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十三人

时间: 2023-10-07    进入日语论坛
核心提示:十三人 大阪の川村義雄から、愈々伯父が死亡したこと、遺産はとどこおりなく相続を了したことを通知して来たのは、それから間も
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十三人


 大阪の川村義雄から、愈々伯父が死亡したこと、遺産はとどこおりなく相続を了したことを通知して来たのは、それから間もなくであった。
 わしは早速喜びの返書を認めた。そして、先ず川村を有頂天にさせる様な嬉しがらせの文句を連ねたあとへ、こんなことをつけ加えた。

ついては貴兄御帰着の当夜、心ばかりの歓迎宴を催し度く、已に当市社交界の立物T氏K氏その他十数名の賛成を得居り(そうら)えば、必ず御列席下され(たく)、御帰着の時間には小生停車場に出迎え、その場より宴会場へ御伴い申す手筈に(そうろう)


 という意味は、川村が帰って、まだ瑠璃子に逢わぬ内に、その宴会場へ連れて行く必要があったのだ。
 わしが瑠璃子と婚約を取交わしたことは、川村には無論少しも知らせなかった。これは瑠璃子も同意なのだ。彼女にしては、あれ程恋い慕っている川村を袖にして、わしの妻になるというのは、流石に寝ざめが悪い気がして、このことはある時期が来るまで川村には絶対に秘密にして置いてくれとの頼みであった。
 川村からは折返し返事があって「私如きものの為に、S市一流の名士方が歓迎宴を張って下さるとは、実に実に光栄の至り、御指図の通り停車場よりすぐ様会場へかけつけます」と云って来た。喜び勇んでいる様子が目に見える様だ。
 さて、愈々川村の帰って来る日とはなった。午後六時、わしは、来会者達をホテルの食堂に待たせて置いて、自動車で停車場へ出迎えに行った。
 川村は、贅沢な新調の洋服を着込んで、一際(ひときわ)男ぶりを上げて帰って来た。わしの姿を見ると、飛びつく様にして、
「里見さん、実に感謝の外ありません。僕もお引立てによって、どうやら一人前の男になれる様です。それから、瑠璃子さんのことを有難う。こんなことを申しては済みませんが、歓迎会さえなければ、僕は大牟田の別荘へ飛んで行き度い程に思っているのです。それにしても、万事に行届いたあなたが、どうして今夜の会に瑠璃子さんも加えて置いて下さらなかったのです」
 と(えん)じた。
「ハハハ……おいしいご馳走はあとからということもありますよ。瑠璃子さんは益々元気で益々美しいです。安心なさい。今夜の会は男ばかりだし、君達が愈々結婚を発表するまでは、余り見せびらかさぬ方がいいと思って、(わざ)と呼ばなかったのです。あの人は停車場へも迎えに来たい様子だったけれど、それもわしが止めた位です。マア会の方はなるべく早く切上げることにするから、兎も角一緒に来てくれ給え」
 わしは言葉巧に云いつくろって、彼を自動車に乗せ、宴会場へ連れ帰った。
 ホテルの大食堂には、純白のテーブル掛けに覆われた大食卓に市内屈指の紳士紳商がズラリと顔を並べて待ち受けていた。
 川村は一人一人に頭を下げながら、嬉しさに笑みくずれて主賓の席についた。
 さて、食事の皿が次々と運ばれ、人々の手にナイフとフォークがキラキラときらめき始めたが、大いにお目出度い歓迎の酒宴でありながら、妙に席が白けて、一同言葉少なであった。
「里見君、僕は黙っている積りだったが、どうも聞かずにはいられなくなった。君、この宴会の人数はどうしたものだい。まさか、こんな不吉な数の招待状を発した訳ではなかろうね」
 隣席のS市商業会議所会頭のT氏が、ソッとわしに囁いた。
「人数とは?」
 わしは態と()に落ぬ体で聞返した。
「ホラ見給え、我々は丁度十三人じゃないか。十三という数が、不吉だ位は君も心得ているだろう」
 かつぎ屋のT氏は非常な不機嫌である。
「ア、それはつい気がつかなかった。成程十三だね。実は十五人に招待状を出したのだけれど、二人不参者があったので」
 わしはさもさも困ったらしく答えた。
 囁き声の積りであったのが、そんな低い声さえ隅々まで聞取れる程、一座が静まり返っていたので、この不吉極まる会話は、忽ち一同の知る所となり、口には出さぬけれど、お互に顔見合せて、一抹の不安が食卓に漂った。
 だが、間もなく食事は滞りなく終り、果物が運ばれ始めたので、わしは一座の不安をかき消すべく、快活に立上って、一場の歓迎の辞を述べた。
 わしはただもう滅多無性に川村をほめ上げ、彼の幸運を祝し、かくの如く富裕にして趣味豊なる青年紳士を、我が社交界に迎え得たことは、衷心(ちゅうしん)より愉快に耐えぬ所である。という様なことを、美辞麗句をつらねて述べ立て、更にこんなことまでつけ加えた。
「ほのかに聞く所によりますと、川村君は近く婚約者を定められ、我々に披露される日も遠くはないとの事であります。仕合せは決して一人ぼっちではやって来ません。川村君は今や二重三重と重なる幸運にめぐまれ、人生歓喜の極にあられることと存じます。しかも、その婚約の婦人は淑徳(しゅくとく)のほまれ高く、秀麗並びなき美人と(うけたまわ)るのであります」
 わしの言葉が終るや否や、人々は一斉に拍手を送り、T氏の音頭で、川村の幸福を祝する乾杯が行われた。
 それをきっかけに一座が俄に賑かになった。川村は四方から冗談まじりの祝辞をあびせられて、笑みくずれていた。
 これが姦婦川村の[#「姦婦川村の」はママ]幸福の絶頂であった。運命の分水嶺(ぶんすいれい)であった。
 さて、頂上を極めたあとは下り坂に極っている。しかも、その下り坂は急転直下、千仭(せんじん)の奈落へと続いていたのだ。
 わしは再びスックと自席に立上った。
「皆さん、この機会に、ちょっとご披露申上げたいことがあります。外でもありません。実は私自身の身の上に関するご報告であります。川村君の幸運には及びもつきませんが、私もいささかの喜びを皆さんにお知らせすることが出来ますのを、欣快(きんかい)に存ずるものであります」
 それを聞くと、一座の騒ぎはピッタリ静まって、人々は好奇の目をみはって、わしを眺めた。
「謹聴、謹聴」の声が各所に起った。
「突然の御報告で、皆さんは定めしびっくりなさることでございましょう。イヤ、そればかりか、あのひからびた老人がと、御失笑を買うに相違ありません……思切って申上げましょう。実はこの年まで独身を通した私が、近く妻を(めと)ることになったのでございます。枯木に花咲く幸運にめぐまれたのでございます」
 ここまで云うと、余りに意外な報告に、一座はしいんと静まり返ったが、次の瞬間百雷の拍手が湧き起った。
「お目出度う」「お目出度う」の雨。
「あなたの新妻となる果報者は誰です。早くその名をおっしゃい」と質問の矢。
 わしは思わせぶりに、二つ三つ咳ばらいをして、さて、わしの正面にいる川村義雄の顔をじっと見つめながら、愈々婚約者の名前を披露する順序となった。

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