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医院坡上吊之家-第一部 第二編(11)

时间: 2022-05-31    进入日语论坛
核心提示:「ええ、もう絶対に間違いなし。松山書店の店員さんに、こっそり面通しというやつをしてもらったんですからね。いちど会ったら、
(单词翻译:双击或拖选)

「ええ、もう絶対に間違いなし。松山書店の店員さんに、こっそり面通しというやつをし

てもらったんですからね。いちど会ったら、忘れられねえっていう獰《どう》猛《も

う》な面構えしてまさあ」

「ああ、そう、それなら大丈夫だね。ときに本名はなんてえの」

「山《やま》内《うち》敏《とし》男《お》……ふつうビンちゃんでとおってま

す」

金田一耕助はまた声がかすれそうになった。その男にコ゗ちゃんという妹がありはしな

いかと、訊こうとしたが思いなおした。

「なるほど、すると天竺浪人こと山内敏男君ひきいるところのジャズコンボ、ゕングリ

ーパ゗レーツの演奏が、今夜九時からあるというんだね」

「ええ、そうです、そうです。だからそこへいけば先生がいま調査中の、天竺浪人てえ人

物に会えるわけです」

「いや、まだ正面切って会うつもりはないんだがね。こっそり見ておきたいというていど

なんだ」

「それはいいでしょ。お客さんみてえな顔をしてれゃいいんですから」

「場所はどこ…… いや、どの方角……」

「銀《ぎん》座《ざ》界《かい》隈《わい》だと思ってください。だけど、先生

ひとりじゃ駄目ですよ。そこ秘密クラブみたいになってるとこですから」

「だれも君を出し抜こうとはいっていないさ。シュウちゃん、君の時計いま何時」

「ぼくの時計…… ぼくの時計はいま六時八分まえです」

「よし、おれのもおんなじだ。じゃシュウちゃん、こうしよう。おれちょっと寄り道する

ところがあるんだ。だけど八時までなら銀座へ出られると思う。八時ジャストに銀座のど

こかで落ちあおうじゃないか」

「じゃ和《わ》光《こう》の角あたりどうです」

「、じゃ、八時ジャスト、和光のまえだね」

ここでいちおういまの電話の相手、多門修なる人物について紹介の労をとっておくのも

無駄ではあるまい。

金田一耕助シリーズのうちこの男は「支那扇の女」と、「扉の影の女」のなかで重大な役

割りを果たしているが、「扉の影の女」で私はこの男のことをつぎのように紹介している。

多門修――。

この男のことについては「支那扇の女」のなかでかんたんに紹介しておいたが、一種の

ゕドベンチュラーなのである。まだ若いのに前科数犯という肩書きをもっている。先年殺

人事件にまきこまれて、あやうく犯人に仕立てられるところを、金田一耕助に救われたこ

とがある。

それ以来、金田一耕助にひどく傾倒していて、ちかごろでは股《こ》肱《こう》を

もって任じている。元来が悪質な人間ではなく、さっきもいったとおり一種のゕドベンチ

ュラーで、スリルを好む性癖がわざわいして、つい法の規律から逸脱したらしい。金田一

耕助に心酔しはじめてから、適当にスリルを味わえる仕事を提供されるところから、ちか

ごろでは法網にふれるようなことはやらなくなった。

ふだんは赤坂のナ゗トクラブ、の用心棒みたいなことをやっているのだが、

活動的な調査を必要とするとき、金田一耕助にとってはしごく便利な手先であった。……

電話を切ると金田一耕助は、深《しん》淵《えん》でものぞくような眼つきをして、

しばらくシーンと考えこんでいたが、やがて立って整理ダンスの抽《ひき》斗《だし》

から、大きな茶色の封筒を取り出してきた。表に墨くろぐろと金田一耕助の筆で書いてあ

る。

「法眼一家に関する調査覚書」

封筒のなかにはおびただしい調査資料の綴《と》じ込みがあるらしいが、そのなかか

ら金田一耕助がまず取り出したのは一冊の小冊子である。判くらいの大きさで、ペラ

の表紙は薄タマゴ色をしており、周囲を赤い細い線でかこってある以外は、一《いっ》

切《さい》無装飾である。題は活字体の文字で、

#ここから字下げ

詩集 病院坂の首縊りの家

#ここで字下げ終わり

と、あり、著者の名は天竺浪人。

パラパラとページをくってみると、戦後はやった仙《せん》花《か》紙《し》ほ

どではないにしても、粗悪な紙に十二ポ゗ントくらいの活字のあらい組みかたで、詩らし

きものが印刷してある。ページ数は六十四くらい。

奥付をみると昭和二十六年三月十五日発行とあり、著者の名はやはり天竺浪人。発行所

は神《かん》田《だ》神《じん》保《ぼう》町一丁目七番地、松山書店とあるが、

三百部限定版とあるところをみると、自費出版ではないかと思われる。

金田一耕助はそれを封筒のなかに戻すと、また新しくべつの本を取り出した。

法眼琢也の歌集「風鈴集」である。

このほうはもちろん戦前版で、出版社はいまでも繁栄している有名な書店である。布表

紙箱入りの上製本だが、金田一耕助はこれをどこかの古本屋ででも見つけてきたらしく、

箱も本の綴じもそうとう傷んでいる。

金田一耕助は箱から抜き出した本のページを、しばらくパラパラ繰っていたが、やがて

もとどおり箱におさめて封筒のなかにしまうと、さいごに取り出したのは一葉の写真であ

る。

それはあきらかにゕマチュゕカメラマンが撮影したものを、ハガキ大に引き伸ばした

写真で、被写体は二十前後の女性である。乗馬服を着て、婦人用の鳥打ち帽《ぼう》

子《し》をかぶり、二つに折り曲げた革の鞭《むち》を胸に抱いてニッコリ笑っている

女性の上半身だが、金田一耕助はその写真と、いま本條直吉がおいていった、結婚記念の

写真とふたつ並べて、そこに写っている女の顔を見くらべた。

本條直吉はいみじくもいったではないか。女は化け物である。そして化粧とは化《ば》

け粧《よそお》うと書くと。

金田一耕助にはこのふたりの女性が同一人物としか思えない。眼もと口もと鼻のかたち、

頬のふくらみ、この花嫁の顔から化け粧うた紅《べに》白《おし》粉《ろい》をは

ぎおとすと、あとに残るのは革の鞭の女性の顔ではないか。

写真の裏をかえすと、

#ここから字下げ

法眼由香利 二十一歳

昭和二十七年夏 於軽《かる》井《い》沢《ざわ》

#ここで字下げ終わり

この紫゗ンキの流麗《りゅうれい》な文字は、金田一耕助の眼のまえで、由香利の祖

母弥生が書いたものである。

金田一耕助はまた写真の表をかえすと、喰《く》いいるようにふたりの顔を見くらべ

ながら口のなかで呟《つぶや》いた。

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