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虫(19)_虫_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:九 その翌朝(よくあさ)、北側の小さな窓の、鉄格子の向(むこう)から、晩秋のうららかな青空が覗き込んだ時、柾木愛造は、青黒く
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 その翌朝(よくあさ)、北側の小さな窓の、鉄格子の(むこう)から、晩秋のうららかな青空が覗き込んだ時、柾木愛造は、青黒く汚れた顔に、黄色くしぼんだ目をして、部屋の片隅の、菩薩の立像の足元にくずおれていたし、芙蓉の水々しいむくろは、○○○○○○○、悲しくも既に強直して畳の上に横たわっていた。だが、それは、ある種の禁制の生人形の様で、決して醜くなかったばかりか、寧ろ異様になまめかしくさえ感じられた。
 柾木はその時、疲れ切った脳髄を、むごたらしく使役して、奇妙な考えに耽っていた。最初の予定では、たった一度、芙蓉を完全に占有すれば、それで彼の殺人の目的は達するのだから、昨夜(ゆうべ)の内に、こっそりと、死骸を庭の古井戸の底へ隠してしまう考えであった。それで充分満足する筈であった。ところが、これは彼の非常な考え違いだったことが分って来た。
 彼は、魂のない恋人のむくろに、こうまで彼を惹きつける力が(ひそ)んでいようとは、想像もしていなかった。死骸であるが故に、却って、生前の彼女にはなかったところの、一種異様の、人外境の魅力があった。むせ返る様な香気の中を、底知れぬ泥沼へ、果てしも知らず沈んで行く気持だった。悪夢の恋であった。地獄の恋であった。それ故に、この世のそれの幾層倍、強烈で、甘美で、物狂わしき恋であった。
 彼は最早や芙蓉のなきがらと別れるに忍びなかった。彼女なしには生きて行くことは考えられなかった。この土蔵の厚い壁の中の別世界で、彼女のむくろと二人ぽっちで、いつまでも、不可思議な恋にひたっていたかった。そうする外には何の思案も浮ばなかった。「永久に……」と彼は何心(なにごころ)なく考えた。だが、「永久」という言葉に含まれた、ある身の毛もよだつ意味に思い当った時、彼は余りの怖さに、ピョコンと立上って、いきなり部屋の中を、忙し相に歩き始めた。一刻も猶予のならぬことだった。だが、どんなに急いでも慌てても、彼には(恐らく神様にだって)どうすることも出来ないのだ。
「蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、ゝゝゝゝゝゝゝゝゝゝ」
 彼の白い脳髄の(ひだ)を、無数の群蟲(ぐんちゅう)が、ウジャウジャ這い廻った。あらゆるものを(くら)いつくす、それらの微生物の、ムチムチという咀嚼(そしゃく)の音が、耳鳴りの様に鳴り渡った。
 彼は長い躊躇(ちゅうちょ)のあとで()()わ、朝の白い光線に曝された、恋人の上にかがみ込んで、彼女の体を注視した。一見した所、死後強直が、さき程よりも全身に行渡って、作り物の感じを増した外、さしたる変化もない様であったが、仔細に見ると、もう目がやられていた。白眼の表面は、灰色の斑点(はんてん)で、殆ど(おお)い尽され、黒目もそこひの様に溷濁(こんだく)して、虹彩(こうさい)がモヤモヤとぼやけて見えた。そして、目全体の感じが、ガラス玉みたいに、滑っこくて、固くて、しかもひからびた様に、(うるお)いがなくなっていた。そっと手を取って眺めると、拇指(おやゆび)の先が、片輪みたいに、(てのひら)の方へ曲り込んだまま、動かなかった。○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○。
 彼は胸から背中の方へ目を移して行った。無理な寝方をしていたので、肩の肉が皺になって、そこの部分の毛穴が、異様に大きく開いていたが、それを直してやる為に、一寸身体を持上げた拍子に、背中の畳に接していた部分が、ヒョイと彼の目に映った。それを見ると、彼はギョクンとして思わず手を離した。そこには、かの「死体の紋章」と云われている、青みがかった鉛色の小斑点が、已に現われていたのだった。
 これらの現象は凡て正体の曖昧(あいまい)な、極微有機物の作用であって、死後強直というえたいの知れぬ現象すらも、腐敗の前兆をなす所の、一種の糜爛(びらん)であった。柾木は嘗つて、何かの書物で、この極微有機物には、空気にて棲息(せいそく)するもの、空気なくとも棲息するもの、(および)両棲的なるものの三類があることを読んだ。それが一体何物であるか、何処(どこ)からやって来るかは、非常に曖昧であったけれど、兎に角、目に見えぬ黴菌(ばいきん)の如きものが、恐ろしい速度で、秒一秒と死体を(むしば)みつつあることは確かだった。相手が目に見えぬえたいの知れぬ蟲丈けに、どんな猛獣よりも一層恐ろしく、ゾッとする程不気味に感じられた。
 柾木は、(ほのお)の見えぬ焼け焦げが、見る見る円周を拡げて行くのを、どうすることも出来ない時の様な、恐怖と焦燥とを覚えた。立っても坐ってもいられない気持だった。と云って、どうすればよいのか、少しも考えが纒まらなんだ。
 彼は何の当てもなく、せかせかと梯子段(はしごだん)を降りて母屋(おもや)の方へ行った。婆やが妙な顔をして「ご飯に致しましょうか」と尋ねたが、彼は「いや」と云った丈けで、又蔵の前まで帰って来た。そして、外側から錠前を卸すと、玄関へ走って行って、そこにあった下駄(げた)(つっ)かけ、車庫を開いて、自動車を動かす支度(したく)を始めた。エンジンが温まると、彼はそのまま運転台に飛乗って、車を門の外へ出し、吾妻橋の方角へ走らせた。賑かな通りへ出ると、その辺に遊んでいた子供達が、運転台の彼を指さして笑っているのに気づいた。彼はギョッとして青くなったが、次の瞬間、彼が和服の寝間着姿のままで車を運転していたことが分った。ナアンダと安心したけれど、そんな際にも、彼は顔を真赤にして、まごつきながら、車の方角を換え始めた。

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