大金塊
賢吉少年は、そのあくる朝、警察の人たちがひきあげていくのをまって、そっと庭へ出ました。庭の石の下にかくしておいた、あの小さい鉄の箱をしらべてみるためです。ゆうべの怪物が、鉄の箱を持っていったのではないかと心配でたまらなかったのです。
目じるしの石をもちあげてみますと、ああよかった。鉄の箱は、そこにありました。ちゃんと、もとの場所にのこっていたのです。賢吉君は、もうじぶんひとりで、かくしておいてはいけないと思いました。それで箱をとりだすと、いそいでうちにかけこみ、それをおとうさんに見せて、このあいだの夜、神社の森の中で格闘があったとき、顔じゅうにヒゲのはえた、きたないおじさんに、この箱をあずけられたこと、そのおじさんは、もしおれが死んだら、鉄の箱を、川の中へすててくれといったけれども、おじさんが警察病院で死んでからも、すてる気になれないので、庭の石の下へうずめておいたことを、くわしく話しました。
おとうさんは、鉄の箱を手にとってひらこうとしましたが、どうしてもあけることができません。書生の戸田君もやってみましたが、やっぱりだめです。
そのとき、賢吉少年は、ふと思いついたように、声をはずませていいました。
「いいことがあります。ぼく、その箱を明智探偵事務所へ持っていって、ぼくらの少年探偵団の小林団長に見せましょう。そして、明智先生の知恵をかりれば、きっとこの箱の秘密がわかりますよ。」
「うん、それはいい思いつきだ。戸田君に送ってもらって、いつもよびつけのハイヤーに乗って行ってくるがいい。運転手と戸田君と、ふたりもごえいがついてれば、だいじょうぶだろう。それに昼間のことだしね。」
おとうさんも賛成だったので、まず明智の事務所へ電話をかけますと、明智先生も小林少年も、事務所にいることがわかりましたので、顔見知りの運転手の自動車をよんで、賢吉少年は鉄の箱をだいじにかかえて、書生の戸田君といっしょに、それに乗りこみました。
事務所につくと、小林少年が出てきて、ふたりを応接室にとおしました。そして、賢吉君から話をきき、鉄の箱を手にとって、いろいろやってみましたが、小林少年にもひらくことができません。
「ちょっと待っていたまえ。明智先生に、この箱を見せてくるから。」
小林少年はそういって、箱を持ってドアの外へ出ていきましたが、十分ほどすると、明智先生といっしょに、にこにこしてもどってきました。
「先生は、わけなくおひらきになったよ。ほら、こうするんだ。箱根細工の秘密箱とおなじだよ。から草もようの、ここのところをおすんだよ。すると、こちらがわがひらくようになる。それから、ここをおすと、ね。二―三度、おなじことを、くりかえせばいいんだよ。そうすると、すっかり、ひらいてしまう。
だが、それよりも、もっとたいへんなことがあるんだ。この箱の中には、何十億円というすばらしいねうちのものが、はいっていたのだよ。」
小林少年の説明にびっくりしていると、明智探偵がいすにかけて、にこにこしながら話しはじめました。
「それはこういうわけだよ。この鉄の箱の中には、三つの書きものがふうじこめてあった。ひとつは福永という、もと遠洋航路の大洋丸の船長をしていた人の遺言書。ひとつは、紀伊半島の南の海路図。もうひとつは保険会社の証書なのだよ。」
明智はそういって、手に持っていた何枚かの書きつけを見せました。