怪少年
首領はジャックを、テーブルの前によびつけて、しかりつけました。
「ジャック、どこへ行ってたのだ。おまえをさがしだしてから、もう一時間にもなるぞ。いったい、そんな長いあいだ、どこへ、あそびにいっていたんだ。」
首領の前に立ったジャックは、にやにや笑って、頭をかきました。
「村へ行って、漁師のうちで、ごちそうになったもんだから、つい、おそくなって……。」
「なんだと? 村へあそびにいった? ようじをすませたら、すぐ帰れと、あれほどいってあるじゃないか。漁師なんかとつきあって、このかくれがを感づかれたら、どうするんだ。」
「へえ、もうしわけありません。これから、気をつけます。」
ジャックは、うつむいて、しんみょうにしています。
「おまえは、ろうやのかぎを、あずかっているんだろう。そのろうやに、へんなことがおこったのだ。賢吉のやつが、ろうやをぬけだしたらしい。洞窟の中に、チョロチョロと姿をあらわすのだ。だが、あの子どもは、いつのまに、そんなにすばしっこくなったのか、みんなが、おっかけても、どうしても、つかまらないのだ。
ところが、ろうやへいって、こうしの中をのぞいて見ると、賢吉はちゃんと、その中にうずくまっている。なんだかわけがわからないのだ。みんなは、賢吉がふたりになったといっている。だが、そんなばかなことはない。どちらかが、にせものなんだ。それで、ろうやにいる賢吉をしらべようとしたが、ろうやの戸をひらくかぎがない。かぎはおまえがもっているからだ。さあ、すぐにろうやをしらべてみよう。まさか、かぎをなくしはしまいな。」
「へえ。それは、ちゃんと、ここに持っております。じゃあ、ろうやへ、おともしましょう。」
ジャックは、そういって、さきにたちました。ふくめんに黒マントの首領は、そのあとからついてきます。
ふたりは、まっ暗な岩のトンネルをとおって、ろうやの前に来ました。ジャックがかぎで、ろうやの戸をひらき、ふたりはその中に、はいりました。
みると、賢吉少年は、いわやのすみっこに、うつむいて、うずくまっています。ふたりが、はいってきても、身うごきもしません。眠っているのか、それとも、死んでしまったのではないかと、思われるほどです。
首領はツカツカと、そのそばによって、うつむいている賢吉君の頭をおさえて、グッと顔を、あおむけましたが、その顔を、一目みると、
「あっ。」
と、声をたてて、タジタジと、あとじさりをしました。それは人間の顔ではなかったからです。ジャックも、それを見てびっくりしています。
ふたりは、なぜそんなに、おどろいたのでしょうか。それは生きた人間の顔ではなくて、マネキンの顔だったからです。洋服屋のショーウインドーにかざってある、子ども人形の顔だったからです。
首領は、人形だとわかると、はらだたしげに、ひきちぎるように、うわぎをぬがせましたが、からだはワラのたばでできていることがわかりました。ワラたばに洋服をきせて、賢吉少年に見せかけてあったのです。
「賢吉のやつ、こんな人形でごまかしておいて、やっぱり逃げだしたんだな。ちくしょうめ。」