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二匹の鼠

时间: 2023-10-06    进入日语论坛
核心提示:二匹の鼠 今や、わしの前代未聞の大復讐計画は全く成ったのである。アア愉快愉快。愈々思いをはらす時期が近づいて来たぞ。「可
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二匹の鼠


 今や、わしの前代未聞の大復讐計画は全く成ったのである。アア愉快愉快。愈々思いをはらす時期が近づいて来たぞ。「可愛さ余って憎さが百倍」という俗言がある。実にその通りじゃよ。わしは瑠璃子を、川村を、あれ程愛していたからこそ、信じていたからこそ、彼等に裏切られた憎しみは、その愛情に百倍するのだ。イヤ、千倍、万倍するのだ。
 わしの立場は、例えば逃げ道のない袋小路へ、二匹の鼠を追いつめた猫の様なものだ。全身銀色の古猫じゃ。ウフフフフフフフ。皆さん、猫が鼠を殺す時の、残酷な遊戯をご存じじゃろう。わしは丁度あの猫の気持であった。
 最後には、どの様な恐ろしい目にあわせてやるか、それは細い点までも、ちゃんと計画が出来上っていたが、直様(すぐさま)そこへ(もっ)て行ったのでは、余りにあっけない。わしの恨みはそんなあっさりしたものではなかったのじゃ。
 で、順序を追ってジワジワと楽しみながら復讐事業を進めて行くことにしたが、先ず第一着手として、為しとげねばならぬ三つの事柄があった。その一つは、川村義雄との交りを深くして、彼の心からの信頼を得ること、第二は川村の瑠璃子に対する情熱を陰に陽に(あお)り立て、わしが()つて瑠璃子に抱いていた以上の狂恋に溺れさせること、第三には、このわしがひそかに瑠璃子の心を捉え、瑠璃子を我物として置いて、最も適当な機会に、その事を川村に知らしめ、彼奴を絶望のドン底につき落してやること。
 無論これは、わしの復讐事業の最後の目的でなく、ちょっとした前芸に過ぎないのだが、その前芸丈けでも、わしの(こうむ)ったと同じ、或はそれ以上の心の痛手を、川村に負わせてやることが出来るというものだ。
 さて、Y温泉の別荘で、あの恐ろしい発見をしてから、一週間ばかりは別段のこともなく過去った。無論その間に、川村義雄が、数回訪ねて来て、わし達の間柄は計画通り段々うち解けて行ったのだが、彼はわしの顔を見る(たび)に、大牟田瑠璃子の伝言を伝え、さも自慢げに彼女の美しさを褒めたたえるのであった。
「夫人はあなたからの贈物を大変喜んで、近日中是非御礼に伺うけれど、呉々(くれぐれ)もよろしく申上げてくれという事でした。それから、夫人はあなたの方からも、どうかお訪ね下さる様にと、繰返し伝言を頼まれているのです。どうですか、一度大牟田家をお訪ねになっては」
 川村が勧めるのを、わしは首を振って、
「イヤ、その内お訪ねしますよ。敏清こそ懐かしいが、瑠璃子夫人は全く知らぬ人ですからね。それに、わしはこの年をして、妙にはにかみ屋で、婦人の前へ出ることを余り好みませんじゃ。その婦人が美しければ美しい程困るのです。(しか)し礼儀としても一度参上しなければなりません。いずれ其内(そのうち)とよろしくお伝え下さい」
 と、先ずぶっきら棒な返事をして見せたものじゃ。すると、川村()やっきとなって云うことには、
「それは残念ですね。併し、若しあなたが、瑠璃子さんを一目ごらんなすったら、いくらご老人でも、なぜこの様な婦人にもっと早く会わなかったかと、後悔なさるに違いありませんぜ。それに、いくらあなたの方で訪問を見合せても、あの調子だと夫人の方からやって来ます。あなたを驚かせにやって来ます」
「ホホウ、そんなに美しい人ですか」
 とわしが水を向けると、川村はもう有頂天になって、弁じ出すのだ。
「死んだ大牟田君は、常に日本一の美人だと誇っていました。僕もそう思いますね。生れてからあんな女性を見たことがありません。顔の美しさは云うまでもありませんが、言葉つきといい、声の調子といい、物腰といい、その上社交術の巧さというものは、何から何まで一点非の打ちどころもない、本当にその名の通り瑠璃の様な麗人です」
 こいつめ、よくよく瑠璃子に溺れているな。我が情人を、こんなにほめそやす様では、流石の悪人も、恋には我を忘れるものと見える。わしに取っては思う壺というものじゃ。
「それは危い、そんな美しい未亡人が社交界なぞに顔出ししていては、実に危険千万ではありませんか」
「イヤ、その点はご安心下さい。及ばずながら、故子爵の親友の僕がついています。夫人の行動はすっかり僕が見守っています。貞節な夫人がそんな誘惑にまける筈はありません」
「成程成程、あなたの様な立派な保護者がついていれば安心です。イヤ保護者というよりも、あなたなれば、夫人の夫としても恥かしくはありますまい。ハハハハハハハ、イヤこれは失礼」
 冗談らしく誘いかけると、川村奴直様(すぐさま)その誘いに乗って来たではないか。
「ハハハハハハハ、僕なんか。……併し、僕は変な意味ではなく、心から瑠璃子さんを愛しています。イヤ、尊敬しているといった方がいいかも知れません。夫人を守る為には、昔の騎士の様に、身命を()しても惜くありませんよ。ハハハハハハハ」
 と、まあこんな話から、川村の訪問が二度三度と重なるに従って、段々無遠慮になって、
「実は僕、ある婦人と婚約しようかと思っているのですが」
 などと、大胆な事を云い出す様になった。
「それは結構です。相手のご婦人も、どうやら想像出来ぬではありません。双手を上げて賛成しますよ。こうして御懇意を願っているからには、及ばずながら、わしも大いにお祝いさせて貰いますよ」
 と、おだてると、奴め相好をくずして、ホクホクしながら、
「本当にお願いします。あなたのお力添えは僕にとって百人力です」
 と、わしの手をとらんばかりだ。喜ぶ筈である。大牟田家の親戚に当る、しかも大成金のわしといううしろ(だて)があれば、彼の野望も満更ら夢とばかりは云えないのだ。
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