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恐ろしき子守唄(2)

时间: 2023-10-07    进入日语论坛
核心提示: わしは顔の筋一つ動かさず云い放った。「では、あたしをどうしようとおっしゃいますの」「わしが受けたのと同じ苦痛を与えるの
(单词翻译:双击或拖选)
 わしは顔の筋一つ動かさず云い放った。
「では、あたしをどうしようとおっしゃいますの」
「わしが受けたのと同じ苦痛を与えるのだ。目には目を、歯には歯を。これがわしの動かし難い決心なのだ」
「では……」
ほかでもない。お前をここへ生埋にしてやるのだ。その棺の中にはお前の何よりも好きな宝石が満ち充ちている。巨万の財産が転がっている。お前はその宝物を持ちながら、二度と浮世の風に当ることが出来ないのだ。いつぞやわしが味わったのと、全く同じ苦痛を味わせてやるのだ。
 それから、もう一つの棺の中には、お前の恋人がいる。お前の可愛い赤ちゃんがいる。お前はちっとも淋しくはない筈だ。親子三人睦じく、同じ墓穴の土となるのだ」
「アア、悪人! お前こそ人殺しだ。情を知らぬ人鬼だ」
 突然、瑠璃子の口から恐ろしい言葉がほとばしった。
「サア、そこをのけ。あたしは出るんだ。お前を殺してでもここを出るのだ。畜生め、悪人め」
 彼女は叫びながら、いきなりわしに武者振むしゃぶりついて来た。鋭い爪がわしの肉に食い入った。
 か弱い女にどうしてあんな力が出たのかと、今でも信じられない程だ。彼女はわしに組みついて、わしをねじ伏せてしまった。ねじ伏せて置いて、いきなり入口に向って駈け出そうとした。
 わしは彼女の足首を掴むのがやっとだった。
 それから、組んずほぐれつの、醜い格闘が始まった。燕尾服を着た白髪の老紳士と、殆ど裸体になった美人とのとり組みだ。瑠璃子は、獣物けだものの様な叫び声を発しながら、歯をむき出し、爪を立てて、死にもの狂いに武者振りついて来た。
 黒と白との二つ巴が、地底の洞窟を、物の怪の様に転がり廻った。
 併し、如何にたけり狂えばとて、彼女は到底わしの敵ではなかった。遂にヘトヘトになって、白い肉の塊りの様に動かなくなってしまった。
 死んだのではないかと、覗いて見ると、彼女は確に生きていた。息も絶え絶えに生きていた。
「では、これがお別れだ。お前は永久にこの墓穴にとじこめられたのだ。わしの苦しみがどんなであったか、ゆっくり味わって見るがいい」
 わしは云い捨てて、洞窟を走り出で、外から鉄の扉をしめ、鍵をかけた。かつて私が抜け出した、あの一番奥の棺桶の底からの抜け道は、石でふさいでしまってある。瑠璃子は絶対に逃げ出す見込みはないのだ。
 わしの復讐事業は全く終りをつげたのだ。あとは、どこか遠くの土地へ高飛びしてしまえばよいのだ。余生を送る費用は、充分用意がしてあるのだから。
 空を仰ぐと、降る様な星だ。黒い微風が、ソヨソヨと熱した頬をかすめて行く。
 わしは立去ろうとして躊躇ちゅうちょした。瑠璃子はどうしているかしら。
 ふと気がつくと、どこからともなく、やさしい子守唄の声が聞えて来た。わしは何かしらゾッとして、聞耳を立てた。どうやらその声は洞窟の中から響いて来るらしい。
 変だ。生埋にされた瑠璃子が、呑気らしく唄など歌う筈はないがと、気になるままに、鍵を取出してもう一度錠前をはずし、ソッと一寸ばかり扉を開いて、覗いて見ると、そこには実に異様な光景があった。
 殆どまっぱだかの瑠璃子が、腐りただれた赤ん坊の死骸を抱いて、くずれる様な笑顔でその赤ん坊をあやしながら、腰を振り振り、右に左に歩いていたではないか。
 彼女は右手一杯に宝石を掴んで、それを、或は彼女自身の乱れた髪の毛の上に、或は赤ん坊の胸の上に、サラサラサラサラ、子供の砂遊びの様に、こぼしていたではないか。
「坊や、うッついでちょ。うッついでちょ。母あちゃまはね、女王様になったのよ。こんなに宝石があるのよ。ホラうッついでちょ」
 訳の分らぬことを云って聞かせながら、又しても子守唄を歌い続けるのだ。うっとりとする程美しい声で、あの柔かい節廻しを歌い続けるのだ。
 わしは、茫然として、長い長い間、その異様にも美しい光景に見とれていた。

        ×    ×    ×    ×    ×

 これでわしの恐ろしい身の上話はおしまいです。
 それから、どうしてわしが捉えられ、獄に投ぜられたかは皆さんの方がよく知ってお出でじゃ。
 わしは悪に報ゆるに悪を以てした。その報復を楽しみさえした。瑠璃子と川村の悪は完全に報いられた。だが、今度はわし自身の悪が残っている。これに報いがなくて済む筈のものではない。それを警察の方々がやって下すった。わしは高飛びの途中、まんまとつかまってしまった。以来十何年、わしはこうして獄舎の生活を続けているのじゃ。
 そして、今ではわしの処業についてこんな風に考えています。
 わしは復讐を楽しみすぎた。わしこそ悪人であった。瑠璃子も川村も、あれ程の恐ろしい報いを受けることはなかったのだ。考えて見ると、彼等には実に可哀相なことであった。又、わし自身にとっても、無駄な努力をしたものだと。
 十何年の獄中生活が、わしをこんな内気な男にしてしまったのですよ。皆さん。

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