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五つのダイヤモンド(1)_白发鬼_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:五つのダイヤモンドさて、わしはS市に上陸すると、市中第一等の旅館Sホテルに宿を取った。そして、べら棒な宿料を奮発して、い
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五つのダイヤモンド


さて、わしはS市に上陸すると、市中第一等の旅館Sホテルに宿を取った。そして、べら棒な宿料を奮発して、いつも高貴の方がお泊りになるという三部屋続きの洋室を占領した。南米で大金儲けをして帰った、成金紳士里見重之という振込みだ。
さて、宿が()まると、先ず着手しなければならぬ仕事が三つあった。第一は姦夫姦婦と懇親を結び、大復讐のいとぐちを作ること。わしは、わしがされた通りを、彼等にして返さねばならぬのだから、それには彼等の甘心(かんしん)を得て、無二の親友となることが何よりも必要であった。
第二は、住田医学士と懇意になる事だ。皆さんは住田医学士の名を覚ていますかね。ホラ、わしの妻瑠璃子が身体中に妙な腫物が出たといって、Y温泉のわしの別荘へ湯治に行っていたことがある。その時瑠璃子を見ていたY町の医者が住田医学士なのだ。なぜそんな医者と懇意になる必要があったか。それには深い仔細がある。やがて皆さんに分る時が来るだろう。
第三は、忠実なる一人の従者を傭入れ、色々復讐事業の手伝いをさせることであったが、これは到着早々、ホテルの支配人の世話で、恰好のものを手に入れることが出来た。志村という元刑事巡査を勤めたこともある三十男で、使って見ると、(ごく)正直な上に、仲々探偵的手腕もあって、実に適当な助手であった。
無論志村にわしの身の上や復讐のことを打開けはしなかった。わしは非常な変り者で、理解し難い命令を下す様なこともあろうが、それを少しも反問せず、唯々諾々(いいだくだく)として遵奉(じゅんぽう)するという約束で、その代り給金は世間並の倍額を与えることにした。
志村を傭入れて一週間もすると、わしは彼を大阪へやって、奇妙な品物を買求めさせた。当時日本に幾つという程珍らしかった実物幻燈機械――皆さん御存知じゃろう、生きて動いている蜘蛛(くも)なら蜘蛛が、そのままの色彩で、畳一畳敷程の大きさに写る、あの不気味な幻燈機械だ。もう一つは、大きなガラス壜の中にアルコール漬になっている、嬰児の死体――どこの病院にもある、解剖学の標本だ。一体全体、何の目的でそんな不気味な品々を買い求めたか。皆さん、試みに推量してごらんなさい。フフフ……。
ところで、話は少し先走りをしたが、元に戻って、Sホテルに着いた翌日のことだ。わしはホテルの談話室で、運よく姦夫の川村義雄を捕えることが出来た。イヤ、そればかりではない、もっと意外な人物にさえ会うことが出来た。が、まず順序を追ってお話しよう。
Sホテルの談話室は、S市上流紳士が組織するクラブの会合場所になっていた。クラブ員達は夕方そこへやって来て、球を()いたり、カルタを(もてあそ)んだり、碁を囲んだり、煙草の煙の中で世間話にうちくつろいだりするのだ。
その夕方何気なく、わしが談話室へ入って行くと、広い部屋の向うの隅で、雑誌を読んでいる男が、ギョット[#「ギョット」はママ]目についた。(ほか)ならぬ川村義雄であった。仇敵との初対面。わしは心を引きしめて、黒眼鏡(めがね)の位置を直した。
見ると川村()、以前に引かえて、なかなか立派な服装をしている。二月ばかり見ぬ間に、男ぶりも一段と立ちまさって、どこやらユッタリと落ちつきが出来ている。悪運強く、わしの財産と、美人瑠璃子を我物として、すっかり満足し切っている証拠だ。あの立派な洋服も、どうせ瑠璃子が拵えてやったものに極まっている。と思うと、わしは今更の様に、はらわたが煮え返った。
わしは川村の傍らのソファに腰を卸して、部屋の中をアチコチしていた一人のボーイをさし招いた。
「オイ、君は大牟田子爵を知っているだろうね。あの人はこのクラブの常連ではないのかね」
わしは、川村に聞える様に、大声で尋ねた。
「ハ、大牟田の御前様は、二月余り前、おなくなり遊ばしました。飛んだ御災難でございました」
ボーイはわしが当の大牟田子爵と知る(よし)もなく、わしの死にざまを手短に話して聞かせた。
「フン、そうか。それは残念なことをした。わしは大牟田子爵とは子供の時分の馴染(なじみ)でね、あれと面会するのを楽しみにしていたのだが……」
聞えよがしに残念がって見せると、案の定川村の奴わしの手に乗って、見ていた雑誌を置き、わしの方に向直った。
「失礼ですが大牟田子爵のことでしたら、僕からお話申上げましょう。僕は子爵とは非常に親しくしていた川村というものです」
川村()わしの顔をジロジロ見ながら、自己紹介をした。無論、わしの正体が見破られるものではない。奴のことだ、何となく裕福らしい紳士につき合って置いて損はないと考えたのであろう。
「そうですか。わしは二十年も日本を外に暮して、やっと昨日この地に帰って来た、里見重之と申すものです。大牟田敏清とは親戚の間柄で、あれの父とごく親しく行来していたものですよ」
わしは例の老人らしい作り声で、落ちついて答えた。
「アア、里見さんでございましたか。よく承知致して居ります。いつ御帰りなさるかと、実は心待ちにしていた位です。子爵夫人も、このことを伝えましたら、定めしお喜びでしょう。瑠璃子さんとは、度々(たびたび)あなたのお噂をしていたのですから」
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