いきなり、ワラたばをひきだして、ふみにじりました。そのひょうしに、人形の首がとれて、コロコロところがり、まるで少年が、首をきられたように見えました。
それにしても、人形の首や、ワラたばは、いったい、だれが持ってきたのでしょう。また、人形に服をきせて逃げだした賢吉少年は、いったい、なにをきているのでしょう。
首領は、ふしぎでたまらないという顔つきで、首をかしげました。
しかし、読者諸君は、よくごぞんじです。賊の手下のジャックにばけた明智探偵が、ハヤブサ丸から人形の首や、ワラたばをろうやの中にもちこみ、賢吉君の服をそれにきせ、賢吉君には小林少年がきていた漁師の子どものをきせ、明智じしんも漁師の着物をきて、ほんとうの賢吉君は、船にのせてハヤブサ丸へつれてかえったのです。
ですから、洞窟の中にチラチラと、姿を見せている子どもは、賢吉君ではなくて小林少年なのです。小林少年が賢吉君の服をきて、ばけているのです。
しかし、賊の首領は何もしりません。洞窟の中がくらいのと、明智の変装のうまいので、首領は、ほんとうのジャックだと、思いこんでいるのです。
「よし、おれが、じぶんで、賢吉をつかまえてやる。まだ洞窟の中にいるにちがいない。ジャック、おまえも、てつだえ。」
首領はろうやを出ると、まっ暗な岩のトンネルの中を、グルグルと歩きはじめました。ジャックがうしろから懐中電灯をてらして、ついていきます。
しばらく歩いていきますと、むこうのほうを、小さな黒いかげが、サッとよこぎるのが見えました。
「や、いたぞ。あれが賢吉にちがいない。もう、のがさないぞ。」
ふくめんの首領は、黒いマントをひるがえして、そのほうへ走りだしました。ジャックも、あとにつづきます。
「いる、いる。あすこを走っている。たしかに賢吉のやつだっ。」
首領は、いっそう足をはやめました。子どもとおとなですから、かけっこには、かないません。追うものと、追われるもののあいだは、みるみるせばまっていきました。ああ、あぶない、賢吉君にばけた小林少年は、いまに、つかまってしまうのではないでしょうか。
「あっ、あいつ階段をのぼっている。洞窟の外へ、逃げだす気だなっ。」
首領が、走りながら、いまいましそうに、いいました。その石の階段の上には、れいの陸上にひらいている、小さな穴があるのです。
首領は、とぶように、階段にかけつけ、下から少年の服をつかもうとしました。もう三十センチぐらいで、手がとどきそうです。
しかし、少年のほうが、すばやかったのです。かれは地上への出口の、草のはえたかたい土のかたまりをおしのけて、パッと穴の外へ、とび出してしまいました。
ふくめんの首領は、すぐそのあとから、穴の外へ、顔を出しましたが、そこをひと目みると、ハッとして首をひっこめてしまいました。
穴の外に、おそろしいものがいたからです。どうして、いつのまに、やってきたのか、穴の外の林の中に、制服の警官が五―六名、ズラッとならんで、こちらをにらんでいたのです。賢吉君になりすました小林少年は、その警官のまんなかにはさまれて、にこにこして立っていました。
「たいへんだっ。警官が来た。ジャック、にげるんだ。はやく、にげるんだ。」
首領は、おおいそぎで、石の階段をかけおり、ジャックをおすようにして、洞窟のおくのほうへかけだしました。
ふたりは、グルグルまがっているトンネルの中を、死にものぐるいで走りました。そして、ついたところは、海のほうに近いひろい洞窟でした。そこには、あのおそろしい八ぴきの鉄の人魚が、ウジャウジャかたまって、すんでいるのです。