白昼の怪物
明智探偵は、そういう説明をしたあとで、賢吉少年と書生の戸田に、こんなことをいいました。
「この小箱をねらっているやつは、おそろしい悪ものだ。賢吉君のおうちへおくのは、心配なくらいだ。しかし、それは、わたしが、まもってあげる。だいじょうぶだから、安心してお帰りなさい。そして、またもとの石の下へかくしておくんだね。」
そういって、部屋のすみの、事務机の前にいって、小箱の中へ書きつけを入れ、もとのとおりふたをしめて、賢吉君に手わたしました。
賢吉君と書生の戸田は、明智探偵と小林少年に、あつくおれいをいって、いとまをつげ、おもてに待っていた自動車に乗りました。
自動車は世田谷の賢吉君のおうちに向かって走りだし、十五分ほどすると、大きなやしきのならんださびしい道にさしかかりました。両がわに、高いコンクリートのへいが百メートルもつづいて、そのへいの中には、大きな木がたちならび、ひるまでも、うす暗いようなところです。
そのコンクリートべいの谷間のような場所にきたとき、自動車がキーッというブレーキの音をたててとまりました。
「おや、へんなところで、とめるじゃないか。どうしたんだ。故障がおこったのかい。」
書生の戸田が、運転手に声をかけました。すると、むこうをむいていた運転手が、ひょいと、こちらをふりむいて、ニヤリと笑ったのです。
「あっ、きみはさっきの運転手とちがうじゃないか。いつのまに、いれかわったんだ。そして、きみはいったい、だれだっ!」
「こういうもんさ。」
運転手はふてぶてしい声で答えて、ニューッと、ピストルをさしつけました。
「あっ、それじゃ、きさまは……。」
戸田はびっくりして、となりの賢吉少年をだくようにして、まもりました。あいてがピストルを持っているのでは、どうすることもできません。
「なあに、きみたちの命をもらおうとはいわない。鉄の小箱さえだせばいいのだ。さあ、はやくだせ。」
戸田は、すきがあれば、自動車からとびおりて、にげようと、そっとドアのとってに、ゆびをかけました。
すると、あいては、はやくもそれをさっして、にくにくしく笑うのでした。
「ハハハ……だめだめ、にげようたって、にげられるものじゃない。ドアの外をよく見るがいい。」
はっとして、ガラス窓の外を見ますと、いつのまにあらわれたのか、窓のすぐそばに、ものすごい顔の男が立ちはだかっていました。手には、やっぱりピストルをかまえて、にやにや笑っているのです。それじゃ、こちらからと、はんたいがわの窓を見れば、これはどうでしょう。そこにも、おなじようなあらくれ男が、ピストルをかまえて、にらみつけているではありませんか。
三方からピストルを向けられては、もう、どうすることもできません。戸田は賢吉少年に、鉄の小箱をわたすように手まねであいずをしました。賢吉君も、しかたがないので、それを、前の運転手にさしだしました。
あいては、ひったくるように、それをうけとると、また、にくにくしく笑うのでした。
「ワハハハ……、かんしん、かんしん、きみたちは、よくいうことをきくねえ。それじゃ、これでゆるしてやるよ。きみたちの運転手は、うしろのトランクにおしこめてある。おれたちの姿が見えなくなったら、トランクをあけて、だしてやるがいい。そうすれば、また自動車を運転してくれるよ。」
にせ運転手は、自動車からとびだして、パタンとドアをしめました。そして、三人の男は、まるで短距離の選手のように、おそろしいいきおいで、むこうへ、かけだしていきました。