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奇怪なる恋愛

时间: 2023-10-06    进入日语论坛
核心提示:奇怪なる恋愛「併し、僕は実は気掛りなことがあるのですよ」川村は少し心配顔になって云った。「ホウ、幸福のかたまりの様な君に
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奇怪なる恋愛


「併し、僕は実は気掛りなことがあるのですよ」
川村は少し心配顔になって云った。
「ホウ、幸福のかたまりの様な君にも、やっぱり気掛りなことがあると見えますね」
わしは態々(わざわざ)意外らしく聞き返した。実は川村の気掛りな事柄は百も承知なのだ。
(ほか)でもありません。瑠璃子のことです。御存知の通り、あの人は交際好きで、男の友達も少くありませんし、それに、ひどく気まぐれなたちですから、長く留守にする間に、どんな事が起るまいものでもありません。あの美しさですからねエ」
川村め意気地なく嘆息した。
「ハハハ、……君も自信のないことを云い出すではないか。ナニ大丈夫だよ。僕の見る所では瑠璃子さんは真から君を愛している。間違いなぞ起る筈はないよ」
「エエ、僕もそれは信じているのだけれど、やっぱり気掛りで仕様がないのです。ところで、僕、里見さんにお願いがあるのですが、聞いて下さいますか」
「親友の君の頼みだ、どんな事でも聞きますよ」
わしは親友という言葉に力を入れて答えた。
「僕の留守の()、瑠璃子を保護して頂きたいのです。あの人を男友達どもの魔の手から保護してほしいのです。あなたなれば、大牟田家の縁者ではあり、御年配といい、全く信頼出来ると思います。どうか、僕の一生のお頼みを聞いて下さい」
川村もさるものだ。こうしてわしに頼んで置けば、社交界の狼連を防ぎ得るばかりでなく、わし自身が瑠璃子に思いをかける自由をも奪うことが出来るのだ。川村にしては、いくら老人だとて、瑠璃子の美しさでは油断がならぬと思ったことだろう。それに、瑠璃子が又、いやしい拝金宗と来ているのだ。
「よろしい、君はわしの親友であるばかりでなく、懐かしい大牟田敏清の唯一の友であった。わしは敏清の為にも一肌脱ぎますよ。彼の妻であった瑠璃子と、彼の無二の親友であった君とが一緒になるというのも何かの因縁だろう。地下の敏清も定めし喜んでいることでしょう。わしはね、川村君、君が敏清に尽したと全く同じ親切を君に尽す積りですよ。全く同じ親切をね」
わしはこの最後の言葉に又力を入れて云った。川村が尽したのと全く同じ親切というのは、とりもなおさず、妻を盗むことだ。地底に生き埋にすることだ。これが川村の友に尽した親切であったのだ。
わしの異様な言葉を聞くと、流石に川村()変な顔をしたが、まさかこのわしが当の大牟田敏清と悟る筈もなく、わしの快い承諾を感謝し、なおもくどくどと瑠璃子のことを頼んだ。
そこで、川村は心を残して大阪に出発し、一月ばかりというもの、手紙の外には彼の消息を断った訳であるが、彼の留守中わしの復讐計画は、一人ぼっちになった姦婦瑠璃子に対して、着々と進められて行った。
わしは毎日の様に彼女を訪ねた。瑠璃子の方でも、わしのホテルを訪ねて来た。外見では親子程も年の違うこの二人の男女は、段々親しみを増して行った。
ある日のこと、わしのホテルの私室のソファに並んで、瑠璃子と話していた時、わしは何気なく川村のことを云い出した。
「川村君から、伯父さんの寿命も、もう長くはないと云って来ましたよ。あの人も一躍お金持になる訳ですね」
すると、瑠璃子は眉をしかめて、
「マア、いやでございますわねえ、そんな不人情なことを」
と如何にも人情家らしいことを云う。
「併し、それがあなたとの婚資(こんし)になるのではありませんか。川村君も大変喜んでいましたよ」
「マア」
瑠璃子はさも意外だと云わぬばかりに、あきれて見せて、
「婚資でございますって? 川村さんがそんなこと申しましたの? いやですわ、あたし」
と、キッパリ否定する。
「エッ、それじゃ、あなたは同意なすった訳ではないのですか」
わしは大げさに驚いて見せたものだ。
「あの方は、なくなった主人が、兄弟の様に親しくしていた方でございましょう。あたしも本当に兄さんの様に思って、おつき合いしているばかりで、余り親しくなり過ぎて、そんな事考えるのもおかしい程ですわ。結婚なんて思いも寄らないことでございます」
「そうでしたか。あなたがそういうお気持なら、わしは安心しましたよ」
そういって、わしはちょっと好色な目つきをして見せた。
「エ、安心なさいましたとは?」
瑠璃子は、ちゃんとわしの心を察しながら、そしらぬ振りで聞き返す。
「ハハハ……イヤ、そう真面目に尋ねられては困りますが、……わしはね、あんたが再婚すると聞いて、実はひどく失望していたのです」
白髪白髯の老人が女を口説くのは、仲々むずかしいものだ。いくらかは老年のはにかみという様なものを見せなければ、お芝居が本当らしくない。わしはそこで、妙な空咳をして、無暗(むやみ)と髭をこすって見せたものじゃよ。
それに、考えて見ると、わしの立場は実に何とも云えぬ異様なものであった。わしは正しくわしの女房に違いない女を、まるでみそか男か何ぞの様に口説いているのだ。わしはふと、恐ろしい夢でも見ている様な気持にならないではいられなかった。すると姦婦は、これも仲々のしれ者だ。まるで小娘の様に、パッと顔を赤らめて、消えも入り度い風情を見せ、
「マア、ご冗談を。あたし、あなたは女嫌いでいらっしゃると伺ってましたのに」
と、甘い鼻声で、云いにく相に云った。
「女嫌い? 成程わしは女嫌いです。この年まで妻というものを(めと)らなかった男です。併し、瑠璃さん、それはわしが異性に対して余りに贅沢であったからかも知れません。(つま)りわしの心に思っている様な女に、今まで一度も出会ったことがなかったのです。ところが、今度日本へ帰って、あなたという人を見てから、わしの気持は全く変ってしまった。わしは死んだ大牟田敏清をさえ羨んだ。まして、現にあんたの周囲に群がる若い紳士達を見ると、笑わないで下さい、わしは本当に嫉妬に耐えないのです。わしは何ぜあんたと同じ年頃に生れ合わさなんだかと、それが恨みです」
わしのお芝居は段々熱を帯びて行った。真から、この愛らしい女をかき口説いている様な、妙な気持になって行った。その相手が、今わしの前にさも初々しく恥らっている美女が、嘗てはわしの妻であったことが、わしの気持を一層変てこな気違いめいたものにした。
瑠璃子は、目のふちを真赤にして(娼婦というものは、心にもなく顔赤らめる術を心得ているものだ)じっとうつむいていたが、わしの言葉が熱して来るに従って、彼女は何か総毛立つ様に身を震わせ、感激の(おもて)を上げて、わしを見上げた。
アア、彼女は泣いているのだ。彼女のまぶたには、水晶の様な涙の玉がつらなり、唇は感激にふるえ、何事をか云わんとして、言葉も出でぬ有様だ。実に至芸である。嘗ては彼女の夫であったわしも、瑠璃子がこれ程の名優であろうとは、少しも知らなんだ。
「あたし、こんな嬉しいことはありません。叶わぬこととは思いながら、あたし、それを夢見ていたんです。あなたの力強い腕に抱かれることを夢見ていたんです」
瑠璃子は名文句を吐きながら、熱い手を伸ばしてわしの手をとった。そして、いつか川村に対してした通りに、涙にぬれ輝く顔を仰向け、半開の赤い唇を震わせながら、わしの顔の真下に迫って来た。
わしは流石に狼狽しないではいられなかった。この仇敵と唇を交わさねばならぬとは、余りにも苦々しい事だ。わしは躊躇した。だが、次の瞬間には、接吻は何も愛情の印ばかりとは限らぬ、相手を侮辱し、弄んでやる積りなら少しも構わぬではないかと思い返した。
わしは嘗ての愛妻の――今は憎みても足らぬ仇敵の、唇を吸った。その不思議にも複雑な味わいは今も忘れる事が出来ない。
わしは相手の燃える様な、異様に躍動する唇を感じながら、この妖艶類なき女を、果して憎んでいるのか、それとも、実は溺愛しているのか、我と我心を疑わねばならなかった。
唇の感触から、嘗ての甘かりし日の思出が、まざまざとわしの心に浮上った。いつかも話した、わしと瑠璃子との、みだらな湯殿のたわむれなどが絵の様に思い出された。
だが、ウトウトと夢見心地になって行くわしの心を、パッと打ち()ますものがあった。わしの復讐心が、きわどい所で、美女の誘惑に打勝(うちかっ)たのだ。
わしはグッと心を引きしめ、同時に顔や仕草は一層柔げながら、静かに唇を離して、最後の言葉を吐いた。
「わしはあんたに結婚を申込むことが出来るだろうか」
瑠璃子は何も云わなんだ。何も云わず、ただ深く深く肯いて見せると共に、握り合っていた指先に、思いのたけを通わせて、砕けよとばかり握りしめたのである。
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