おばけガニのさいご
明智は、懐中電灯をふりてらして、そのあとをおいました。が、二十面相の足は、ひじょうにはやく、むこうの岩かどを、まがって、見えなくなってしまいました。
明智が、その岩かどまで走っていきますと、岩あなが、ふたつに分かれていました。二十面相は、どちらへ逃げたのか、わかりません。明智がそこで、ちょっとためらっていたので、ふたりのあいだは、ますます、へだたってしまいました。
しかたがないので、一方の岩あなを、懐中電灯でてらしながらすすんでいきましたが、二十メートルもいくと、そこが、いきどまりになっていました。
おおいそぎで、ひきかえし、もとの分かれみちに、もどりました。そして、もうひとつの岩あなへ、はいっていきました。しばらくすすみますと、むこうの方に、なにかもやもやと、うごめいているものがあります。
ひどく大きな、気味のわるいものでした。明智は電灯の光を、その方にさしつけました。すると、もやもやしたものの姿が、はっきり見えてきました。
それは、人間の二倍もある、巨大なカニだったのです。それが、とび出した二つの目で、こちらをにらみつけ、大きなハサミを、ふりたて、ぶきみな八本の足で、ガサガサと、むこうのほうへ、はっていくのです。
おばけガニです。明智は、じぶんの目では見ていないのですが、いつか、ハヤブサ丸の金塊ひきあげのロープを切ってしまった、あのおばけガニです。
ほんとうに、そんな大きなカニが、いるわけはありません。鉄板でつくったカニです。そして、その中に二十面相がかくれているのでしょう。
明智が、その方へ近づくと、おばけガニは、サッとにげ出し、こちらが立ちどまると、カニも、とまって、とび出した目玉を、クルクルまわし、巨大なハサミをふりたてて、「ここまでおいて。」というような、かっこうをします。
おばけガニは、八本の足で、よこばいをするのですから、とても、にげあしがはやくて、さすがの明智にも、なかなかつかまりません。
ほら穴は、のぼり坂になり、だんだん、それが、きゅうになってきました。明智は、大ガニを、どこまでも追っていきます。
こちらがパッと、とびつくと、カニのほうは、ガサッとにげる。そのはやいこと、どうしても、つかまりません。
ふと、きがつくと、むこうのほうが、ボーッと、明るくなってきました。おやっ、へんだなと思って、よく見ますと、このほら穴には出口があって、そこから、外の光がさしこんでいるのでした。ずいぶん、坂道をのぼったのですから、その出口は、よほど、高いところにひらいているものでしょう。
おばけガニは、おそろしい、はやさで、その出口にむかって、つきすすんでいきました。そこには、ちょうどトンネルの出口のように、まるい穴がひらいていて、まぶしいほどの明かるさです。
巨大なカニの、みにくい姿が、その出口に、まっ黒なかげになって、立ちふさがったかとおもうと、穴の外へ、サッと、消えてしまいました。
明智は、おどろいて、その穴にかけより、外をのぞいたのですが、ひと目みると、クラクラッと目まいがして、おもわず、首をひっこめました。
その出口は、たかいたかい断崖の上にひらいていたのです。きりたったような岩が、はるか下の方までつづいて、そこに、あわだつ海がありました。海面から何十メートルという高さです。