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瓶詰めの嬰児(2)

时间: 2023-10-06    进入日语论坛
核心提示: わしは何気なく云って先に立ち、部屋から部屋へと見て廻った。どの部屋も、瑠璃子が湯治に来ていた時分とは、すっかり模様が変
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 わしは何気なく云って先に立ち、部屋から部屋へと見て廻った。どの部屋も、瑠璃子が湯治に来ていた時分とは、すっかり模様が変っていた。何ぜそうしたか。ある一室の陰惨な感じを引立てる為であった。明るい部屋部屋の(あいだ)に、たった一間、少しも手を加えぬ、しめっぽい古部屋が残っているのは如何にも効果的ではないか。いうまでもなく、それは瑠璃子の使用した病室だ。彼女が不義の子を生み落した罪の部屋だ。
わしはその部屋を最後に残して置いた。よく子供がする様に、一番おいしいご馳走はあとまで残して楽しむのがわしの流儀だ。だがとうとうその部屋へ来た。わしは襖の引手に手をかけながら客達を振向いて云った。
「あなた方は怪談をお好みではありませんか。若しおいやなればよしてもいいのですが、実はこの部屋は怪談の部屋なのですよ」
瑠璃子も川村も、この不気味な言葉にギョッとしたらしかったが、弱みを見せてはならぬと思ったのか、つけ元気で、是非見たいものだと答えた。
それではお見せしましょう、とわしは襖を開いた。赤茶けた畳、くすんだ襖、すすけた障子、陰気な茶色の砂壁、古めかしい掛軸、見るからに(いわ)くのあり(そう)な六畳の部屋だ。障子の外は縁側になって、庭に面しているのだが、曇り日の為か、軒が深いせいか、室内はまるで夕暮れの様に薄暗い。
「どうしてこの部屋丈け手入れをしなかったかと云いますとね。この陰気な味が妙にわしの心を惹いたからですよ。そうは思いませんか。まるで薄暗い世話狂言の舞台でも見る様な、何とも云えぬ味わいがあるではありませんか」
三人の客は、皆この部屋をよく知っている。住田医学士はただわしの奇妙な趣味を不思議に思っている様子だったが、あとの二人は、つまり姦夫と姦婦とは、これが恐れないでいられようか。瑠璃子の如きは唇の色を失って、立っているのもやっとの様に見えた。
川村は川村で、これも真青になって、床の間の一物を、不思議相に見つめている。彼が見つめるのも無理ではない。そこには、この古めかしい部屋にふさわしからぬ、新しい桐の箱が置いてあったのだから。
住田医学士もそれに気づいたと見えて、
「あれは何です。お茶の道具でもなし、人形箱でもなし、どうやら因縁のあり相な品ですね」
と尋ねた。
「因縁ですか。いかにも恐ろしい因縁のこもった品ですよ」
わしは不気味に答えた。
「ホホウ、益々怪談めいて来ましたね。是非拝見したいものです」
住田医学士はそう云いながら、併し、うそ寒く肩をすぼめた。
「マアお待ちなさい。これについては一条の物語があるのです。事実怪談ばなしなのです。殆ど信じられない程恐ろしい事柄なのです。ホラ、そこの畳をごらんなさい。大きな薄黒い斑点が見えるでしょう。何だと思います」
わしは講釈師の様に思わせぶりに話を進めて行った。
「なる程、ボンヤリと、何かのこぼれたあとがありますね。これが血痕ででもあったら、本当の怪談ですね」
住田医学士が(ひとり)で応対する。姦夫姦婦は云いしれぬ不安に(おのの)いて、口を利く元気もないのだ。
「ところが、どうもこれは血痕らしいのですよ」
わしはズバリと云った。
「エ、エ、血、血ですって」
医師は商売柄にも似げなく驚いて見せる。
「わしはこの家の修理を終ると、秘書の志村に命じて庭の手入れをさせたのです。あれは器用な男で庭のことも少々は心得ているのでね。志村は一人でコツコツ土いじりをやっていましたが、紅葉の木を植え替えようとして、その根元を掘っていた時、実に驚くべき一物を発見したのです。ホラ、あれです。あの紅葉です」
わしは障子を開けて、一同に庭を見せた。そこの中程に、いつかこのわし自身が根元を掘った紅葉の木が立っている。わしが老婢(ろうひ)お豊と妙な問答をした場所だ。
「それが何であったと思います。皆さん、びっくりしてはいけませんよ。生れたばかりの赤ん坊の死骸が、小さな木箱に入れて埋めてあったのです。何者かがこの空別荘に忍び込んで死児を産み落したのかも知れません。それとも、生かしては置けない不義の子かなんかで、生れるとすぐ、実の親の手でしめ殺したのかも知れません。サア、こう考えて来ると、この畳の斑点が何であるかも、薄々分る様な気がするではありませんか」
誰も答えるものはなかった。薄暗い室内に、青ざめた三人の顔が、(もの)()の様に浮いて見えた。瑠璃子川村の恐怖は云うまでもないが、お人好しの住田医学士も、ここまで聞いては、さてはと一切の秘密を悟らぬ訳には行かぬ。
誰もわしが故意にこの秘密をあばいたとは思わぬ。ただ偶然に発見したのだと思っている。それがまだしも仕合せというものだ。この大秘密をあばいている男が、実は、死んだとばかり思い込んでいた大牟田子爵のなれの果てと知ったら、姦夫姦婦は、そのまま息の根も絶えてしまったかも知れない。
「で、その子供は、どうしました。警察へお話しになりましたか」
やっとして住田医学士が不安らしく尋ねた。
「イヤ、警察へ届けたところで、徒らに母親を苦しめるばかりです。済んだことは致し方ありません。その母親も恐らくはこれにこりて、二度と不義いたずらはしないでしょう」
だが瑠璃子よ、安心してはいけないぞ。警察沙汰にしないのは、その実わしの慈悲心からではなく、法律などの企て及ばない大復讐を為しとげる為の方便にすぎないのだから。
「で、子供は? 子供は?」
たまり兼ねた川村が初めて口を利いた。その声のみじめに震えていたことは。
「不思議なこともあるものですよ。その赤ん坊はまるで生れたばかりの様に、少しも腐敗せず、死んだ時のままの姿で、箱の中に眠っていたではありませんか。執念ですよ。小さいものが生きよう生きようとする精気でしょうか。イヤ、それよりも、恐らくは、姦夫姦婦の為にあざむかれた男の恨みに燃える執念の為せる業ではありますまいか。恐ろしいことです」
「で、その子供は? その子供は?」
川村が同じ言葉を、上の空で繰返した。
「ごらんなさい。ここにいるのです」
わしはツカツカと床の間に近づいて、例の桐の箱の蓋をとり、中から大きなガラス瓶を取り出して、一同の前に置いた。
と同時に、「クウー」という様な異様なうめき声がしたかと思うと、瑠璃子が、紙の様に青ざめた瑠璃子が、目をつむって、川村の両手の中に倒れかかっていた。流石の姦婦も、この恐怖には、最後の力も尽きて失神したのであった。
ガラス瓶の中には、手足をかがめ、顔も何も皺くちゃになった、灰色の赤ん坊が、白い目で、じっとこちらを睨んでいたのだ。
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