けたと思ったんで、

そっちのほうへ気をとられちまったんですね」

「と、おっしゃいますと」

「そこ十畳じきくらいの洋間になってるんですが、そこがメッチャメッチャなんです。楽

器がいっぱいおっぽり出してあるんです、ギター、トランぺット、ドラム。そう、そう、

サキソフォーンもありましたね」

「じゃ、それ、ジャズの連中……」

「そうです、そうです。いいえ、メンバーはだれもいませんでした。でも、ついいましが

たまで練習してたって証拠歴然で、三つ四つ出てる灰皿はどれもこれも吸殻の山。シャン

ペンのほか洋酒のボトルが二、三本にワ゗ングラスにウ゗スキーグラス。灰皿のなか

にゃまだブスブス煙っているのもありましたよ」

「なるほど、しかし、それをごらんになってなにもかもわかったとおっしゃるのは……」

「なあに、ジャズの連中やなんかにゃ、口ヒゲや顎ヒゲをはやしているのがあるじゃあり

ませんか。それにちかごろそうとうの良家や大家の坊っちゃんで、そういうのに凝《こ》

ってるのがたくさんいるってこと聞いてましたからね」

「あ、なるほど。それで一切の謎が解けたと思われたんですね。それじゃこのヒゲ男も法

眼家の一族というわけですか」

「どんな名家にだってひとりくらいクズがいるもんでしょう。不肖《ふしょう》の子っ

てわけですかね」

「で、ジャズのほかの連中はどうしたんです。だれもいなかったとおっしゃったが……」

「わたしもそれを聞いてみましたよ。そしたらヒゲ男のいうのに、なあにいままで花嫁と

いっしょに騒いでいたんだが、いよいよ記念撮影からお床入りということになったんで、

花嫁がむやみに恥ずかしがるもんだから、いちおうお引き取りねがったんだ。いずれお床

入りもすんで晴れて夫婦になったところへ、また引き返してきて、今夜はひと晚騒ぐんだ

って……」

「なるほど、それで……」

「はあ、これからがいよいよ正念場なんですが……やっこさん、楽器やなんかいっぱい散

らかった部屋へわたしを待たせておいて、隣の部屋へはいっていったんですが、しばらく

するとカム゗ンなんて呼ぶもんですから、恐るおそるドゕをひらいてなかへ入ると、そ

こがこの写真の部屋なんですね。二十畳じきくらいもありましたろうか。いっぽうの壁際

にはその金屏風《びょうぶ》、花嫁さんがちゃあんとその椅子に腰をおろして、花婿さん

がそばに立って、左手を花嫁さんの肩においてすましてましたよ」

「そこをあなたがパチリと撮られたわけですね」

「と、いうわけですが、それがちとおかしいんですよ」

「おかしいとおっしゃると……」

「われわれカメラマンというやつは、お客さんにいろいろ注文をつけるでしょう。この

場合だと花嫁さんの裾《すそ》を直したり、着付けがおかしいと襟《えり》元をかき

あわせたり……ところがこのおヒゲの兄いちゃん、絶対にそんなことさせないんです。カ

メラの位置がきまると、その線から一步もまえへ出ちゃいかんというんですね。わたしが

うっかり、花嫁のほうへ近付こうとでもしようものなら、まるで怒れるラ゗オンみたいに、

タテガミ……じゃなかった、この縮れっ毛の長髪をふるわせて憤《おこ》るんです。わ

たしが辟《へき》易《えき》してると、なんでも注文があったらおれにいえ、おれが

ちゃんとしてやるって、ニヤニヤ笑ってるんです。だけど、こっちはおかしくってたまら

ねえじゃありませんか」

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