巨人と怪人
「この穴は、おくが深いし、いくつも枝道がある。もうだいじょうぶだ。けっして、見つかる心配はない。」
ふくめんの首領は、岩あなを、おくのほうへ、歩きながら、じしんありげに、いうのでした。
「だが、ふしぎですね。陸のほうの出口からは、おまわりが、はいってくるし、鉄の人魚の中には、敵のやつらがはいっているし、魚形潜航艇は、いつのまにか機械がこわれているし、いったいどうしたというのでしょうね。」
うしろから、首領のあとを追いながら、ジャックが声をかけました。
「うん、どうも、みんな、明智小五郎のしわざらしい。あいつが、どうかして、この洞窟を見つけたのだ。そして、いろんなことを、たくらんだのにちがいない。それにしても、わけがわからないのは、賢吉のやつだ。あのおとなしい子どもが、いつのまに、あれほど、すばしっこくなったのか、じつに、ふしぎだ。」
岩あなのてんじょうが、グッと、ひくくなってきたので、首領は、背をかがめて歩きながら、うしろのジャックに話しかけます。すると、ジャックは、なにがおかしいのか、クスクス笑って、
「あんたは、まだ、そのわけが、わからないのですかい?」
と、みょうなことを、いいました。首領はその声を聞くと、びっくりしたように立ちどまって、ジャックの声のするほうを、ふりむきました。
「なんだって? それじゃ、おまえには、わかっているのか。」
「わかってますよ。あの子どもは賢吉じゃないのです。」
「えっ、賢吉じゃない。それじゃ、あれは何者だっ。そして、賢吉はどこへ行ったのだ。」
「賢吉は、おきのハヤブサ丸へ帰りましたよ。」
「どうして、帰ったのだ、まさか、泳いでいったわけじゃなかろう。」
「小船にのって行きました。」
「その小船はどこにあったのだ。そして、だれが、こいだのだ。」
「明智小五郎が、こぎました。船は漁師から、かりたのですよ。明智と賢吉は、親子の漁師のようなふうをして、われわれの目をくらましたのです。」
それをきくと、首領は、暗やみのなかで、グッとジャックのうでをつかみました。
「きさま、それを知っていて、なぜ、いままで、だまっていたのだ。なぜ、おれに、知らせなかったのだっ。」
「これには、わけがあるのです。あとで説明します。それより、ここはどうも、きゅうくつですね。もっと広いところへ出ましょう。」
「うん、すこしおくへ行けば、また広くなる。こっちへ、くるがいい。」
首領はそういって、さきにたって、からだをまげながら前にすすみます。十メートルも行くと、広い洞窟に出ました。
「さあ、ここなら、いいだろう。で、賢吉がハヤブサ丸へ逃げたとすると、さっき、おれが追っかけた子どもは、いったい何者だ?」
「明智小五郎の少年助手の小林です。」
「えっ、あれが小林だって?」