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極楽世界(2)_白发鬼_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示: アア、今思い出しても、この老朽ちた胸が躍る様だ。それから二年の間というもの、わしはただもう、甘い薫の、あたたかい桃色の
(单词翻译:双击或拖选)
 アア、今思い出しても、この老朽ちた胸が躍る様だ。それから二年の間というもの、わしはただもう、甘い薫の、あたたかい桃色の雲に包まれて、フワリフワリと天界を漂っている様な、何とも云えぬ楽しい月日を過したものだ。
 大阪の伯父の所へ旅行していて、わしの結婚式に間に合わなかった川村義雄は、婚礼がすんで三日目の日に、わし達夫婦を訪ねてくれた。彼は外の誰より深くわしらの結婚を祝ってくれた。
「君は本統(ほんとう)に仕合せものだぜ。黙っている奴が曲者(くせもの)とは君のことだ。今まで女嫌いを看板にしていた君が、東京や大阪の社交界にだって、滅多に見当らぬ様な、日本一の美人を妻にするとは。君、これでも、女は一本のあばら骨かね」
 彼はわしの手を握りしめて、大はしゃぎにはしゃぐのだ。
「イヤ、僕は少し説を変えたよ」
 わしは恥かしそうに答えたものだ。
「君がよく云っていた様に、美しい女と云うものは、どんな芸術も及ばぬ造化の偉大な創作だよ」
 そう云ってから、わしはふと川村にすまぬ様な気持になった。男ながら、彼こそわしの唯一の伴侶ではなかったか。それが、瑠璃子というものが出来て見ると、何だか今迄の様な、隔意(かくい)ない親しみが少しうすらいだ様な気がする。川村の前で妻をほめたりして、悪いことをしたと思った。アア、可哀相に、川村はまだ、美人を妻とする楽しさを知らぬのだ。この男にもどうか美しい娘を探し当ててやり()いものだ。
 わしはちょっと憂欝(ゆううつ)になって、何気なく振向くと、そこへ、大輪の薔薇(ばら)の花が咲き出した様に、瑠璃子が入って来た。それを見ると、わしの憂欝はどこへやら、けし飛んでしまった。
 この美しい顔さえ絶えずわしの目の前にあるならば、友達も()らぬ。金も要らぬ。命も要らぬ。恋に酔うとは、これを云うのかしら、わしは人世(じんせい)嬉しさの絶頂に達し、痴人の如く、瑠璃子の顔を飽かず眺め入った。見れば見る程愛らしい。アア、世の中にこんな美しく愛らしいものがあったのかしら。瑠璃子がそこにいると、近くの品物がみんな美しく、楽しく見えて来る程だ。
 皆さん笑って下さい。結婚後しばらくすると、わしは瑠璃子を湯に入れてやるのが無上の楽しみとなった。わしは三助(さんすけ)の様に、我が妻の美しい肌をこすってやった。桃色にゆだった、水蜜桃の皮の様にきめが(こまか)くて、眼にも見えぬ産毛(うぶげ)の生えている、あれの肌から、モヤモヤと湯気の立つのを眺めるのが、わしは大好きであった。よれて出る(あか)までが、わしには、こよなく美しいものに見えた。
 わしは、召使(めしつかい)共の蔭口もかまわず、風呂の立つのを待ちかねる、痴漢となり果ててしまった。
 わしがそんな風だものだから、瑠璃子の方でも、わし丈けには令夫人のよそ行きの作法を捨てて、なれ親しんだ。はては、熊使いの見世物師が、目くばせ一つで、荒熊を自由自在に動かす様に、彼女も目一つで、わしを意の如く動かすやり方を覚込(おぼえこ)んでしまった。
 二人(きり)の場合には、わしは瑠璃子の忠実極まる奴隷であった。どうすれば彼女が喜ぶかと、それのみに心を砕いた。

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